第三十二週:崩御と協力者(木曜日)
「……なあ?!アイス!」と、ソファから立ち上がりながらMr.Blu‐Oが言った。
今にもアイスオブシディアンに掴み掛りそうな彼女を止めたのはショワ=ウーの右腕であった。が、その丸太のような彼の腕すら今の彼女なら折りかねない様子でもあった。
「なあ、アイス……」と今度は、自身に『冷静であれ』と言い聞かせながらMrが言った。「これでアンタの仇はおらんようなった。……これからは、自分の人生を、冷静に――」
しかしここで、Mrが彼女への説得と慰めを始めようとするのを遮るように、
「でも、おかしくありませんか?」
と、その透き通るような深く黒い瞳をMrへと向けながら、アイスオブシディアンが言った。――なんと云うことはない。父母のかたきを誓って以降、彼女は絶えず冷静なのだ。
「おかしい?」と、Mr。
「そう。少なくとも、二つ……三つ?」
「何の話や?」
「一つは、喪を発したタイミング。……いくら巡行中とは言え、二十日は遅過ぎます」
「あ……」
「一つは、喪を発したのが帝国議会だと云うこと。……本来は後継者が行うはず」
「……まだ、決まってないっちゅうことか?」
「そして、もう一つは……『誰が 《ホーライ・カスケード》を利用しようとしたのか?しているのか?』……と云うこと」
*
さて。この時のアイスオブシディアンの指摘が大変に的を得たものであったことは、歴史が証明してくれている。
詳しくは後ほど説明することになるが、前の二者については、帝国内部の――つまりは丞相・宦官らの思惑が交錯する後継者争いが原因であり、後の一者については、コンパルディノス二世の 《協力者》について語る必要があるであろう。
(続く)