表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
4/14

外伝4

念願のキングに入店した俺。マイカワに連れ出された俺は、いきなり横面を叩かれてしまう。

でもマイカワは分かっていた。俺が孤独だということを。


俺を信用してくれる…。疑心暗鬼だった。俺の周りの人間はいつもそう言った。

「誰も俺のことなんか信用してくれねえ」

「だから俺が信じてやるって言ってるだろう」

「ウソ付け!だから俺も人が信用出来ないんだ」

「お前もつくづく寂しい男だな。男が何かする前に白旗振るのか?」

マイカワは俺に説いた。信用している、されているを気にしている内は、まだ余裕があると。

目の前にある仕事をこなすことで精一杯なのが、普通なのだと。

「どうするんだ?辞めるのか大人しく俺の下に付くか、ハッキリしろ」

「テメエの下に付いてやるよ!」

「だったら言葉遣いに気をつけろ。俺は下は甘くないぞ」


俺は店に戻った。確かにマイカワは手取り足取り、教えてくれた。営業開始前のスタンバイや

閉店後のスタンバイ。営業中の目張り気配り、ルーチンワーク。マイカワの言うとおりだった。

「主任、すいませんでした。俺が間違ってました。今日は仕事をこなすので一杯でした」

「それが素直な表現というやつだ。俺に詫びを入れられた分、お前は大丈夫だ」

俺はマイカワの言葉が嬉しかった。怒鳴られるかと思ったが、逆に褒めてくれたのだ。


その日の営業終了後、マイカワはショットバーへ連れて行ってくれた。

「お疲れさん!」

「お疲れさん。マナブ、誰それ?」

「今日から入った、イシハラだよ」

「お疲れ様です。イシハラです。宜しくお願いします」

「コダマとタメかな。キムラの1コ下だよ」

「じゃマナブの2コ上になるのか」

マイカワが2コ下…。コダマとキムラという男達もマイカワにお前呼ばわりで呼び捨てだった。

「イシハラだっけ?このことは内緒にしとけよ」

「あ、はい…」

俺が存在を気にしていたマイカワ主任は年下だったのだ。

「マイカワ先輩を舐めない方がいいぞ」

「ああ。入社が同じ時期なのに、俺らの上司だからな」

マイカワとキムラ、コダマの3人は、お互いに認め合い、切磋琢磨している。3人は仕事の話を

夢中になって話していた。俺は3人を良い関係だと思った。


「マスター、チェックして」

「イシハラの分は俺が払うよ」

「あ、すいません」

俺達は明け方になって店を出た。

「お疲れさん。俺達は寮だからよ。気をつけて帰れな」

「ご馳走様でした。お疲れ様です」

「遅刻すんなよ」

「はい」

キング初出勤の長い1日が終わった。俺の中でそれなりの充実感があった。


しかしそれは、唐突にやってきた。


5時頃、帰宅すると家の前に大橋、原田、大島が居た。

「どうした?そんなツラ腫らして?」

「イシハラ、待ったぜ」

「ヨシアキくん!」

「話がある。場所替えるか」

俺達は、ヨシアキくんの家に連れて行かれた。


「お前らのやらかしてくれたことよ。どうケジメ付ける?」

「ケジメって…」

「まず同じようにぶっ飛ばさせてもらうわな」

「あ、はい…」

「俺から盗った50万も返してもらうわな」

「50万も盗ってないっすよ!」

「間違いなく50万入ってた。薄れていく意識の中で原田が盗ったところを見てたんだ」

「でも50万なんて…」

「警察に行くか?お前ら次はネンショウだろ?」

「勘弁してください」

原田が盗ったとはいえ、使ったのは4人だ。原田1人に罪を背負わすことは出来ない。


「ヨシアキくん。分割でもいいっすか?」

「あ?ふざけたこと言ってんじゃねえぞ!」

「100万を10回分割で払います。その代わりこれ以上ぶっ飛ばすのは勘弁してやってください」

「イシハラくん!」

「それで勘弁してやるか。イシハラ、約束は守れよ」

「来月の25日から持って来ます」

「分かった。25日だな」

「みんな帰ろう」


ヨシアキくんの家を出たとき、すでに朝だった。

「イシハラくん、毎月10万なんてどうすれば…」

「お前らも働けよ」

「イシハラくんのところは一緒に働けないっすか?」

「お前らまだ16だろ?水商売だから無理だよ」

すぐにマイカワのことが頭に浮んだ。こいつらと同い年なのかと。

「来月の25日には、10万ですよね」

「最初はこのままじゃ、俺達ボコボコにされるんじゃないかなって思ったけど、あの人は金を

 要求してきた。金払って縁を切ろうぜ」

「でもどうやって…」

「バーカ。ハナからお前らなんか当てにしてねえよ」

「え?」

「お前らには金集めさせたり、悪いことをした。これは俺が背負う」

「イシハラくん…」

「今の俺の上司は、お前らとタメ年なんだよ」

俺はマイカワのことを話した。みんなで飲みに行ったときのことや気になる存在となっていた

ことや今日、ぶん殴られたこと。そして俺を信用してくれると言ってくれたことも。

「今まで俺は暴走族の総長やって、その気になってた。それはすごく寂しいことだった」

「そいつと逢って、生まれ変われるなら俺達も変わりたいっす!」

「その時期が来たら紹介する。それまで待ってろ」

「はい!その日が来ることを信じて待ってます」

俺は後輩達を救うことが出来た。初めて仲間になれた気がした。そこに孤独感はなかった。


翌日の営業から、マイカワは厳しかった。日々の営業が終わるといつも殴られていた。もちろん

サボった俺の甘えから叱られていた。出来ないことを挑戦して失敗したとき、マイカワは、逆に

俺のことを褒めた。がむしゃらに働いた。マイカワに褒められたい一心だった。


そんな俺の気持ちをさらに押し上げる出来事があった。初めての月例ミーティング。人事異動が

発令された。次長が言っていた通り、4店舗目が稼動することになった。

「キング店、イシハラ!」

「おい、お前呼ばれてるぞ」

「あ、はい!」

「辞令、キング店ボーイ長昇格を命ずる」

「ありがとうございます!」

次長が辞令を渡すとき、みんなに聞こえないように耳打ちをしてきた。

「マイカワの強い推薦だ。あいつに恥をかかすようなことはするなよ」

「はい!」

入店1ヶ月目で昇格した。厳しいマイカワの教えの中、結果が出た。それは誰より、マイカワの

推薦だったことが嬉しかった。


俺のマイカワへの気持ちは、憧れから崇拝に変わっていく。俺はマイカワに惚れていた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ