第十週:酒と涙と男と女(木曜日)
「私の故郷は、北銀河でもかなり奥まったところにあったからな――」と、貨物室の荷を点検しながらショワ=ウーが言った。「失礼ながら、南銀河の宙理にはあまり詳しくない」
が、もちろんこの貨物点検は少女を誘う為の口実である――であるからして、「おっと、酒のバルブが緩んでいる――女将にはきつく言っておいたのだが……」と、彼が締めたバルブは実はキッチリ締まっていたりする。
小型の貨物宇宙船に乗った三人が永世中立宇宙ステーション『リューズ・グッド・ジョー』を出発してから四時間。船は完全な自動操縦モードに切替り、後は目的の惑星『リノンヤナ』に到着するのを待つばかりであった。
「だから、」と、少女の方を振り返りながらウーは言う。「これから向かう君の惑星について、教えておいてくれないか」
このショワ=ウーの発言には、もちろん少女との会話を楽しみたいと云う彼の下心も少なからず含まれていたが、それ以上に、これから向かう戦場の状況を知っておきたいと云う戦士としての意思も含まれていた。
が、しかし、彼の言う「君の惑星」へ想いを馳せる事は、少女には甚だ大変な難事であって(行ったことがないから)、いま彼女が演じている役柄「薄倖の美少女(笑)」を続けられるかどうか、彼女には自信がなかった。
なので彼女は、「私の惑星?」と小さく呟くと、その透き通るような深く黒い瞳を涙で潤ませると、「すみません。今は……」と、その場を辞した。なるほど、Mrの言う通り、涙とは便利な物で、これならウーも追っては来ない。
それから、大量の酒のタンクとともに貨物室に取り残されたショワ=ウーは、それでも、そんな彼女の後ろ姿を見送りつつ「可憐だ……」と、ひとり呟いた――そうして、この様子を操縦室のカメラから覗いていた金髪の老婆に、大爆笑されていた。
(続く)




