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この闇の神は、星の創造に際して人間も創造した。わずか百年ほど前のことだ。
創り出された人間は、ほぼ地球人類と一緒で、交尾して雑種を残せるほどに似ている――嫌な言い方――けれど、寿命は三百年。さらに、魔法を使えるというから、上位種だ。それを一気に数百万人創った。
創造から百年が経過して、今は一千万人以上いるらしい。
勝手に創造した償いとして、百年間は不死の保証付き。しかも土地は余りまくっているので、産めよ殖やせよ。少子化って何状態。
ただし、その上位種は明らかに無気力だった。
かつての社会主義国のように、衣食住が保証された社会だからというのもある。しかし、それ以前に人工人類は生ける屍だった。魂が抜けた――のではなく、そもそもなかった。
なお、この星では魂は実在する。神がそう「設定」したから。
もちろん、生存していれば自然に魂は形成されていく。だから百年後の今、さすがに生ける屍はいないけれど、まだ地球ほどの活気はない。
そこでこの神は考えた…という。パンがなければケーキ、魂がないなら余所から持ってくればいい、と。
未練を残して死んだ魂を呼び寄せ、この星の人間に植え付ける。ただし「前世」の記憶は受け継がれない。生きたいという欲望を与えて、人間を活性化させる。それが、神が用意した「設定」だった。
魂は地球以外の星からも呼び寄せ、今は数万近くに達した。そう、地球人類以外も混じっているから、記憶は残さない。それでも再チャレンジの充実感はあるだろう、と。
植え付けられた者たちは人類のリーダー格となり、停滞した世界を動かした。闇の神はその状況に満足して、所期の目的は達成したと判断。今は積極的に呼び寄せてはいないが、時々新たな魂がやってくることはあるらしい。
「記憶は受け継がれない?」
「そう。なのに貴方は記憶を持っているし、そもそも人間じゃないものに宿ってる。あり得ないでしょ」
「あり得ない? 神なのに?」
「神があり得ないって設定したのに破ったのよ!」
闇は、まるで私が悪いみたいな不満顔で叫ぶ。表情なんて分からないけどね。
勝手に連れてきたくせに何を言うんだ。
「で、あり得ないからどうするって? 返せばいいの?」
「そのつもりだったけど…」
闇がおかしなポーズをとる。シルエットクイズか。
「じゃあシルエットクイズよ」
「な、な! 心を読まれた!?」
「何を今さら。読まずに話しかけると思うの?」
………むむ。確かに、頭の中に声が響いた時点で、こちらの思考は読み取られていた。あーあ、嫌な部分だけ神さまなのね。最悪だ、めっちゃ最悪ぅ。
「わざと言ってる、という思考まで読み取れるから無駄」
「あ、そう」
まぁそうなるか。
正直言って、浮かれている。
居酒屋バイトの日々に未練があるはずもない。死因だけは受け入れがたいけど。
「そこで動じない貴方に提案するわ。その身体はあげる。その代わり、役目も継承してもらう」
「役目?」
「そう。神と呼ばれながら苦情を受け付けるだけの簡単なお仕事です」
「そ、それって神の仕事なの?」
結局引き受けてしまった私。終始おどけた調子の闇のせいで、その役割の重大さを認識していなかった私。
まぁ。
そういう方向に誘導されたわけだ。腐っても相手は神だった。