第三十週:筒とパジャマ(水曜日)
「筒?」と、Mrが訊き、「はい」と、ジュージャ姫が答えた。「銀河に名高い貴女なら何かご存知ないかと想いまして……」
「モノは?」と、Mr。
「ああ、それならデナンダが……」と、後ろにいるハズの女性に声を掛けようとしたジュージャ姫であったが、「あら?……」何故か彼女は消えていて、その代わりに、
「きゃあああああ!」と、本日ニ回目となるレフグリス=リアスの悲鳴が実験室内に響き渡った。何故なら、ふと振り向いた彼の横には、紺のベールから覗くデナンダの朱色の瞳があったからである。
「あ、あな、あな、あなた……」
と、声にならない声をあげながら、一番手近の機械の陰に隠れようとする王子であったが、そんな彼の様子を見たジュージャ姫は、
「そんなに嫌ってあげないで下さい」と、まるであの屋敷での一件がなかったかのように言った。「彼女も心から反省しているんです」
「反省……?」と、機械越しにデナンダの方を見詰めるレフグリス。――確かに、今の彼女は、鼓も打たねば歌も歌わず、無理矢理こちらに近付く様子も……と云うか、ベールでよくは見えないが、頬を赤く染めてないか?
「皆さんが帰られた後、彼女は、私の惑星で入院加療に励まれたのです」と、ジュージャ姫。「故郷の惑星には戻れないと云うことでしたし、そのうち、私にも心を開いて下さり、最近では一緒にパジャマパーティーをする仲にまでなりまして……」
『パジャマパーティー?』と、ここで男性陣は一様に要らぬ妄想を試みかけたが、如何せん姫とデナンダとではどうもピンと来ない。
「それで今回、私が皆さまに会いに行くと云うと、『是非、自分も』と、付いて来てくれたのです――ね?デナンダ?」
そう問われたデナンダの瞳は、明らかに恋する乙女のそれであった。
(続く)