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スタートラインにいない彼女とゴールラインにいない彼

 頬をかきながら恥ずかしそうに反応をうかがってくる片桐。しかし、それをやった理由が俺には分からない。

 

「なんで俺の机を拭いたんだ? それも3か月間」

「んー、理由かぁ」


 窓に背もたれながら天井を見上げて片桐は言葉を考え、


「だってさ、学校の机って唯一落ち着ける自分の居場所って感じじゃん。私はそれをぼっちから奪い続けてきちゃった訳だし」


 『あんなことあったのにまだ登校出来るとか、俺ぜってぇ出来ねぇっはは、』顔も思い出せない奴の笑い声がフラッシュバックする。


「だからさ、1回ぐらいは奪うんじゃなくて守れないかなって」


 片桐は目線を俺の方に向けてくる。


「戻った時に埃被った机があったらさ、自分なんて居ても居なくてもいいって思っちゃうじゃん。だからちゃんと自分の場所があるんだ的な? 上手くは言えないんだけど、そう思ってもらえたらいいなって」


 俺は少し驚いた、いやかなり驚いた。

 初日で告白の話題を出さないことだけでも成長を感じていたのにあの片桐が後悔はおろか気遣いの化け物みたいになっていたのだから。だが、それでも引っかかることはあった。


「……バレないようにしていたのは何でだ?」


 誰かに見てもらわなければ、気づいてくれなければその行為は称賛されない。だから、誰もわざわざ善行を隠したりはしない。人間なのだから褒めて貰いたいのは当然だ。

 しかし、片桐はそれを行っていた。先生や生徒たちの好感度も上がりそうなのに隠したのだ。その理由を俺は知りたかった。


「だって、バレたら昔みたいにからかわれることの繰り返しじゃん。それに別に褒められたいとかじゃなくて自己満足だしね」


 もうあれから4年か、俺が俺で変わってしまったように彼女もまた、


「……変わったんだな」


 俺が呟くと「何も、変わってないよ」とほほえんだ片桐は何やら覚悟を決めて息を大きく吸う。


「ねぇ……正直に言って欲しいんだけど私の事嫌いでしょ?」


 好きでも嫌いでもない、そう茶を濁すことも出来た。だが、片桐の覚悟を決めた目を見ると今回だけは本音を言ってみてもいいかもしれないと思った。


「あぁ、嫌いだ。大嫌いと言っても良い」


 伝え終わった後の片桐の表情が何を現しているのか、俺には分からなかった。悲しげにも見えたし、笑っているようにも見える顔。


「っは、はは……まぁ、そうだよね。私もあんなこと言われたら嫌になるし……雪のことといいずっと昔から間違えてばっかりだなぁ」


 落ち着かない様子で片桐は再び自分の髪の毛を指でクルクルと弄り、息をゆっくりと吐き出す。


「最初はね、この学校にいるって知ってあの事を謝ろっかなって考えたんだよ。でも、ごめんねって言ってそれであーあ、スッキリしたって気分が良くなるのは自分だけだと思ったの」


 そう言い終わった片桐は両手を後ろにしながら身体を前に屈ませてキュッと靴を鳴らしながら身体を俺の方へと向け、


「だから絶対謝らない、過ちは無かったことになんてしない」


 非難も覚悟した強い意志を瞳の奥に輝かせ、


「でも、その上で私のことを好きとまではいかなくても普通ぐらいまでにして見せる。そこで私は初めてスタートラインに立てると思うから」


 今まで見てきた人間の中で一番綺麗と思うほどに陰りがある笑顔(エンジェルフェイス)で言い放った。


 恐らく彼女は彼女なりに後悔し、過去と決別するために清算しようとしているのだろう。


 その理由も考えればわかる、告白を無かったことにしたのとスタートラインという言葉。

 彼女は誰かに恋しているが俺という過去の存在でそれが踏み出せないでいるのだ。何もかも気にせず軽い謝罪で先に進み、好きな人と笑うこともできたはずなのに。

 


 俺の初恋だった人は思ってたより律儀で人が出来ていたのかもしれない。



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