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短編

ヒロインが自滅する話

作者: 猫宮蒼



 ごふっ、と体内から軋むような感覚がした直後には吐いていた。これが食べ過ぎだとか体調不良による吐瀉物であったならうわ汚いな、で済んだかもしれない。けれども吐き出したそれは、赤い色をしていた。

 周囲にいた者たちから小さな悲鳴が上がる。

 男も女も関係なかった。まさか毒か!? なんて言葉が聞こえたが、血を吐いた少女はそれをただの音として認識するだけで精一杯で、次の瞬間には目の前が暗くなって意識は深く沈み込んでいったのである……



 結論から言ってしまうと少女は異世界転生者だった。

 そしてこの世界は少女の世界で乙女ゲームとして知られていた世界でもあった。


 転生したと気付いたのはまだ少女が幼い頃。母が死んだ時に父親であるらしい男爵家の者に引き取られた時だ。あれ、この展開どこかで……という既視感。そして思い出される前世での記憶。

 あっ、私ヒロインじゃん。

 そうして少女はそう、認識してしまったのである。


 その乙女ゲームに関して多くは語るまい。別段変わった内容だとかでもなく、可もなく不可もなく、割とよくある話、といってしまえばそれまでのもの。

 貴族たちが通う学園で主人公でもあるヒロインが様々な出会いを経て最後には相手と結ばれて晴れてハッピーエンド。捻りも何もない。なお悪役令嬢も存在する。あまりにもコテコテすぎてもうテンプレのやつ、で説明は大体終了するレベル。


 男爵家に引き取られた事でヒロインも貴族が通う学園へ行く事になってしまったわけだ。


 そのあたりはゲームのオープニングでさらっと語られるし、こうして転生した今まさにそのシーンと同じ展開だ……! と少女はある種の感動さえ覚えていた。ちなみにそのゲームの内容を転生してから数年経過してるのに鮮明に覚えている理由は、あまりにもテンプレな内容すぎて似たような話が乱立していたからというのもある。登場人物の細かなセリフ一つ一つまで覚えちゃいないが、話の流れというか展開は似たようなのを何度も見ているうちに察するようになるレベルで刻まれている。


 そう、この乙女ゲーム、ヒロインに対して悪役令嬢が数々の嫌がらせをし、それを耐えて乗り越えて最終的に悪役令嬢を断罪しつつヒロインが攻略対象と結ばれる話なのである。要約すると。


 どういうストーリーか説明せよ、と言われればテンプレ、の一言で済む。


 けれどもゲームと違うのは、ヒロインが異世界転生をした少女という部分だ。

 そして似たような話をある時は別のゲームで、ある時は漫画で、ある時はライトノベルで見てきた少女は一つの懸念を抱いていた。


 自分だけが転生者じゃない可能性。これである。


 例えば悪役令嬢が異世界転生者で、しかも原作を知ってるタイプだった場合。

 このままじゃわたくし断罪されてしまいますわ!? 冗談じゃない、なんとしてでも回避いたしますわよ! という流れになるわけだ。悪役令嬢じゃなくたってこれから先の未来でお前破滅するぞ、ってわかってたらそれを回避するのは当然だろう。


 例えば三日後貴方の家に強盗が押し入って遭遇してしまった貴方は死にます、という未来を告げられて三日後何の対策もしないで家にいるか? というような話だ。

 貴重品はある程度安全な場所に持ち運んで更に自分も三日後は家にいないようにするだとか、家の外で強盗が来るのを見計らって警察呼ぶとか逆に強盗が家に入らないようにそれこそ大勢の人を家に呼んでおくとか、それなりの対策をとるのが普通だと思う。

 本当かどうかもわからないふわふわな未来予知なら信じないかもしれないが、原作と言う形でこの世界の事を端的にでも知っていて、自分がその登場人物になっているとなれば信じないわけがない。


 少女はだからこそ、自分はこの世界のヒロインだと思い込んでしまったのである。

 そして、この手の話にありがちな悪役令嬢も転生していてこちらの妨害をしようとしたりする可能性も考えていた。

 少女は逆ハーレムルートを望んだりはしなかった。ゲームで見ていた時はイケメンに囲まれてウッハウハやないかーい、なんて思っていたけれど、実際に現実としてそれを体験しようとは思わなかった。


 確かに自分の周囲に色んなタイプのイケメンがいて常に自分をちやほやしてくれる、と考えればちょっと考えなくもないけれどそれはあくまでも画面越しに見ているから良いのであって、現実に常に自分の周囲にイケメンが侍ってる事を考えると流石にきついな……と思ったのだ。

 少女が知っているこの世界の原作とも言うべき乙女ゲームは全年齢だ。いたって健全な内容である。多少昼ドラチックにドロドロした部分はあるが。

 だが現状を考えるにここはほぼゲームの通りに進行するとはいえ現実。万が一逆ハールートに突入して常にイケメンたちとイチャコラしないといけないとなると、最終的に行きつく先はR18的展開では? という部分に辿り着くのは当然だった。

 少女だって前世それなりの年齢まで生きたのだから、そこを考えないはずがない。


 年齢制限ありの漫画や薄い本でそういうのを見る分には全然構わないが、じゃあそれと同じ体験をしろとなったら流石に遠慮したい。少女はそういうタイプだった。

 いや結婚して旦那と子作りするのは問題ないけど逆ハールートだと旦那複数って事よね? え、一人産んでおしまいとかじゃ終わらないでしょそれ。とりあえず一通りの旦那の子産まないといけないやつでは? 身体ボロボロになるわ……

 少女はそこら辺の事は考えられる程度に現実を見ていたので、逆ハールートは何があっても選ばないつもりでいた。


 だからこそ、攻略対象の一人に狙いを定め、彼を落とそうと試みる――前に血を吐いて倒れたわけだ。


 意識を失った少女が気付いた時には、自宅に送り返されていて入学したばかりの学園を退学していた。

 その事実を父から聞かされ、少女は大いに混乱した。ゲームのオープニング通りに進んだはずなのに、こんな展開はなかったのだから狼狽えるのも無理はない。ゲームでもバッドエンドはあったけれど、それは好感度を上げていく途中に存在するイベントでの選択肢を間違えた場合であって、こんな入学早々入学を取り消すような展開は絶対に存在していなかった。


 バッドエンドの中で悪役令嬢に敗北して学園を去る展開もあったけれど、それだって話の終盤だ。攻略対象の好感度が若干足りずに悪役令嬢に軍配が上がってしまってヒロインに様々な冤罪をかけられて追放される。そういうバッドエンドの時以外で自宅に戻る展開はなかったはずなのだ。


 どうして……? 悪役令嬢が仮に同じ転生者だとして、自分が断罪されないために色々回避しようとしたとして。それでも仕掛けるのが早すぎる。むしろどうして私は血を吐いたの……? まだ悪役令嬢にも出会う前だ。何かを仕掛けるにしても、どういう理由で何を仕掛けたというのだろうか。


 未だ混乱の中から抜けきれない少女に、父はそっと指輪を差し出した。

 これが攻略対象からのものであれば意味を理解し喜んだだろう。けれども実の父。一体何? と思っていれば、この指輪をつけるようにと言われる。

 拒否するにしても、有無を言わさぬ迫力があった。お前のためなんだ、つけなさい。拒否できない圧力があった。つける指はどこでもいいと言われたので左の中指にはめる。同時に、ぎゅん、と何かが閉じる感覚。


「お父様、これは……?」

「それは魔封じの指輪だ。一度つけたら外す事はできない」


 装備してからそれが呪いのアイテムだって告げるのどうかと思います! と叫びたくなったが、そんな事を言える雰囲気ではなかった。どうして、とただ呆然と言葉を漏らすのが精一杯で。


 どうして、というそれに対し、父は告げる。

 お前は魅了魔法を使ってしまったからだ、と。


 乙女ゲームのヒロインでもある主人公は、実はなんとも珍しく光と闇の属性の魔法を扱える希少な人物であった。とはいえ、普段は光属性だけを使う。だが、ゲーム開始した直後、つまり学園に入学した直後に実はヒロインは無意識に闇魔法に該当する魅了魔法を使っていたのだ。これはゲームクリア後のオマケで知る事ができる内容だ。魅了魔法といってもちょっとこっちに向く感情が好意的になる、くらいでいきなりヒロインちゃんしゅき……みたいな何もしてないのに一方的にこっちに惚れるようなものではない。


 けれども、オマケで知った設定を鑑みた上でゲームを再びプレイすると、無意識とはいえもしかしてここでも魅了魔法が発動したのでは……? と思えるような部分がいくつかあった。

 とはいえそれでも選択肢を間違えるとフラグは折れるのでバッドエンドに行く事にもなるのだが、少女は自分がヒロインであるという自覚をしている。

 つまり、あの時点でゲームのヒロインは無意識で使ってしまった魅了魔法であるが、少女は意図的に使ったのだ。ゲームと同じ展開にしておいた方がイレギュラーは減るという理由で。

 そして意図的に使った事で恐らく無意識に使うよりも威力が強めになっていた。


 もしかして、そのせいで魔力を大量に消費してしまったのかもしれない。だから血を吐いたのか……いやでもそれで退学ってどういう事なの……?


 まだ完全に混乱から抜けきっていない少女に、父は同情を含んだ眼差しを向けた。


 魅了魔法は禁術とされているもの。無意識に発動してしまう場合は仕方ないが、意図的に発動した場合それは大罪となる。無意識であれば自分が使えると思っていない可能性もあるためまだ情状酌量の余地があるのだが、意図的であった場合はいかなる理由があろうとも罪なのだ、と。

 ましてや術を発動させた場所が悪かった。

 貴族の子息令嬢が通う学園だ。そんなところで魅了魔法を使ったとなれば、様々な事が考えられる。


 確かに父の言う通りだ。

 少女は攻略対象との親密度を手っ取り早く上げるついでに周囲の人物の好感度も上げておけば味方にならずとも敵にもならないだろうと保険の意味で発動させた。悪役令嬢にもその効果が及べば、敵対する事はなくなるのではないか、とも。

 仮に悪役令嬢が転生者であろうとなかろうと、魅了魔法でこちら側に引き込んでしまえば障害はなくなる。そういう打算もあった。


 ゲームでは断罪された悪役令嬢は最終的に国を追放されるはずだったが、敵にならなければ追放される事もない。少女はあくまでも攻略対象とくっついて最終的にそこそこ贅沢ができる暮らしができてそれなりに幸せになれればいいかな、と思っていたのでそのためとはいえ悪役令嬢を国外追放まではやりすぎでは……とも思っていたのだ。ならば、最初からこっち側についてもらって穏便に婚約を破棄ではなく白紙撤回してもらえばいいのでは……とも。


 だがその目論見は初っ端から潰えた。


 父の話ではあの学園には一定の魔法に関する結界のようなものが張り巡らされており、禁術を使った者はそれにより判明する。そうして使用者はいかなる理由があったとしても学園を去る事になるのだと。


 そんな話知らない!! 少女はそう叫びたかったけれど、下手な事を言えばより自分の立場が悪くなるのは明白だ。いや、実際学園の結界、という部分に覚えはあった。けれどもそれは、少女が主人公である時代よりも先の話――つまりゲームもシリーズものではあるが続編の続編のそのまた続編くらいに出てくるものだったのだ。

 その頃になると時代も大分進んでいるのでこの学園も大分様変わりしている。


 その結界がまさか今のこの時代に存在するなんて……!


「わ、わたし、せめてみんなと仲良くなれるといいなって……そう思ったけど、まさかそれが魅了魔法になるだなんて……ちょっとしたおまじないみたいに願ったけれど、それが禁術になるだなんて……」

 精一杯しおらしく口にする。

 まぁ確かに意図的に使ったのは事実だけれど、いきなり好感度マックスレベルで魅了はできようはずもない。敵になりそうな人物を最初からこっちに取り込めればな、くらいの打算は確かにあった。けれどもそれを表に出さずに少女は精一杯そんなつもりはなかったのだと訴える。


 その訴えに父もまたうんうんと頷いてくれた。けれどもそれだけだ。


「わざとじゃなくてもその願いで発動するとなるとやはり厄介だ。魔封じの指輪をつけさせておいて正解だったよ。そうでなければお前はもっと酷い目に遭っていたかもしれないね」


 まるで諭すような口調。もっと酷い目……と瞳を潤ませて問えば、父はそうだ、とまたも頷く。あの学園に通っているのは貴族の令息令嬢だけではない。王族も数名ではあるが存在しているのだ。

 少女が狙っていた攻略対象ではなかったけれど、ゲームでは確かに王子も攻略対象として存在していた。


 もし、その彼にも魅了魔法がかけられていたとしたら。

 その場合は本人が例えそんなつもりはなかったと言っても王家に仇なす存在となってしまう。もしそうなっていたのであれば、その時は学園を退学だけでは済まず、場合によっては処刑も有り得たのだとか。


 父のその言葉にゾッとした。ゲームではバッドエンドでも精々追放だ。命まではとられない。けれども少女は危うくその命をとられる状況に限りなく近づいていた、と知らされて思わず自分で自分を抱きしめるようにして二の腕をさすっていた。


 入学したその日に退学だなんてとんだ醜聞だ。けれども、それでもそれだけで済んでよかったのだと父は言う。最悪少女は処刑されていたかもしれないし、更にはその身内でもある父にも何らかの責を咎められていたかもしれない。

 少女にとってこの世界はゲームと同じものだと思っていたが、それでも自分を引き取ってそれなりの教育をしてくれた父をゲームのキャラとして割り切るまではいかなかった。そう思えるようになったのは単純にゲームにはなかった自分の過去の暮らしがあったからだ。ゲームではちょっとした回想シーンで使われていたような部分ではあるが、それもしっかり少女は体験していた。この世界に生まれてから今の今までの生活を、全部ゲームだから、で済ませられなくなっていた。それでもまだどこかでゲームだ、という感覚は抜けきってもいなかったのだが。


 学園に通えなくなった事に思う部分がないわけではない。けれども、ごり押しで再度通えるようにしてもらおうとしても無理だろうし、仮に通えたとしてもその時の少女の立場は学園内でロクな味方もいない針の筵状態だろう。始まる前から終わっていた……言ってしまえばそれだけの話。



 けれども、と少女は疑問に思う。

 学園の結界はシリーズのもう少し先のゲームで出てくるものだ。この時代の学園にはあるはずのないもの。

 もしかして悪役令嬢が何か手を回して……? とは思ったが、いくらなんでも悪役令嬢にだってできる事とできない事がある。あの結界がマトモに使い物になるまでにかなりの試行錯誤が必要となったと後のゲームで語られていたし、例え悪役令嬢も自分と同じ転生者であったとして、そんな簡単に実装できるものではないはずだ。

 生まれたその時点で既に転生したという意識があったとしても、そこから人を使って結界に関しての研究だとか実装に至るまでだとかをするにしても、そんな短期間でできるはずがないのだ。仮にできていたとしたら、もっと画期的なニュースとして市井にもその手の話が流れていてもおかしくはない。だってそれは、貴族の威光を知らしめるものでもあるのだから。

 いずれ、学園だけではなく町や村に応用して魔物を寄せ付けない結界を作れるかもしれない……という希望の光でもあるのだから。

 だが少女は知らなかった。知ろうとしなかったわけじゃない。情報は大事だと知っている。だからこそ、些細な噂話であっても少女は軽んじたりしなかった。


 だからこそ、少女はその疑問を口にした。

 そんな凄い結界があるだなんて、全然知らなかったけれど一体いつから……? と。


 父の口から、その結界は数十年前に実装されたという言葉が出てきて、そこで少女は悟った。


 結界が実装されるようになった出来事も父の口から語られて、そこまで言われれば理解するしかない。



 かつて、このゲームの時代より更に昔に魅了魔法にかかってまんまと魅了された王子がいた。

 彼は己の婚約者に学園の卒業パーティーで魅了者である相手を最愛の者として紹介し、婚約者へ婚約破棄を叩きつける。魅了者に対して若干の嫌がらせをしていた婚約者はそれらの罪を針小棒大に語られてその場での婚約破棄の後、貴族としての資格を剥奪されて追放されたらしい。

 だがしかし、その後魅了魔法の効果が切れて国は大騒ぎになった。

 残されたのは魅了以外の取り得のない妃としても使えない女と、魅了によって骨抜きにされて王としても頼りないかつての王子。国はすっかり傾きかけて、あわや滅亡の危機にまで瀕したのだとか。

 けれどもどうにか滅亡する前に魅了の効果から抜けた王は魅了者を魔女として処刑。その後は弟に王位を譲り自らもまた……



 平たく言ってしまえばよくある婚約破棄物の話である。


 けれども少女はそこで「んん?」と思った。

 確かにゲームでもそういう過去の事を語られていたシーンはある。けれどもその国は確か亡びたのではなかったか。そしてその後に新たに建国されたのが、今の国だったと思うのだが……


 しかしその話を聞いて理解する。


 転生者はそちらにいた。恐らくはこのゲームのシリーズをプレイしただろう転生者が。

 そして国の崩壊を直前で防いでこの先のシリーズとして始まるだろう乙女ゲームの舞台となる学園に早々に結界を敷いたのだろう。そう考えれば納得できる。



 なんだ、それなら最初から勝ち負け以前の話じゃない……


 他にもいるだろう転生者が悪役令嬢であるならばまだ対抗策はあった。けれども、転生者がいたと思われるのはもっとずっと過去の話だ。過去にどうやって挑めというのだ。少女の敗因は自分以外の転生者がいる可能性を考えていたくせに、それが同年代に存在すると信じて疑わなかったことである。


 勝負にもならなかった。戦う前から敗北を喫していた。

 だがしかし、そう考えたとしても最早悔しいだとか思う事もない。


 だって、仮に自分もその時代に転生していたらそうしたかもしれないのだ。自分が使える側だからいいけれど、そうじゃなければ魅了魔法はとても脅威。事前に防げるなら防ごうと考えても何もおかしくはない。むしろ当然だ。


 悪意をもって魅了魔法を使った、と思われていなかったのが救いだった。

 学園に通う事はできなくなってしまったけれど、父はまだ少女を見捨てていない。

 自分の知るゲームのシナリオ通りに進む事はなくなってしまったけれど、ゲームじゃないから少女の人生はこれから先も続いていく。

 他と比べると珍しい光と闇魔法も封じられてしまったけれど、いっそこれでよかったのかもしれない。


 それに、と少女は考える。

 いくら自分が知ってるゲームの世界だからって、ゲームの通りにやればどう足掻いても悪役令嬢とやり合うことになったのだ。ゲームの時はなんとも思わなかったけれど、今は自分が直接画面も何もない状態で対立すると考えると……

(いや無理だわ。ヤンキーに絡まれる以上におっかないわ。精神的に圧力かけられてる状態でゲーム通りのセリフとか言える気しないわ私の神経そこまで図太くないし……なんでヒロインやれると思ってたんだろ私)


 なんだか憑き物が落ちた気分だった。


 狙っていた攻略対象と出会う事もなく学園生活は始まる前に終わってしまったけれど。



 それはそれで、まぁ、良かったんじゃないかな。少女はそう思って、父に自分のこれからを尋ねたのであった。とりあえずゲームのバッドエンドより酷い事にはならないだろう。そう信じて。




 ――実際、少女のこれから先の人生はゲームのようなドキドキハラハラなイベントこそなかったものの。

 まぁ概ね身の丈にあった暮らしであった事だけは記しておこう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 転生者が過去に居たというのは、比較的数少ないネタで新鮮でした。 前に「作品本編の100年以上前の王国建国時代生まれで、初代学園長になって、学園内に本編で必要な各種のギミックを仕込みまくる…
[一言] 人間、身の丈にあった生活が一番だな。 そう考えると、リアルで逆ハーしようとする転生者は関わりたくないなぁ。
[一言] 酷い目に合わなくて良かった。
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