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昨日まで角の案内所と呼ばれていた建物は、たった今、一の町神殿に改名された。現人神の私が住むから。
現人神なんて鼻で笑っちゃうけど、残念ながら能力的には神と呼ばれるだけの条件を満たしていて、かつ現前するので仕方ない。ため息をつきながら二階への階段を昇る。
なお、この階段は今まで誰も昇った者がいない…らしい。神の許可がなければ侵入出来ず、許可を出す神はいないから、結果的に封印された階層だった。
そこを神自身である私が昇っていく。相変わらず、スタイル良すぎの身体に慣れないけど、階段は日本の今どきの住宅によくあるものでしかない。本邦初公開の二階もまた、まっすぐ短い廊下があり、左右にあわせて三つの扉があるだけだ。
左は…、リビングのような部屋。手前に調理スペースもあるから、ワンルームマンションみたいだ。手前右は和室。そして奥の扉はトイレだった。
トイレはまさかのシャワー付き。街並みは時代劇の世界のようだし、電気もなさそうなのにどうやって?
いや、考えてみればこの建物には照明があった。冷蔵庫もあるし、電気ポットも見かけた。うん、いろいろおかしい。
「聞こえる? 教えてほしいんだけど」
「何よぉ。ご想像の通り、よ」
静さんもいないので、再び闇を呼び出すと、相変わらずやる気のない声で説明してくれた。
今日会ったばかりなのに相変わらずっていうのもおかしな話。え、会ってない? そこは保留で。
この星の文明レベルは、古代ローマ並みから二十一世紀前半までバラバラ。行政に関していえば、中央集権の国家すら存在しない。工業化もほとんど進んでいない。
一方で神は、あったら面白いと思うものをどんどん作っていったから、蒸気機関の鉄道があったりする。
電気の照明や冷蔵庫は、なぜ動くのか分からないオーパーツ。奥地を探検すると、たまに発見されるらしい。そして奥地には、ゲームのような迷宮があるらしい。完全にふざけてる。
「なぜこんなに滅茶苦茶なの? 無責任でしょう?」
「……それについては、いろいろ事情があったとしか言えない。無責任だとは思っているから、その後始末を任せる」
「誰に?」
「貴方に。記憶をもったままの貴方が不自由しない環境は用意するわ」
一方的に言い切って消えた闇。尻拭いしろと白状しやがったよ。
あー。
正直、どんなカオスな世界なのか想像つかないな。ため息しか出ない。
ワンルームな部屋に戻り、改めて中を捜索する。とりあえず、食べ物がないか探してみる。なければ外で探すしかないけど、土地勘がないし、そもそも現人神がふらっと店に入っていいのか分からないし。
幸い、ここにも冷蔵庫があった。ついでにガスコンロ、オーブンレンジ、炊飯器などが揃っている。どれも最新型…らしい。
なぜ分かるかと言えば、「最新型」と書いてあるから。ついでに「最高級」の文字も。メーカーロゴの代わりに冗談のような表示で、まるで商品名を出せない某国営放送のようだ。
ツッコミが追いつかないので諦めて、背後の棚を確認。食器棚には、大量の食器が並ぶ。別の棚には………、「最高級」と書かれたカップラーメンがあった。はぁ、安い最高級。
その気になれば料理できそうだけど、精神的に疲れたのでその「最高級」カップラーメンに、「最新型」「最高級」ポットの湯を注いで食べた。
……………。
言うまでもなく、ありふれたカップラーメンの味がした。
強いて言うなら、カップラーメンと限定しているので、「最高級」とそうでない味の差が小さいのだろう。なぜ自分が弁解しているのか分からない。
その後、シャワーを浴びてベッドに横たわる。
ユニットバスは、マンションというかビジネスホテルのよう。どういう原理か考えなければ、お湯もたっぷり出るし、一通りの化粧品まで揃っている。
もちろんダブルサイズのベッドも、寝心地は申し分ない。ユニットバスに比べてこちらが著しく高級なのは、「最高級」ユニットバスと「最高級」ベッドの差なのだろう。だんたんその辺の理屈が分かってきた。
枕元には、何とびっくり、テレビもある。「最高級」小型テレビは、残念ながら何も映らなかった。放送局が存在するとは思えない現状で、何をしたいのか分からない。いや、どうせ「最高級」なら「小型」を外せば良かったのに。きっと百インチを超えるようなすごいのになったはず。
ふぅ。
早くも毒された自分に嫌悪しながら、神さま一日目の夜は更けていった。
※初日終了。明日はどっちだ。