第十三週:マスクとゴーグル(金曜日)
今朝早く、ワダツミの翁の入江に小さな宇宙船が降りて行くのが見えた。この惑星に初めて来る者のために十四代前の王がお手植えされたと云う葉長く丈高きポリキス・オリーブがその船の起こす風に静かに揺れていたのだが、そんな光景はいつぐらいだろう。先々代の王の御下命により現在、他星からの来訪者は本来、この惑星の軌道上に浮かぶクワラン・ステーションに船を止め、そこから軌道エレベーター或いはテレポーターで地上に降立つ規則になっている。余程の賓客か、それとも無許可で降り立とうとするバカか……。
「父上――」と、その丈高き美貌の乙女は言った。「今日はこれから、ワナガスの洞に参ろうかと考えているのですが……」
すると、この言葉を受けて彼女の父――惑星『エシクス』現君主・エルテス王は、「ワナガス?……はて?今日はミツハの精霊たちに供物を捧げる日でもあったか?」と、彼女に問うでもなく訊き返した。「それとも、ポリキス・オリーブの葉でも揺れたか?」
そのように父王に問われて彼女は、ほんの一瞬、ためらいはしたものの、顔色一つ変えず、「先般の御縁談話から、私もそろそろ婿を迎えねばならぬ年頃と悟り、あのほの暗く快い洞窟の精霊たちに、善き御縁の訪れるよう、また私に合う殿方がどのような方か示唆頂くよう、祈りの日を増やしてあるのです」と、知恵の女神ナイエテと見紛うばかりのその赤髪を、輝かせながら言った。
「なるほど――」と、父王エルテスはさぞや納得したかのような表情で肯いたが、「しかし、それよりは、リアス王のご子息への求婚が上首尾となるよう願うのが先ではないかな?」と、言った――彼女のチラと輝いた眼の光を見逃さなかったのである。
この父の言葉に彼女は再び躊躇したが、「それには、お相手に一度会ってお話しませんと」と言った。「――何番目かは分かりませんが」
(続く)




