0-10 楽しい職場訪問
※何となくサブタイトルつきました。
「お待ちしておりました祐子様!」
「おお女神さま! 本日もなんと尊い御姿!」
国会議事堂のような役場の玄関前に職員が整列して、一斉に叫ぶ。男性はみんな野暮ったい紺色の背広、女性もそれに合わせたような古めかしい制服。どういうセンスだと言いたくなるが、言うとアレが出て来るので我慢。
ともかく、背後の景色はどう見ても地方の役場ではない。
一の町の人口は十万人以上。この星の町では一番多いらしいけれど、だからといってやりすぎ。まぁ、都庁を造られるよりはマシだけど。
「お待たせして済みません。そこに神さまがおられるとうかがったので、どうしてもご挨拶をと思いまして」
「か、神さまがお謝りになられるなど、なんと勿体ない!」
「尊い御方が我が町の社に御幸なされるなど、誠に慶祝の極みにございます!」
「はぁ…、どうも…」
嘘ではないが本当とも言えない理由でごまかそうとしたら、まさかの大絶賛で反応に窮してしまった。何だろう、この異常な信仰心は。さすがの闇も、こんな状況を意図して作ったとは思えない。
ちなみに私が明神をうろうろしている間、職員はずっとこのまま待っていたらしい。その事情があるのでひきつった笑いでごまかすしかない。
これがかつて無気力だった人類だって? 出来れば、この出迎えに疑問を抱くような人類であってほしい。だって私は松野祐子なんだよ?
一の町役場での説明は、それでも今日一番のまともな時間だった。
各種窓口では、何か用があって訪れていたはずの町民に一本締めで囃されるというイレギュラーがあったけど、窓口業務に違和感はなく退屈だった。裏の各部署を訪問すれば、仕事ほったらかしで地べたに頭を付けて、まるで大ダコスダールのように拝み倒されたけど、戸籍を作って、公共施設を管理して、都市計画を立てて…と、楽しくはないけど驚かずに済むのでほっとする。
鉄道の延伸計画などもちゃんとある。ただし延伸先でもめている…と、そういう部分も嫌にリアル。まぁ自分が関わるわけじゃないし、どうでもいいや。
石造りの庁舎は第一庁舎、そして連絡通路の先には普通のコンクリート五階建の第二庁舎が続く。なんでも、端末にねだって造ってもらったらしい。
「この明かりは…」
「神さまが我らに賜わった魔道具です。どうやら、電気というものがあれば、我らの手でも設置できるそうなのですが…」
「なるほど。神は不親切ですね」
思わず素直な感想をもらして、はっとする。
町長も集まった職員も、複雑な表情でこちらを見ていた。そうだ、不親切な神は自分だった。
とりあえず、その場は適当にごまかして逃げた。
神の恵みと称して発電設備を作ることは、たぶん可能だろう。
この神の創造の力は、原理を知らなくとも命じればそれで済む。闇がテレビや冷蔵庫の裏の基盤の作り方を知ってたとは思えないし。
ただ、それではオーパーツが増えるだけで解決にはなりそうもない。長期的にはやはり、皆さん自身で考えてもらわないと。
「町長。学校はどのようになっていますか?」
「は、はい! 神さまに賜わりました一の町第一小学校で、みな学んでおります」
「…………え」
あのバカ。今日何度目かの苛立ちだった。
闇は、それぞれの町に「学校」を作った。「最高級」の小学校を一つだけ。だからどんなに子どもが増えても、通える学校は一つ、しかも小学校以外はない。
そして、小学校の教員になるのは教員というジョブが必要。教員免許みたいなものと考えれば理解出来なくもないけど、取得条件は謎。だって教員養成機関はないのだから。
唯一の条件らしきものは、小学校に通ったこと。なので毎年、たった一つの小学校に通うための選抜テストが開催される。
とりあえず、学校だけはすぐにどうにかしたい。一つしかないから受験戦争って酷すぎ。
「我が娘が合格した瞬間は、今でも昨日のことのように思い出します」
「静さんも卒業生なんですね。…どういうテストだったんですか?」
「はい! 皆で玉入れをして勝ち残りました」
「…………………ぇ」
受験…戦争?
静さんは一年前から、玉入れ、鉄棒、パン食い競争などの練習に励んできた。そして当日、籤引きで玉入れに決まった時は確かな手応えがあった。瞳を輝かせて町長は語る。途中から涙が滲んで、そして周囲の職員までもすすり泣き始める。
え? もしかして自分も泣かなきゃいけない? 無茶でしょ?
その後もしばらく役場内で視察して、昼前に退散。町一番の食堂で歓待を受けることとなった。
例によっていろいろ不安だらけだけど、だんだん麻痺しつつある自分もいる。闇はマジでいっぺん絞めたろか。
※12でプロローグは一区切りになります。習作扱いから通常連載に移行する場合、たぶん最初の短いやつはある程度統合することになるでしょう。全体的な修正も予定。