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 朝九時。


「おはようございます、祐子様! ああ、なんとお美しいお姿」

「そ、そう…ですか」


 しずかさん が あらわれた。にげる。しかしまわりこまれてしまった!

 異世界でリクルートスーツという自分に、涙を流しながら頭を下げるのは着物姿の超若作り八十歳。既に戻って寝込みたい気分。あのベッドは素晴らしかったなー。


 そうして黒のローファーを履いて神殿を出る。いや、なぜ異世界でローファー? 微妙に学生っぽいよね。たぶん闇は、学生かそれに近い年齢なんじゃ…。

 ともかく私は、異世界の町に一歩を踏み出した。

 長い脚への違和感は薄れて、いよいよ新しい空の下に飛び出すんだ、んだーーー………んん?


「静さん、あの、これは…」

「こ、これですか? 近所の方は拝んでおりますが、ゆ、祐子様がお気になさるようなものではありません!」

「…………」


 いや、そういう意味じゃなくて。

 神殿は十字路の角に面している。舗装されていない砂利道、ただし両端に排水の溝が通っていて、それほど汚れてはいない。

 接している道の片方は、例の無意味な駅に通じる駅前通り、そして交差するのは一の町銀座。いちいちネーミングセンスがアレだけど、この際それはどうでもいい。

 角に子どもの背丈ほどの石が建っている。

 そこには思いっきり「湯殿山」と書いてあった。


「ちなみに静さん、この近くにユドノサンという山はありますか?」

「父の話では、そのような山は発見されていないそうです」


 発見って。

 あの闇の悪ふざけなんだろうけど、どういうつもりなのか理解できない。この調子でツッコミ続けるのは辛い、辛いなー。



 一の町銀座には、三階建のビルが並ぶ。バロック様式の装飾があったりして、日本なら大正か昭和初期の雰囲気。だけどオラの村には電気がない。街灯があるのに、中身はただの灯明だというから酷い。

 そもそも、これらの建物はすべて神さまが建てたという。現地の住民も、鉄筋コンクリート建築がどういうものかは分かっているが、まだ自力で建てることはできないらしい。

 つまり、この街並み自体が闇の悪ふざけ。そう、二十世紀初頭のハイカラな町に湯殿山というナンセンス。面白いと思ったら負け。

 もう、だいたい負けてる。


 地球での何とか銀座は、だいたい商店街と相場が決まっている。一の町の銀座も、刃物の店や防具店などが並んでいて、商店なのは確かだが何か違う。


「物騒な店が多いんですね」

「え? そ、そうでしょうか?」


 刃物の店が三つも続いて、なぜ何も思わないのかと呆れていると、突然ウェスタンな雰囲気の建物が。

 洋館建築と違和感なく混じっているけど、そこだけ雰囲気がおかしい。


「これは冒険者ギルドです」

「ギルド!?」


 何そのゲームな施設? 正気なの?

 入口は開け放たれているので、軽く中を覗くと、どこかの映画村のような景色、思いっきり時代劇の世界だった。

 せめてウェスタンじゃないのとツッコミを入れたら負けだ。負け、負け!


(出て来い、闇!)

(なぁにー、私これでも忙しいんだけどぉー)


 さすがにスルー出来ずに呼び出した。隣に静さんがいるので心の中で念じたが、ちゃんと闇は現れる。

 ついでに、横を見れば静さんの左足が地面に付かずに妙な位置で止まっている。どうやら時間を止めたらしい。何もかも非常識だから、こんなとんでもない状況でも逆に冷静に分析してしまう。


「で、いったいどういうこと? 日本に冒険者ギルドなんてないでしょ!?」

「何を怒ってるのか知らないけど、ゲームではおなじみの施設だよ。みんな冒険者になって自分の家でもない迷宮に盗みに入ってお宝ゲットするって有名でしょ?」

「あのねぇ」


 あまりのいい加減さに会話を続ける気力が失せた。すると闇は消え、静さんの左足も動き出す。


「ところで静さん。ギルドとは何ですか?」

「えっ? こ、これは神さまが名付けられたもので…………、父はたぶん組合だろうと申しておりました」

「なるほど…」


 まともな国家も存在せず、相互不可侵以前に交流がないと聞かされたこの星の人類。時代劇ギルドが名ばかりなのは当然だろう。

 そして闇は、はっきりゲームと口にした。なので冒険者があの冒険者なのは間違いない。というか、薄々感じていたけど、この星そのものがゲームの舞台として造られたとしか思えない。

 ゲームの舞台なら、冒険者が活躍して換金できるシステムさえあれば、後は適当というのも頷ける。いや、頷いてはいけない気はする。


「ここに持ち込めば、だいたい換金してもらえるのですか?」

「いえ、買い取りは向かいのこちらで行っています。もちろん、神さまにいただいたお札で支払いされます」

「神さま…がお札!?」

「えっ?」


 ゲームの知識で軽く質問すると、まさかの返し。銀玉遊興施設? 神さま発行? 再び闇を呼ぶことに。


「ねーねー人使い荒くない? 祐子って」

「こんな町に放り出して何言うの!? だいたい、一応は人じゃなくて神でしょ!? で、お札の件は!?」

「……いろいろ都合があるの。祐子様に解決してもらうわー」

「語尾のばすな!」


 要するに、神さまがこの星でもっとも信用できる、と。

 換金システムを稼働させるには、どこかで貨幣を発行しなければならない。しかし、ある日突然人類が出現した創世の星に、国家などない。王宮や大統領府やギルドは、すべてハコだけ用意され、中身は人類任せだったらしい。

 神が私になったから、今後は私がお金を管理する? 一人日本銀行? 冗談でしょ?


「静さん。後でお金の価値を教えてください」

「え!? は、はい、分かりました」


 本気で驚いている静さんを見て、どうしようもないので無理矢理笑顔を作ってごまかす。するとざわめきが聞こえた。

 実は神殿を出て以来ずっと、見物の群衆に遠巻きに囲まれていた。そしてその群衆は、どうやら現人神が笑ったことに衝撃を受けたらしかった。ヤヴァッイじゃん、作り笑顔だってばれたら絶望して何するか分からない。申し訳ないけど、そこまで人類に責任取れないわ………。



 この場に立ち止まるだけで、何もかも悪化する。冒険者ギルドという魔境を離れ、群衆も移動を再開する。

 そして、この星がゲームの舞台であったという確証は、思いも寄らない場所で得られることになるのだった。


※ツッコミが忙しすぎて、いろいろ見落としている気がする。次もツッコミだらけなのでよろしく。

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