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外伝7

大島は俺のバイクの前まで来ると土下座した。

「イシハラくん、すいません…」

「テメエ勝手なことしてんじゃねえよ!」

大島を払い除けるようにして、マイカワが俺の目の前に来た。

「お前、俺に返事して無いだろう」

「行かせてください。アキラは俺の仲間なんです!」

「たかが…こんなカス野郎達のてっぺんに立ったからって、それじゃ一緒だろうが!」

「ヨシアキとですか!」

「俺に信じて欲しかったんじゃないのか?」

「もちろんっすよ!だから頑張ってた…」

「お前の決意ってのはそんなもんか!」

俺はバイクから引きずり下ろされた。


「信頼とか信用ってものは、一瞬で崩れるんだ」

「分かってます。全て分かってます!」

「心が折れたのか?俺を信じる心が」

「誓ってそれは折れてません!」

「なら俺を信じろ。こんなバカげたことはやめろ」

拳をもらうより、その言葉が熱かった。

人目をはばからずに、俺は涙をこぼした。

「はい…」

「ここにいる仲間も巻き込むようなマネはするな。全て俺に任せろ」

「お願いします。一矢報いたいんです」

「分かった。仇は取ってやる。それよりみんなを帰せ」


俺はマイカワの言葉を信じ、涙を拭うと立ち上がった。

「下克上解散!」

俺の号令の後、仲間は散って行った。


「すいませんでした…」

「野郎を呼び出せ。今すぐだ」

「え?」

「何でもいい。金が出来たとでも言って呼び出せ」

「は、はい」

「手筈は整ってある」

「え?」


言うとおりに連絡を取ると、翌日の昼に行くとヨシアキは言ってきた。

「イシハラ、待たせちまって済すまねえな」

「これで最後ですよ」

「これはこれは。支配人が用立ててくれたのかい?」

「いえ、あなたがこれで最後だって意味です」

「あ?」

複数の男達がヨシアキを取り囲む。

「恐喝の現行犯で逮捕する」

「ああ!」

「お前には傷害の別件でも聞きたいことがある」

「ハメやがったな!」

「知るか。二度と俺達の前に姿現すんじゃねえよ」

捨て台詞がカッコ良く見えた。


マイカワの作戦でヨシアキと絶縁出来た。

警察と少し話すと、マイカワは俺の方へ来た。

「いいか。金輪際、こんなことで俺の手を焼かすな」

「分かりました」

「俺はお前のことをガキとして見てない。それを理解しろ」

「はい!これかれもお願いします」

頭を下げるとパカンと引っ叩かれた。

「バカヤロ。俺の睡眠時間を返せ」

「営業前に眠気覚まし課って行きます」

「おう、3本くらい寄こせ」

「あはは。別途、具合悪くなっちゃいますよ」


この日を境に俺はマイカワを兄貴と慕うようになった。

この人と一緒に居るだけでいい。

そんな考えを持つようになった。


それからは、余計な心配事も無く、仕事に没頭していた。

毎日クタクタになって、明るくなる頃に帰宅していた。

キングは支配人のシステム改善がようやく浸透してきていた。

売上は格段に上がり、女の子のギャラ、スタッフの大入りも飛躍した。

この結果に俺は、ただただマイカワの手腕に驚くばかりだった。


そしてとある営業終了後、社長の名で緊急ミーティングの招集がかかった。

「エースに集合ですね。支配人以下、スタッフ全員に通達します」

電話を切ると支配人に報告した。

「要点だけ抑えて、残りは明日やろう。みんなエースに行くぞ」

「はい!」


マイカワを先頭にエース店へと出向いた。

店内では、エース店スタッフがスタンバイに追われていた。

「支配人、お疲れ様です!」

「おう、お疲れさん!」

マイカワは威風堂々としていた。

「何だ?社長直々の招集なのに誰も来てないのか?」

「支配人、お疲れさん」

俺達の後ろから部長と次長がやってきた。

「お疲れ様です」

「仕事が出来る出来ないというのは、こういうことを言うんだな」

「キングは最小限の仕事をして、他は明日に回したんだろ?」

「社長の号令です。当たり前のことです」

「この機転が利くというか、気配りというか…ねえ次長」

「判断力の差でしょう。マイカワはいつも単体で考えていない」

部長と次長の話を、少し離れたところで頷きながら聞いていた。


緊急ミーティングが始まるまで、小一時間は要した。

この待ち時間について、部長の説教があったことは言うまでもない。


全員が集まったところで、社長が静かに口を開いた。

「全スタッフに通達する。当たり前のことだが、再度徹底しておく。当グループは薬物の

 使用を一切禁ずる。使用が認められた場合には即刻解雇とする。また全スタッフは女の子

 へも徹底するように!以上」

社長はこの一言を言う為に、あえて全スタッフを集めた。みんなはこの意味を理解していた。


「支配人、何かあったんすか?」

「ああ、今度話してやる」

入社した初日にシンナーについて、マイカワに怒られたことがあった。

マイカワはそれらについて、全ての否定はしなかった。

俺も嫌いじゃないと。

しかし、もう辞めろと言われて、ここまで信頼を得てきた。

俺にとっては今更といった感じだった。


キングのスタッフで店に戻ろうとした。

「支配人、飯でも行きますか?コダマは?」

「そうだね、行こうか。イシハラも来るだろ?」

「はい」

「俺は、ちょっと用を足してから行くよ。イシハラ、店に戻って閉めろ」

「分かりました」

マイカワの表情が鋭くなったことに気が付いた。


マイカワはエースを出ると、コンドウを呼び止めた。

そして2人は、俺達と反対方向に歩いていった。

コンドウは俺が入社する前、上司だった男だ。

しかし今は俺に追いつかれ、同じ主任という立場だった。

俺はコンドウなど眼中になかった。

マイカワの期待や信頼に応えるのが精一杯だったからだ。


俺は気づかれないように2人の後を追った。

「お前も気になったのか?」

振り返るとキムラとコダマが居た。

「支配人の顔、尋常じゃなかった…何かあるっすよ」

「俺達もそう思ったよ。ちょっと着けてみるか」

「そうっすね」


角を曲がると、2人は肩を組んで歩いていた。

「あれ?取り越し苦労か?」

「ぽいな」

「いや…支配人が肩を組んで歩くなんてことはしないっすよ」


立ち止まるとマイカワがコンドウを怒鳴った。


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