第十一週:怪獣と狂獣(月曜日)
黒い大地が蠢いていた――いや、リノンヤナの朱と青の大地の上にポッカリ開いた暗闇が、ゆっくりと蠢いていた。
ゴコシチンシンヤチマタミズチの外観について、この数年後に発刊された『マンガで分かる大銀河動物大辞典(怪獣・狂獣編)【大改訂版】』には、次のように書かれている。
『すなわち、目はゴドピヒドオオザクロのように赤く、黒玄の体に八つ頭。身にも頭にも苔生し木々生えて、その隙間で脈打つ血潮はリノンヤナ火山群の溶岩を想わせた』
「デカいな……」と、先ほど建てたばかりの防御壁の先端に立ち、ショワ=ウーは一人ごちた。周囲の地形から判断するにミズチは未だ12~3km先でとぐろを巻いているだけだが、それでもその身の熱が伝わって来る。
カチャカチャカチャ。と、オットー・オーガナ姫から仮受けた大刀を持つ手が震えた。
以前ならば、戦の前は、長く伸ばした髪や髭を触ることで落ち着くことが出来た――が、今はその祖霊の加護は見込めない。暗く昏い言葉が脳裏を過ぎった――が、しかしそれでも、自分は三つの惑星を統べるイン=ビトと、その妻イン=ティドの息子だ。首に巻いた頚飾に手を触れ、「乙女よ……」と、中の少女に優しく言った。「案ずるな……たかがミズチだ」――母上、どうか我に力を。
少女の匂いに?波動に?気付いたのだろうか、ミズチの十六の赤眼が一斉にこちらを見た。ずろり。と、巨体の動く音がした。
カチャカチャカチャカチャ。剣を持つ手の震えは未だ止まらない。
ずろりずろり。と、河も溶岩も押し退けつつミズチが、ゆっくり、しかし確実にこちらへと進んで来る。
『壁の高さが足りなかったか?』と、近付くミズチを眺めつつショワ=ウーは想った――が、直後、ざぶり。と、ミズチが満杯の酒のタンクに、その八つ頭を入れる音が聞こえた。
(続く)




