第十五週:駆け落ちと求婚者(水曜日)
さて。話は突然変わるようだが、《ビワアンコウ》と云う魚をご存知だろうか?
これは、所謂チョウチンアンコウの仲間で、そのオスは、その他のチョウチンアンコウ科のオスに負けず劣らぬ「矮雄」であり、彼らの体はメスの十分の一程しかなかったりする。
彼らは、ある時、深海を泳ぐ仲間のメスを見付けると、まるで何かの力に引き寄せられるように彼女に引き寄せられ、その体に噛み付かされ、そのまま彼女と一体化してしまう。
そう。比喩でも何でもなく「一体化」である。オスはメスの皮膚に融合され、目や脳やその他の臓器は――精巣のみを残して――退化し、その形は見分けられなくなり、生きていく分の栄養をメスと癒合した血管から貰い、メスの放卵のサインに合せて放精をする……と云うだけの存在になってしまうのである。
また、例えば、《トゲオオハリアリ》と云うアリをご存知だろうか?
このアリのオスも、他の多くのアリ同様、繁殖期にしか生れて来ず、そのまま女王の結婚飛行へ連れて行かされ交尾をする。その後、彼は彼女にくっ付いたまま巣に戻って来さされると、周囲の働きアリ達に体を解体され、彼女たちや幼虫のエサにされてしまう……。
いやはや、何方も残酷にして哀しく美しい物語のようであるが、有性生殖における主導権は本来メス(XX)側にある事を鑑みると、形態はどうあれ、銀河のそこかしこで見聞される物語のようである。――え?なんでいきなりこんな話をしたかって?……それは、続きを読んで頂ければご理解頂けるだろう。
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さて。この日、クワラン・ステーションの技術主任(紅茶派)と転送担当責任者(デカフェ派)は、無理矢理飛んで来た十七名の緊急転送者と、正式の手続きを踏んだ十九名の通常転送者を受け入れたワケだが、これら三十六名の賓客は、なんと全員が女性であった。
(続く)




