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すり合わせ

「暇なのにここで縛り付けられるのも辛いでしょうし、私は本を読みたいなと思ってたので図書変わりましょうか?」

「っえ……まじ? 変わってくれるならありがたいけど……あっ、じゃ今度お礼にどこk――」

「良いです、良いです。その代わり何か困ったときに頼らせてくださいよ」

「まぁ、それならそれで俺に出来ることなら言ってくれ! 喜んで手伝うよ」


 ウィンクしながら貸しを作っていく香月を横目に、俺は他に誰もいない静かな図書室で本を読みながら人払いを終えるのを待っていた。

 流石に時間が無くなり、授業が始まりそうだったので放課後にこの場所で再び集まることにしたのだ。


「そういえば……そのローテションに俺っていつ組み込まれるんだ?」

「毎回、月末に変えたりするからその時だと思いますよ。いつまで読んでるフリしてるんですか?」


 向かい合うように座ったと思ったら読んでいないと決めつけられた上、ラノベを強引に取り上げられる。


「いま卒業式に散って入学式に花が咲く桜を開発する感動シーンだったのに」

「これ、食人が根付いた異世界に転生する話みたいですけど」


 動きを少しだけ止めた香月だったが、本へ視線を向けると直ぐに裏のあらすじを見せつけてくる。

 数秒の沈黙の後、俺はまるで聞こえなかったように無視を決め込んだ。


「耳聞こえない人でももう少しマシな会話できますよ、流石ですね」

「方法はともかく、どんな結果を望んでるんだ? SNSに本人名義で淡々と性格が悪いことでも呟けば満足か」


 俺の願いを聞いたからか、皮肉が効いた褒め言葉を返してくるがそれも同じように無視すると、ようやく香月も気持ちを切り替えられたのか小さくため息を吐いた。


「で、そんなことして何になるんですか?」


 性格の悪いこいつなら気づけると思ったけど、まるで意図が分からなかったようで首を傾げながら早く説明して、とばかりにテーブルを指で鳴らす。

 最初から無意味だと否定してこなかった辺り、一応は理由はあるはずって信頼はされているのかな。


「今の時代、企業が採用する時にデジタルタトゥーが無いか検索ぐらいはされるからちょー困るだろ。不採用の理由なんて大抵は知らされないし、特定される情報を書かなければ見つかっても犯人だとバレる問題もない」


 途中から察したようで「うっわ、普通に名誉毀損じゃないですか」と引き気味に少し距離を取った後、おもむろにスマホを取り出し始める。


「それ訴えられたらどうするつもりですか」


 しばらくして、無かったから安堵したようにスマホをしまって香月がもしもの話をし始める。


「内容に注意すればいいし、例え訴えられでも平和的に和解できるだろ」

 

 スマホの画面越しで観察していた時に撮った香月が水を掛けられた動画を見せながら合法的で、一番過激な素晴らしい復讐を提案をしたのに、お気に召さなかったようで微妙な顔を浮かべていた。


「恨み恨まれるようなことじゃなく、これ以上悪化しない普通の関係になるならいいんですよ。それに2年後とか、保知さんやる気ありますか?」

「暴論でも正論でも、相手の行動を正そうとした時点で相手へ『攻撃をした』と認識するべきだし必ず恨まれるだろ」

「はぁぁぁー、そんなことは最初から分かってますよー。他、他はないんですか?」


 項垂れるように香月はテーブルへ顔を突っ伏しながら更に案を要求してくる。


「他か、ならもう自発的にやめさせるしかないだろ」

「自発って、次は10年後の同窓会に笑いながら謝るまで待てとか言いませんよね」


 そう香月は小馬鹿に笑うとテーブルの下から足で膝をつついてきた。


「俺は褒められたいと言ったはずだが、お前はさっきから文句しか言って無いよな?」


 いつもよりトーンを少し下げ、話が違うことを指摘すると香月の身体が少し固まる。


「ほら、褒められるのもギャップが有ったほうが嬉しんですよ。体育系のコーチとかも試合後に優しくなったり褒めるじゃないですかー、ああいう手法です」


 右上に視線を向けながらゆっくりと体を起こしたと思ったら指を立て始め、


「褒められ慣れてない保知さんじゃ分からないかもしれないですけど、数多く言えば安っぽくなって逆に気持ち良くなれないんですよ。ばっちり褒めますんで任せてください」


 と香月は香月なりにしっかり考えていたことを教えてくれる。


「そうか……それなのに俺は、お前がてっきり成功報酬だと勘違いして好き勝手言ってるのかと思ってた。すまん」

「っはは、違うに決まってるじゃないですか~」


 自分勝手に勘違いして感情を出したことも含め、頭を下げて謝ると心優しい香月は笑って許してくれた。


「え、ちなみに確認なんですけど、それは失敗して何も変わらずに落ち込んでたとしても私が保知さんを褒めなければ的な感じですか?」


 一拍置いて笑顔の消えた顔で当然のことを冷静なトーンで香月は確認してきた。


「うん、それはそうに決まってるよ」

「いやー、保知さんの考えはさっきから凄いですね。普通じゃないですよ」


 オブラードに包んだ批判をしてくる香月に、きちんとすり合わせが出来て満足になった俺はそれを真に受けて照れたような顔で返した。

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