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シュレディンガーの雪宮

「……はぁ、何も分からない」


 俺は机に頬を付けながらため息を吐き、放課後で部活に行く連中、遊びに行く連中を眺めていた。


「片桐今日うちに遊びに来る?」

「っえ? 俺等も行っていい? 雪宮の家俺等知らないから興味あるんだけど」

「は? 駄目に決まってんしょ、何されるか分からないしキモイって」


 片桐と雪宮は男連中と女子生徒数名と楽しく雑談しながら教室を出ていく。


「これが……普通の高校生活か」


 今だ教室に残ってソシャゲやら今度どこに遊びに行くのかの話をする生徒たちに混ざれるわけもなく、一人で俺は呟きながら席を立って下校した。


「なるほどな、なるほど、悪くないのかもしれない」


 自分に言い聞かせるようにしながら友達と広がって下校する生徒達の間を縫うように帰り道を歩く。


「……やっぱりスタートダッシュを躓いたのが痛かったか。精神的にも身体的にも」 


 いつのまにか、女子を助けて事故った場所まで戻った俺は自分が轢かれた場所辺りを見ながら呟く。


「普通に考えてアニメの2期で突如参入する新キャラとか苦手な俺が、既に出来上がったグループに入れる訳が無いよな」


 また駆け足で渡る人に釣られて赤信号で渡りそうになっている女子生徒が居たので今度はわざわざ危険を冒さずともいいようにわざと邪魔するように前を遮る。


「はっ? じゃま、独り言もキモイ、退いてくれますか」


 ぶっきらぼうに女子生徒そう言って俺の体を押し退け、またろくに信号を見ずに渡ろうとするので仕方なくその子の襟元を引っ張った。


「なに、立派な痴漢だと思うんですけど……警察呼びますよ。なんなら今チャットしてる先輩呼びますよ」


 面と向かって見るとショートでこれまたカースト上位っぽいチャラチャラした生意気そうな同じ学校の女子生徒。

 なんだこの信号は、不注意の人間を食らう魔の横断歩道かよ。というかギリギリで毎回走って渡る人も多すぎるんだよな、その先に駅があって電車に間に合わないのも分かるけどだったらもっと早く出るとか工夫した方が良い。


「信号、赤」


 無駄話して誤解されてはいけないと俺は簡潔に言いながら信号を指さす。振り返った女子生徒の目前を猛スピードのトラックが通り過ぎ、髪がなびく。


「……あっそ、だから? お礼が欲しいんですか?」


 お礼を言うこともなく、その女の子は「まだ何か用があるの?」とでも言いたげな冷たい目線を向けて来た。


「はぁ、そんなんじゃないです。先輩と仲良くなるのも良いけど、死んだら元も子もないですよ。俺も轢かれたんで」


 一応証拠として傷が残った左脚のすそを上げるが女の子は興味が全く無いのか見ることもなく、信号が変わったのを確認すると足早に渡っていった。


「…………はぁ、助けて気分が悪くなるってどういうことだよ」


 静かにすそを下げ、助けなければよかったかなと思いながらも人助けなんてこんなもんかと諦め、これから3年間は暮らすことになるアパートへ着く。


「この物件、外観だけが問題だよな……」


 上下3部屋の合計6部屋あるけれど、このアパートを借りているのは俺以外に一人しかいない。

 理由は明白でボロボロでいつ崩れても可笑しくなさそうな外見をしているからだ。


「よし、ビーフシューはこれぐらいかな。圧力鍋で肉もトロトロに出来たし我ながら上手いな、そう思わない……か」


 そう言って横を見るも誰もいない、この部屋には自分しかいない事実に気づいて少しだけ胸が痛くなる。

 あぁ……料理を作っていると自分が実家に戻ったような気分になっていけないな。ここには料理を褒めてくれる人も食べてくれる人もいないんだから。

 自分だけが食べるならこんな量作る必要なかったな、時間もかかったし腹いっぱいになるならこれからは何でもいい気がしてきた。


「学校でも孤独で……家に帰っても孤独って……」


 入院期間で馬鹿みたいに部屋に差し込まれていた出前などのチラシが目に入る。もう、適当に外食してればいっか。


 チラシを見ながらそれも買い物で出たゴミと一緒にゴミ袋に捨てると袋が一杯になり、ゴミの廃棄場所を見て無かったことを思い出す。


「ゴミ捨ては妹の仕事だったのにな」


 っく、駄目だ、ノスタルジックになってはいけない。そう自分の頬を叩いて気分を切り替えて俺はゴミ袋を持って外に出た。


「そう、なんかめっちゃいい匂いしてんの、ウチのアパート隣に誰か引っ越しt――」


 なんかめっちゃ聞き覚えのある声と話し方をする奴が近づいてくるな、そう思っていると階段を上がりながらスマホを持って誰かと話をしていた人物、雪宮と目が合う。

 いや、合った気がした。

 合ってないかもしれない。

 合っていない可能性の方が高い気がする。

 じゃ合ってないってことだよな。

 俺は直ぐに頭を引っ込めて自分の部屋に戻ったから今になったら分からないし確認したくもない。

 これはつまり俺が認識を拒否している間、現状は目が合っている世界と合っていない世界の二つが両立しているシュレーディンガーの雪宮ということにならないか?

 頼むから合ってないほうの物理世界になってくれ。

 

 

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