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人が油断せし、黄昏時

「停学、ですか」


 俺のオウム返しに磯崎先生は頷き、


「女子生徒数名が濡れて着替えを貰ったことを保健室の先生、それと図書室にいた多数が自供を証言している」


 つまらなそうに事実を並べ立ててくる。


「当然、世間や親御さんが責め立てる前に然るべき処置を学校は取らなければいけない。だから校長は7月末まで、つまり夏休みまで2週間の停学処分を君に下した」


 話したい内容は全て伝え終わったようで磯崎先生は小首を傾げ、


「随分と落ち着いているな、想定内か?」


 ニヤニヤと意地の悪い笑みを浮かべてきた。


「これでも内心焦りまくりですよ。もう追い討ちするような情報はないですよね?」


 期待していた反応ではないと退屈そうに肩を上げた先生。

 それを返答とみなした俺は膝に手を当て、そっと立ち上がる。


「あー……ならこれも伝えておこう、次があるなら退学だぞ。精々いじめた事を反省するといいさ」


 帰ろうとドアへ手をかけたところで嫌味がたっぷり含んだ忠告に、思わず立ち止まった。

 しかし、『歩け』と自分に言い聞かせ、息をついた俺は教室からそっと静かに出た。




「っぇ、何してんの、俺」


 特別教室が連なる廊下に人がいない事を確認してから誰に言うでもなく、そっと自分の手のひらへ呟く。

 さっきは人前ってのもあって無に達していたが、解放された今は心臓のバクバクが止まらないほど現実を直視している。


「普通の学校生活が第一目標、それなのに退学に最も近い不良生徒になってるじゃねぇか」


 手のひらで自分のおでこを叩きながら罰し。

 なんでこんな事になったんだと、ため息を吐きながら窓へ寄りかかる。


「あぁぁぁぁぁぁっそうだよ、退学ってことは親にも連絡がいくよなっ」


 少なくとも妹には兄が虐めている、そんなのは嘘だってすぐバレる。

 適度にリアリティある良い嘘を考えなきゃ、またからかわれて馬鹿にされてしまう。


「あぁ……黄昏時にめっちゃ黄昏てる」


 サッカーの玉がグランドを転がり、次から次に人から蹴り飛ばされる。

 俺もこんな感じの連鎖によって、この結果にゴールされたんだろうな。


 香月を助けたせいか、片桐にあろう事か協力を求めたせいか。

 それとも登校初日にスマホを睨む女子を助けたせいか、諸悪の原因である小学校の時か。

 原因を探ろうとするも思い当たる節が多過ぎる上、今更どうしょうもない。


「目指すべき普通は……もしかしたら何も面倒に関わらない事かもしれない」


 何事もない、無難な関係というのが一番肝心かもしれない。

 少なくとも初日に片桐が話しかけてきた時点で知らんフリ、忘れたフリをしていれば良かったんだ。


「そういえば……なんで片桐はすぐに分かったんだ? 近所の学校ならともかく遠方、普通なら顔が近い別人か忘れている」


 言いふらしたのが本人ではない以上、罪悪もそれほどないはず。

 何より加害者は被害者を忘れるのが定石、覚えているなんて不自然だ。

 もしかして、俺が片桐の認識を間違えているのは……それより前?


「あー、そうだ、そうだよっ」


 思考が脇道に逸れ始めた時、ふと唐突に名案が思い浮かぶ。

 そして反射的に俺は顔を叩き、ガラスへ映る自分の口角が上がったのが見えた。


「今からでも遅くない、もう誰とも話さず、無視して関係を悪くさせればいい」


 関係がなければ、そもそも問題は起きない。

 問題が起きなければ変にはならず、普通の学校生活になる。

 片桐や雪宮、香月、唐沢、神宮寺、柄山などの顔を浮かべ——。


「えぇ? なんでさ、あれも清楚な感じで可愛かったのに」


 ガラガラっと奥のドアが開く。

 すると、物理教室の2個隣にある美術室から聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「いや、あれは必要ないし、もうしないって決めたの」


 片桐が廊下に出てきて、少し遅れてママと呼んできた子が黒長髪のカツラを手に後を追いかける。

 静かにしていたこともあり、彼女らは俺の存在には気づかず、反対側へ向かって歩いて行く。


 あー、確か手伝うとか言っていたか。

 昼休みに残された時間じゃ直しきれなかったから、放課後も手伝ってあげたようだ。


「1回だけ、1回だけで良いから見せてよぉ」

「……分かった、じゃ最後に1回だけね」


 これは見つかったら覗き見だの、キモいだの言われかねないな。

 培った危機察知能力に従い、側の階段へ向かって降りようと思った。


「ぉぃぉぃ……一体こりゃなんの、冗談だよ」


 されど視界の隅で捉えた姿に思わず立ち止まり、間違いなく人生で最も目を見開いた。

 なぜなら、間違いなくそこに立っていたのは————登校初日に助けた黒髪の子であったのだから。

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