だから私は愛する貴女に婚約破棄を告げる
婚約破棄ものは王子がバカ王子ばかりなので頭よさそうなのを書いてみました。
「王太子パウロの名のもとに公爵令嬢エリーゼ、貴女との婚約を破棄させてもらう」
冷徹な目をした王太子が感情の籠らぬ声でそう告げた。
「……理由を、お教え願えますか?」
「国益の為。それ以外にあるとでも?」
「男爵令嬢ドミニカ様との成婚も、国益である、と」
「その通りだ」
王太子の横に侍るのは豪奢な装いをした美貌の男爵令嬢。
「恐れながら忠言させていただきます。ドミニカ様には複数の貴族令息との姦通の疑いが……」
「そうだな、おかげで彼らの弱みを握ることができる。腐敗貴族の一掃にも拍車がかかることだろう」
「微力ではありますが、王太子の力になれてなによりですわ」
妖艶にほほ笑む彼女に公爵令嬢は絶句する。
「それで? 彼女が身を犠牲にして国益に尽くしている中、貴女は何をしていた?」
「わ、わたくしも孤児院への寄付や商工業の発展のために援助を」
「愚かな。貴族の権益が強いままで平民の力を強めて何とする。
口出しできぬほどに弱めた後でなければ貴族が搾取するなど孤児でも理解する理屈だ。
順番を間違えているのだよ、貴女は」
「……でしたら、そう、おっしゃって下されば」
「公爵令嬢エリーゼ。キルヒアイゼン辺境伯のもとへ出向し、学びなおすがよかろう」
「っ! それは」
「人のことをどうこう言うまえに、己を見つめなおすのだな。
事あるごとに辺境伯と逢瀬していたこと、私が気づかぬと思っていたか?」
「……承知、いたしました」
* * *
「よろしかったのですか? あのように酷薄な突き放し方をして」
「彼女の心は私には無い、これで愛想も尽きただろう。後は辺境伯が上手くやる。
でなければわざわざ唆して彼女に接触させたかいがない」
「恐ろしいこと。全ては殿下の手の内ということですか」
「私はそんなに器用な人間ではないよ。
この身に流れる血の憎さに、決して私を愛さぬ君を娶り、愛するものを他の男に嫁がせる。
こんな男の何が器用なものか」
「……わたしとの婚姻は“白い結婚”でよろしいんですのね?」
「父の血も母の血も次代に繋ぐつもりはない。この国は君の子孫が繋いでいけばいい」
「おおせのままに、殿下」
* * *
「……これでいい。古き貴族の血は死滅し、新しい時代がやってくる」
遠くを眺める王太子の目に、辺境へと向かう公爵令嬢を乗せた馬車が写っていた。
「エリーゼ、貴女は優しすぎた。魑魅魍魎渦巻く政務に関わるにはその優しさは脆く、危うい。
彼方の地で、どうか、幸せを掴んでくれ」
* * *
その後ほどなくして不審死を遂げた国王に変わり、王太子パウロが国王となった。
王妃ドミニカは当初は毒婦と噂されたが、関係する相手全てを破滅させ、その悉くが腐敗貴族だったことにより、世直し王妃と呼ばれるようになった。
公爵令嬢エリーゼはキルヒアイゼン辺境伯に嫁ぎ、領地を栄えさせたという。
パウロ王は善君と称されたが、エリーゼに対する対応により冷徹王としばし呼ばれていた。
しかし歴史学者によって彼の手記が発見されると、全ては混乱するであろう情勢からエリーゼを遠ざけ、彼女に平穏な生活を送らせるための行動であったことが明らかになった。
現在、劇場において“冷徹王の悲恋”として演じられているものの原型がこれである。
Ende.
王太子を義眼にできれば最高でした。