0-3
「私は…、簡単に言えばこの星の神。創造主。みんなには神と呼ばれてる」
「そ、そのまんまなのね」
「まぁねー」
木造の洋室で、たった今神と名告った黒い闇と対面する私。
わけの分からない状況。夢ならずいぶんリアル。リアル過ぎて、のどを通る冷たい水の感覚すら感じる。
「それで、祐子さん。貴方は諸事情あってこの星に転移した。全部食べても帰れません!」
「何を?」
「冷静なツッコミありがとう。貴方、素質あるわ」
だから何が!?
「ちなみに、諸事情っていうのは貴方の方の問題。一言でいえば、あはれ貴方は死んぢゃった」
「………」
何を言ってるの…と言いかけて、再び激しい頭痛。
そして、激痛の中で思い出す。あの瞬間。あの―――――。
「死んだ?」
「でしょ?」
「いえ、そんな記憶は…」
思い出したのは、居酒屋のバイトを終えて一人暮らしの部屋に帰って、シャワーを浴びて寝た。それだけ。どこに死ぬ要素が?
「えーと、隕石、だって」
「はぁ!?」
「頭に直撃、潰れたトマトのようになってさよなら。で、ここに来た」
「わ、悪い冗談はやめて。気分が悪くなってきた」
真っ黒な闇が身振り手振りを交えて凄惨な死の現場を語るなんて、シュールにも程がある。しかも死因がまた非常識。いい加減、夢なら覚めてほしいんだけど。
「夢だと思いたいのは分かるけれど、これ現実なのよねー。そして貴方がそれを乗っ取ったのは、こっちが夢かと思う事態。そろそろ本題に入っていい?」
「な、何が本題なの? 乗っ取る?」
そうして、闇はとうとうと現状を語り出した。
それは控え目に言って、悪夢の方がマシだった。
この星は地球ではない。
そして、私は地球では死んでしまった。それは動かない現実。
受け入れたくないけれど、もう気づいている。闇の声は嘘を言っていないのだと。
神が適当に創造したという星。その環境はほぼ地球と同じで、ただし生物は半分程度しか似ていない。なぜなら、神は地球以外の星の生物も持ち込んだから。
そして、地球にはないとされる魔法もある。
「率直な疑問だけど、なぜ星を作ったの?」
「そこはまぁ…、おいおい話すわ」
神さまという崇高な存在と、闇の彼女――その声はどう聞いても女性だ――のやったことが結びつかない。というか、こうやってしゃべっている闇自体が、まるで神さまじゃない。それに…。
「妙に日本っぽいのはなぜ?」
「あ、そこに気づいた? 困ったなー」
「ふざけてるの?」
この部屋だけでも、あちこちに日本語の表記がある。そうでなくとも、古臭いという以上の違和感がないのは、地球じゃないのに日本だから。
つまり、この闇の正体は…。
「とりあえず、私の正体は後回しね。それより大事なのは貴方の身体。それ、私のだから」
「私の?」
「村の案内役ね」
そして明かされる真実。「生前の」自分とは似ても似つかないこの身体は、それぞれの村に設置されていた、神の端末だった。
何もかも中途半端なこの星で、生み出してしまった人間の要求を聞いたり、時に助言するために用意された案内役らしい。
「まぁあれよ。角の石仏みたいなものよ。湯殿山とか書いてある」
「湯殿…石仏が助言なんてしないけど」
いや、湯殿山って書いてる時点で石仏じゃないよね?
「お願いするでしょ? あれだって、口が動いたら教えてくれるんじゃない? 金儲けの相談は鬱陶しいとか」
「それは助言と言わない」
「面倒くさい祐子ねー」
面倒くさくない祐子がいるなら代わってほしい。さっきとは別の意味で頭痛がする。
ともかく、闇の主張をまとめれば、その端末の一つを私は乗っ取った。
まるっきり冗談のようなすごい身体に、顔だけ微妙に私の成分が混じっているのは、元の端末がスタイル抜群の絶世の美女に設定されていたため、らしい。
「そんな設定はしなかったはずなのに、なんかああなったのよねー」
「私に言われても…というか、設定って何?」
「あ………」
墓穴を掘った神なのか闇なのか分からない相手は、不承不承、とんでもない「設定」を語り出す。
いや、語っているのは間違いなく闇。悪夢の主。
魂を呼び寄せ、再利用する。
その「設定」を、私は破ったのだ、と。
※先に0-4をアップしかけた。一応、0-6までは順次公開。