第十一週:怪獣と狂獣(木曜日)
「セイさん、光を」と、頸飾の中でアイスオブシディアンが言った――このままではウーも自分もミズチの奥に飲み込まれてしまう。
「いいや、嬢ちゃん」と、ケイバーリットの中からセイ=カハが答えた――この暗闇はミズチの口の中にいるからだけじゃないぞ。
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さて。ショワ=ウーの一族にとって、死者の魂とコンタクトする――死者からの加護を受けるための媒介が「長く伸ばした髪や髭や一族の模様を施した武器であった」ことは先に書いた通りである。が、ここで云う「武器」とは必ずしも剣や大刀やムジョルニアのような無生物ばかりを指すのではない。
と云うよりも、「一族の模様」を施すその最も原初的な意味は、以前『イストゴン』の例でも見た通り、所謂『魔除け』にあった。
そう。文身の俗は何も海民に限った風習ではない。それは例えば、ウーの一族であれば、自由に動けず、呼吸も出来ず、そこに出るまではそこに何があるか何がいるかも分からぬ宇宙。そんな宇宙で大事な我が子を守るため、彼らは「一族の模様」を、その生まれたばかりの赤子に彫り込む事にしているのである。
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ミズチの牙はショワ=ウーの四肢と脇腹を貫き、彼の身体から大量の血を奪っていた――意識は既に無く、血色の良かったその顔はオペンシアの月を想わせるほど蒼く白く透き通る程となり、心の臓は今にも止まりそうなほど。体温は……体温は、「一族の模様」を浮かび上がらせるほどの低さとなっていた。
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「この闇は――」と、自身の感覚器が信じられないと云った様子で、セイ=カハが言った。「この兄さんの身体から出てるぞ?!」
と、彼が勘違いしたのも無理はないだろう。死者の国からの闇なぞ、本来生者は、誰も見たことがないのだから。
(続く)




