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外伝11

タカツカサさんの死は、緘口令が敷かれた。


兄貴のように慕った男の死に直面したはずのマイカワは、毅然と営業をした。

精神的には、相当なダメージがあったはずだ。

その姿は、タカツカサからの自立を示しているかのようだった。

もし今の俺が、マイカワという精神的支柱を失ったことを考えると想像を絶する。


俺と店長は、いつものショットバーに2人で来ていた。

「店長…」

「何だ?」

「タカツカサさんのこと、話してもいいですか?」

「構わん」

「タカツカサさんは、店長にとって大切な人だったんですよね?」

「ああ」

「特別だったんですよね?」

「そうだ」

「俺も同じような存在ですか?」

「何が聞きたいんだ?」

「俺は何度も店長に助けてもらってます。俺は店長にとってどれくらいの男なのかなって…」

俺はいきなり頭を叩かれた。

「お前にランクも役どころも何もねえよ」

「まだそのレベルには、達してないってことっすか?」

「お前は、理屈が必要無いところに理屈っぽくなるな」

「ですかね?」

「自分にとって大切な人間ってのは、大切。それだけでいいんだよ」

「はあ…」

「特別な人間ってのも同じだ」

「はい」

「俺を大切に特別な存在だと思っている人間は、俺も同じように思っている。深く考えるな」

「はい」

「別に誰が特別だとかは、本当は無いんだよ」

「え?」

「俺が必要だと言うなら、誰のところにも助けに行く」

「ハードルがありますよね?」

「誰もがって訳にはいかないだろ」

「俺の後輩から連絡あったときは、どう思いました?」

「どうってテメエが主役だったじゃねえか」

「分かりました」

何を言って欲しかったのか、どうでもよくなっていた。

俺を少なくとも必要としてくれているようだった。


マイカワという男は、厳しいだけではなかった。

たまには、ハメを外したり、脱線するのも自分で処理しろと言った。

確かに仕事では、怒鳴られたり、時には殴られたりもする。

しかし、彼は絶対にその場限りで、後々同じ話をしてこない。

もちろんそれらに猛省するが、ストレスは溜まらない。

俺以外の部下も全て同じ想いだと思う。

故に店長マイカワを慕うのであろう。


強力な存在感に、圧倒的な信頼を併せ持つ男。

俺は憧れる男を間違ってなかった。


「もしもし、支配人居るかしら?」

「あ、店長ですね?お待ちください」

話し方は女だが、完全に男の声だった。

「店長、リストまで」

「おう、何だ?」

「お電話です」


「この間のお礼もまだだから、ちょっと顔出しますよ」

営業中ということもあり、手短に電話を切ったようだった。


「イシハラ、今晩は暇か?」

「どっか飲みに連れて行ってくれるんですか?」

「まあそんなとこだ」

「いつでもお供しますよ」

「今日の集計は俺がやる」

「どうかしました?」

「お前でもいいんだけど、遅くてな…」

「そんなことないっすよ」

「俺の倍以上時間掛けて、仕事とは言えないんだけどな…」

「分かりましたよ」

「バカ!すねてんじゃねえよ。出掛けるから早く済ませるだけだ。他のこと指示しろ」

「はい」


営業が終わり、終礼を済ませると店長はリストに篭もった。

「お疲れ様です。ユカさんやっほー」

「おーユイ!」

ユイさんが店に入ってきた。

店長がリストから、ユカさんに声を掛ける。

「ユカさん、ごめん。仕事終わるまで相手お願い」

「分かったよ」


「イシハラ!」

「はい!」

「もう終わるけど、他は全部終わってんだろうな?」

「すぐ終わります!」

本当に仕事が早くて困る。

「みんなチャッチャ終わらせないと、怒鳴られんぞ!」

「終わらなかったら、お前の陣頭指揮が悪いんだ」

「みんなヤバいぞ!」


何とか怒られずに済むと、俺と店長、ユカさん、ユイさんで出掛けた。

「ユカさんこっちだっけ?」

「ユイは知らないの?」

「2人とも知らないの?」

「どこ行くっすか?」

「蘭三郎ってとこだ」

「俺、知ってますけど?」

「案内しろ」

「いいっすけど、蘭三郎行くんすか?」

「ちょっと義理があってな」

蘭三郎とは、オカマやニューハーフが居る、いわゆる冗談パブだ。

「いらっしゃいませー」

「4人入れる?あとママはいる?」

店長はママに、用事があった雰囲気だった。


ママが来るまで、奥の席に通された。

「イシハラ」

「はい」

「接客をよく見とけ」

「は?はい」


「おはよー」

「ママ、遅いわよ!」

ママは全てのお客に挨拶をすると、俺達に気がついた。

「あら、店長来てたの?後で顔出すわ。ホレ飲んでて」

「嫌だ!ママに顔出すって言われても遠くからでもそんなデカイ顔見えるわよー」

「うるさいわね!このブサイク!」

俺達は大笑いした。


「あら、ユカとユイも居たの?輝きが無いから気がつかなかったわ」

「相変わらずね、ママ」

「ユイはこの前に逢ったから知ってたけど、ユカさんもママと知合いなの?」

「高校の同級生よ」

「同級生なんだ?」

なぜかこのやり取りには、笑いが止まらなかった。

「どうだイシハラ。勉強になったか?」

「新しいジャンルっすね。これがキングで通用するかはどうか…」

「お前なりにアレンジして活かせよ」

「そうっすね」


入れたボトルを全て飲み干すと、チェックを申し出た。

「チェックお願い。あとタクシーを3台頼んでくれない?」

「もう帰るの?まだ5時よ」

「いやみんな明日も仕事だからさ」

「また来なさいよ」

「分かった。また来るよ」

「いくら?私も出すよ」

「いやユカさんは俺らが誘ったからいいよ。イシハラもいい」

「ゴチになります」


下ネタがメインではあるが、客を飽きさせない接客は確かに勉強になった。

店長が言うように、俺なりのアレンジを加える必要はある。

キングの主役は、あくまで女の子なのだ。


俺も店長には及ばないが、客に人気が出てきた。

ヘルプで盛り上げることには、こういうのが使えそうだ。


みんなで楽しんだ蘭三郎だったが、今後、意外な展開に進んでしまう。


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