外伝12
「店長、リストまで」
「何だ?」
「蘭三郎のママからです」
蘭三郎に遊びに行った翌日。
営業中にママから店長へと、連絡が入った。
以前、店長に教わったことがある。
店と名前を名乗って、店外で世話になったとき、翌日必ずお礼の連絡を入れる。
今後、その付き合いによって、生産的、建設的な付き合いが出来るかもしれないからだという。
簡単に言えば、顔と名前を売れということらしい。
確かに夜の街を店長と歩けば、同業者は必ず挨拶をしに来る。
そのほとんどが、店長は知らない人間だという。
しかし周囲の他店の人間のほとんどが、店長を知っている。
一個人の店長を知り、キングという店を知る。
やがてそれらが、全てプラスになってくるという話だった。
「よお…今日も来てくれだってさ」
「行きましょうよ」
「金がねえよ。昨日8万も払ったんだぞ」
「ボトル入れなきゃいいでしょ?俺にもたまには出させてください。だから行きましょ」
「分かったよ」
付き合いことは、極力断るなというのも店長の教えだった。
営業が終わると、店長と2人で蘭三郎へと向かった。
「いらっしゃいませ!あら…最近よく逢うわね。ママはまだよ」
「昨日来たべよ?」
俺の突っ込みは、シカトされた。
テーブルへ案内されると、未開封のヘネシーを渡された。
「頼んでないよ?」
「ママからよ。ホレ飲みなさい、飲みなきゃ」
ママは店長が来たら、このボトルを出すようにと話していたという。
しばらくするとママが出勤してきた。
「あら、いらっしゃい。今日は2人なのね」
「ママ、すいませんね。ボトル出してもらって」
「気にしないわよ。ホレ飲んで。飲みなきゃね」
その日も俺と店長は、ドンちゃん騒ぎをした。
「いやー今日は酔っ払ったな。イシハラそろそろ帰るか?チェックしてもらえ」
「お願いしまーす。チェックで」
俺のチェックを聞いたママが、別のテーブルから飛んできた。
「終わったらどっか飲みに行く?」
「いや今夜は酔っ払ったから帰るよ。また来るね」
チェックシートを受け取った俺は、金額に驚いた。
「店長!マズイっす。会計10万も来ちゃいました…」
「どれ?」
チェックシートを店長に渡した。
「あ?お前よく見ろ。10000円じゃねえかよ」
「あれ?本当だ。今日はずいぶん安いですね」
店長に頭を叩かれた。
「じゃ約束どおり、今日は俺が」
「やかましいわ。伝票よこせ」
結局、今夜も店長が払ってくれた。
それから、毎晩のようにママからキングに連絡があった。
俺と店長は、2週間の内、店休日以外の毎日、蘭三郎に顔を出した。
最初の2回で、店長が支払った会計は8万。
それ以降、全てママのおごりとなっていた、
店長はそれらを嫌い、支払おうとするもママは受け取らなかった。
「イシハラ、今日は電話が掛かってきても、俺は帰るからな」
「分かりました。俺が電話に出るだろうからうまく言っておきます」
ママからは21時過ぎに連絡が入った。
「クラブキングです」
「アタシよ」
「イシハラです。昨日はどうもです」
「店長は?」
「ミーティング入ってますね。営業終了後は、幹部会が入ってます」
「あっそ。また連絡するわ」
終礼が終わると、店長がリストに入った。
「集計っすか?俺がやりましょうか?」
「いや早く帰りたいから、今日は俺がやる」
「いつもの時間にママから連絡ありましたよ」
「そうか。ちゃんと断ったか?」
「もちろんっすよ。店長は幹部会でミーティングだと言っておきました」
「付き合いが面倒になってきたな」
「店長。面白けりゃいいじゃないですか」
「じゃお前一人で行って来い」
「そんなこと言わずにー」
俺はその場だけ楽しければ良かった。
店休日に後輩から連絡があった。
「イシハラくん、暇なんで遊びに行っていいですか?」
「別にお前らの顔見たくないけど、いいよ」
「ずいぶん茶目っ気のある言い方じゃないすか?」
「疲れてんだよ」
「じゃ、すぐ行きますね」
遠くの方から、バイクのコールが聞こえた。
まだバイクに乗っているようだ。
俺は自室の窓を開け、やつ等が来るのを待った。
「おう!手前からエンジン止めてくるなんて、大人になったじゃねえか」
「これでも気を使うタイプなんで」
俺に気を使っても、3人乗りで来るようなやつ等だ。
「上って来いよ」
「うっす」
「久しぶりだな。ちゃんと仕事してんのか?」
「前の塗装屋は辞めちゃいましたよ」
「1ヶ月以上はプーっすね」
「どうしようもねえな」
「イシハラくん、キングで働かせてくださいよ」
「俺に言っても無理だ。マイカワさんに認めてもらおうと必死だからな」
「相変わらず厳しそうっすね?」
「主任に上げてもらったけど、まだまだだって言われてる」
「おおお」
「主任になったんすか?」
「店長がゴリ押ししてくれたみたいだぞ」
「でもすごいっすね!」
「マイカワさんには、怒られる方が多いけどな」
「イシハラくんが俺らとタメ年に怒られたりしてるのって、想像出来ないっすよ」
「バカ!怒鳴られたり、殴られたりしてるよ」
「ええ!」
「バカなんて言われるのは、毎日だよ」
確かに店長は大島、原田、大橋と同い年だ。
こいつ等がびっくりするのも無理は無い。
「怒られる以上に可愛がってもらってる」
「よく分かんないっすよ」
「あの人と一緒に居ることは、理屈じゃねえんだよ」
「そうっすか…」
「お前らにはまだまだ分からない話だよ」
後輩達、3人は首を傾げたままだった。
「お前らのこともちゃんと考えてるよ」
「マジっすか?」
「時期を待て。今はそれしか言えねえ」
「はい」
「俺が呼ぶまで、真面目にやってろ」
「分かってます」
「頑張れよ」
「うっす!」
子供を教えるかのようだった。
おそらく店長も俺のことをこのような気分で諭しているのだろう。
立場を置き換えて考えてみると、何ともみっともない。
こいつ等を呼ぶ頃には、俺ももっと信用を得ていないといけない。
俺にとっては、この後輩達も良い刺激となっているのに違いなかった。