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外伝10

「お疲れさん」

「お疲れ様です」

「コダマと店長のマンション行くけど?」

「もちろん行きます」

大至急で集計とスタンバイ、掃除を終わらせて店を閉めた。


「何か買っていくべよ?」

「だな」

「コンビニくらいしかないですかね」

「そうだな」

ビールや缶チューハイ、つまみを山ほど買った。


「イシハラはどの辺りまで聞いてるんだ?」

「直接は説明されてないっすよ」

「俺らもだよ」

「目の前でタカツカサさんが、病院から失踪したって話しか聞いてません」

「そうなのか?」

「警察から連絡があって、部長が次長にそう言ってましたよ」

「一部始終を店長は、知ってるってことだな」

色んな憶測があったが、店長に聞くしかなかった。


インターホンを鳴らすと、マイカワが出てきた。

「おう、お疲れさん。入れよ」

「お疲れさん。どうせ何も飲み食いしてないんだろ?」

「お疲れ。ビールもたんまり買ってきたぜ」

「イシハラも居たのか。まあ入れよ」

「お疲れ様です」

俺達は部屋の中へと入っていった。

「おーユイちゃん、お邪魔するよ」

「飲み物も食い物も買ってきたよ。ユイちゃん今日もキレイだね」

「ありがと、キムラくん。コダマくんとイシハラくんは言ってくれないの?」


みんなで談笑しているうちに、マイカワにも少し笑顔が戻ってきた。

俺達は何かを察したのか、事件には一切触れなかった。

「明日は出て来るんだろ?」

「バカ、今日も出勤してたんだよ」

「店長、最終なんですけど」

「俺が居なかったからって、恥ずかしい数字なんか出してねえだろうな?」

そのとき、インターホンが鳴った。

「誰だよ?こんな時間に」

「私出る。座ってて」

確かに朝の5時をとっくに回っている。


「ユイ?どした?誰だ?」

「警察だって。マイカワさん居ますかって…」

タカツカサさんに関係することであることは、ここに居る全員が明白だった。

インターホンで応対すると、マイカワは玄関のドアを開けた。


2人の私服警官と思われる男達は、警察手帳を見せてきた。

「次長さんでしたっけ?とマイカワさんしか連絡先をお伺いしてなかったもので。名刺の

 番号は留守電で、もう一方とマイカワさんの携帯も電源が入っていなかったものですから」

「店から何があったか、少しは聞いています」

「お話したいことがあるんですが、内容が内容なんでドアを閉めてもいいですか?」

「会社の仲間と彼女が居ますが、玄関の中ならいいですよ」

「事件に関わることなんですが…」

「ここに居る人間はタカツカサの件は知っています。宜しければどうぞ」


「本日21時40分、病院からの通報により、病室から失踪したことを確認しました」

「ええ。店から報告の連絡がありました」

「先ほど4時10分頃、神奈川県にあるゴルフ場が管理する駐車場で、残念ながら遺体となって

 発見されました。死因は一酸化炭素中毒です」

「え?」

俺は頭が真っ白になった。

数日前、エースの店長に昇格したタカツカサさんが死んだ?

警察のその言葉を聞くと、ユイさんがしゃがみ込んでしまった。


「所持品の中に身元を証明する物が無く、パスケースから鷹司という名刺が数枚あることを

 確認しました。おそらく本人かと思われますが、身元確認をマイカワさんにお願いしたい

 のですが?」

「それは俺達じゃよろしくないですか?彼女がこんな状態で1人にしておきたくないんで。

 俺達の会社の上司でもあるんですよ」

「それは構いません。今からお願いできますか?パトカーでお送りします」

確認へはキムラ、コダマの両支配人が行くことになった。

「悪いな。2人とも頼むよ」

「いいって。ユイちゃんの側に居てやってくれ」

「携帯に連絡入れるから、電源入れといてくれ」

「ああ、頼むよ」


「またお伺いしたいことがあるかもしれません。そのときはお願いします」

「分かりました」

両支配人と警察の4人は出て行った。


店長は彼女を抱かかえると、ソファに座らせた。

「イシハラ、こっち来いよ」

「はあ…」


店長は昨日の話をしてくれた。


2日連続で無断欠勤をしていたタカツカサさんの様子を見に行ったこと。

汗びっしょりで倒れて、白目に剥いて泡を吹いていたこと。

それが覚醒剤のオーバードーズだったこと。

一命を取り留めた病院で警察から、体力の回復を待って逮捕すると説明されたこと。


「俺に謝ってきたよ…」

「…」

俺は何も言えずにいた。

「快楽に溺れたってよ!ふざんけんなよって言ってやったよ」

「ですね…」

店長はタバコを燻らせると静かに口を開いた。

「どうしてこうなっちゃったんだろうな…お前らの前でカッコ付けていたかったよだってさ…」

余程、悔しかったのだろう。

無念さがとても伝わってきた。


「前にシンナーの件で、俺に怒ったの覚えてます?」

「ああ」

学校の先生や警察ではない、頭ごなしに怒りはしないと言っていた。

「あおのときのセリフ…今になって染みます」

「薬物に溺れる人間の末路ってのは、こんなもんだ」

「はい」

「遊びとして割り切れないと、結果はこうなる」

「はい」

「まだあいつ25歳だってよ。バカの極地だな」

「惨めっすね…」


マイカワも俺も、ユイさんでさえも沈黙した。


コダマかキムラからだろう。

店長の携帯が鳴った。

「そうか」


「分かった」


「ありがとう。もう帰れるんだろ?気をつけてな」

電話を切ると大きな溜息をついた。

「一酸化炭素中毒で自殺だそうだ」

「やっぱり、自殺でしたか…」

「自殺する前にもう1発、覚醒剤をブっ放してたみたいだ」

「俺が言うのも何ですが…こんなバカ見たことないですね」

「ああ…」

「付き合う人間ってのは、よく見定めないといけませんね」

「夢や目標に向かって走ってれば、そんな余裕はないはずだ」

「はい」

「もし…もしですよ?俺が覚醒剤でおかしくなったらどうします?」

「お前が俺と一緒に居て、そんなもんに手を出したのなら、きっと俺自身を責めるな」

「店長の責任だと、自分を責めるってことですよね」

「俺と居れば、薬物なんか必要ないからだ」

店長マイカワの言うとおりだった。


俺とマイカワには、絶対的な信頼関係がある。

それ以上に何も必要無い。


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