第三十週:筒とパジャマ(火曜日)
さて。と、ここで時間は一週間ほど遡る。
その日、『クワラン (和鸞)ステーション』の技術主任 (単行本派)と転送担当責任者 (連載を追う派)は、惑星エシクス軌道上の職場へと向かうため、軌道エレベーターの到着を待っているところであった。
「そう言えば、ウチの子が妊娠したらしくてですね」と、出掛けに買ったコーヒー (デカフェ)を飲みながら転送担当責任者が言った。
「え?ああ、ウサギの……」と、職場に着いてから淹れる予定の紅茶の茶葉を今日は何にしようかと考えながら、技術主任が返した。「……避妊手術をしてなかったっけ?」
「それが、お医者さまから聞いたんですが、最近、この手のケースが増えてるらしくて」
「……うん?避妊手術後の妊娠が?」
「それもありますし……、特に女性に多いらしいんですが、やたらと恋に落ちたり嫉妬に狂ったり、お通じが改善したり、数カ月ぶりに生理が戻ったり……、と想ったら、《ク〇ラが立った》的奇跡を目の当たりにしたり、花は咲き乱れたり、鳥は歌を歌ったり……」
「なんだそりゃ?」
「例の王子の生化学物質の影響じゃないか?……ってその先生は言ってましたけどね」
「ああ、まあ、除染作業にも限界があるし……」と、ここで、技術主任が異変に気付いた。「……エレベーター遅過ぎないか?」
「そうですか?」と、転送担当責任者。
「そうだよ。かれこれニ十分は待ってるぞ」と、空を見上げながら技術主任。
「そう言われれば……」と、転送担当責任者も同じように空を見上げたが……、そこでやっと気が付いた。「あの……」
「どうした?」
「ステーション、消えちゃってません?」
と、同時に、ひゅぅぅぅううう。と、空から一個の、小脇に抱えられるぐらいの、銀色の筒が、彼らの間に落ちて来た。
(続く)