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0-9 現人神、神明を詣でる

 物騒な一の町銀座を抜けた先、大きな十字路の左向こうには石造りの立派な建物。どこの国会議事堂かと驚くそれが、一の町の役場だった。

 そこは目的地だったから、静さんは当然向かって行こうとするが、思わず制止した自分。だって。


「あの、あれ…は何でしょうか? 静さん」

「神明明神です。この町の守り神…って、祐子様の前で大変な失礼を…」

「謝ることはないと思いますが…」


 左折した先に建つ大鳥居。さすがにスルー出来ないので確認すると、土下座の勢いで謝られてしまった。

 静さんにしてみれば、現人神の前で他の守護神を紹介するという大失態。ただし、自分は守護神だなんて思ってもいないわけで、そこはどうでもいい。

 それより、神明明神って何? 神の明神? 意味不明過ぎない?

 あまりに気になるので、役場を後回しにして参拝に行くことにした。


 真っ赤に塗られた大鳥居の先。砂利が敷かれた参道は、どう見ても杉にしか思えない木々に囲まれている。

 闇はこの星を、日本をベースに創造した。だから自生する樹木や草もそうなんだろう。


「静さん。この大木はスギですか?」

「もちろんです。何でも樹齢千年を超えるものもあるとかで…」


 生まれて百年の星に樹齢千年の木があったらマズい。ということは、この星の人類は、百年しか歴史がないことを知らされていないのだろうか。なあ!?


「だんだん呼び方が横着になってない? 神の自覚?」

「そこまで敬意をはらう必要はないと学んだだけ。それで?」

「はぁー、祐子は横暴。出逢ってまだ二十四時間経ってないのに」

「尻拭いさせる横暴神が何言うの」


 既に何度目か分からない闇召喚。確認すると、人類が百年前に創造されたことは知っているという。

 最初の数百万人は、親もいない状態で出現させられた。だからその不自然さをごまかすのも無理があった。まぁそれは分かる。


「もっとも、みんな昔のことはよく覚えてないと思うよー」

「百年前だからってこと?」

「まぁ………、それもあるかな」


 闇が言うには、創造された瞬間の人類は、自我が曖昧だった。はっきり理解出来ないけれど、要するに魂がない状態を指すらしい。

 二十四時間、ただ夢を見ているような感覚がしばらく続き、その間の記憶はほとんどない。その記憶のない間に、町の道路や建物も用意され、人々はぼんやり神の奇跡を信じている。


「創造された世界の住人は、いつだって夢と現の境界が分からないままなのよ」

「いい話みたいにまとめないで。創造は勝手な行為」

「でも、だから生まれなかったら良かったと思う?」

「………それを聞くのは卑怯」


 玉砂利の参道の先に聳える仁王門。日本をモデルにしておきながら、日本が捨て去った神仏習合。

 ノスタルジー? 違う。そんな過去は思い出しもしないから。悪意でも無邪気でもなく、ただ神は創造出来るからした。それだけ。


 仁王門…だと思ったら、仁王の代わりに巨大なわらじ、それともつつがむし?、分からないけれどボロボロの塊がある。そしてどこからか、小気味よく叩くリズム。森に囲まれた社にキツツキなんて、これが意図的だったら造り込み過ぎ。

 門をくぐった先は広場になっていて、正面に建つのは桧皮葺の御堂。屋根の重さがいい。だんだん楽しくなってきた。

 そうして機嫌よく御堂の中を覗くと、薬壺を手にした仏像が見えた。軽く二メートルはある立像で、見事な彩色だ。


「薬師如来…」

「ゆ、祐子様! そのお名前は!?」


 思わずつぶやくと、静さんが血相を変えて聞き返してくる。何?


「この神さまは明神一号と呼ばれています。お金儲けの神さまです」

「ええっ!?」


 今度はこっちがびっくりだ。全く、闇は本当に…。


 静さんが語ったこの町の常識をまとめると、次のようなことらしい。

 この神明明神は、三柱の神が祀られている。この一之宮には明神一号で、壺にはお金が詰まっている。二之宮は明神二号で、武器をかかげた冒険者の神、三之宮は明神三号、周囲に十人いる子宝の神だという。あー、いったいどこのバッタ男?

 実際に見物すると、二之宮は四天王で、中央は空いているので何を守護しているのか不明。三之宮は釈迦如来と十大弟子だった。

 どれも建物や像は立派で、日本にあれば国宝間違いなし。だけど、神の素性を伝えず、当然仏教という宗教も知られていない。いないのに。


「あそこで掃除しているのは、禰宜というジョブの者です」

「ジョブ!?」

「はい。神さまに賜わった場で働くには、ジョブを得なければなりません。ここには他に、沙門や別当といったジョブの者がいます。禰宜と沙門のジョブを両方取ると、別当のジョブを得る可能性があります。別当は稀少なジョブですので…」

「わ、わかりました。静さん、ちょっと頭が追いつかないので」


 完全にそれはゲームだった。日本でやったらいろんな所から苦情が来そうな話。だけど、ここは異世界だから大丈夫? 大丈夫だろうか。

 はぁ…。

 もう呼び出さないぞ。


「呼んだ?」

「突然大声出さないで!」

「大丈夫よ。いつだって止めてるから」


 ふざけた声の闇が、両手を左右に広げていた。

 そもそも、闇が出現する時は自動的に時間が止まる親切設計らしい。自分で設計して親切も何もないけど。


「それで、この星はゲームとどういう関係なの? もしかして私はゲームのキャラなの?」

「うーん。当たらずとも遠からずってとこ?」

「疑問で返さないで」


 結局、呼ばなくとも来てしまったので、頭いっぱいの疑問を解消することにした。何がなんでも答えろ、と。

 なんだかんだと闇はすべて答えた。それも織り込み済みだと嘲笑うように。



 この世界は、ゲーム「だった」。

 闇の神は、地球ではないどこかでゲームを作った。その際に、ゲームのフィールドとして用意されたのがこの星。たかがゲームのために星を造り、人類を含む生物まで創造してしまった。

 そのくせに、ゲーム環境を作っている途中で、闇は飽きた。さらにゲームも人気がなく、数年でサービスを終えた。途中で制作を放棄するようなゲームが、人気になるわけない……という結果、作りかけの星だけが残った。


「控え目に言って、バカ?」

「悪かったと思っているわ」


 悪かった…の結果が三百歳。そして、乞われれば住宅を作るなど、それぞれの町に置かれた端末を使って、最低限のつぐないはしたという。

 一方で、冒険者とかジョブとかスキルとかは、今さら廃止できないので放置したまま。


「ジョブやスキルは神が設定したってことになってるから、今後は貴方が管理してね」

「無茶なこと言わないで」

「大丈夫大丈夫」


 どう考えても大丈夫なわけないのに、勝手なことをほざいて闇は消えた。

 これ以上いろいろ考えるのが嫌になったので、静さんを急かして役場に向かう。頼むから、今日の非常識はこれぐらいにしてほしい。


※よくある「ゲームの世界に転生した」を書いているわけですが、今後ストーリーを作っていく際に、ベースに出来るよういろいろ盛り込んでいます。

 はっきり言えば、横文字の名前は使いたくないし、ナーロッパも無理。慣れ親しんだ気候、植生、文化、そういうものをベースにした異世界が欲しいですねぇ。

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