第三十週:筒とパジャマ(月曜日)
「それでは、そこに我がクワランも加えて頂けますか?」
と、そう言って実験室に入って来たのは、知恵の女神ナイエテと見紛うばかりの自慢の赤髪を三つに編み込んだ旅装姿のジュージャ・ミシトース・エルテス――惑星エシクスのエルテス王が一人娘であった。
「姫さん?!」と、Mrが驚いた声で言った。「なんでこんな所に?!」
そうMrが言うのも無理はあるまい。いくら旅装姿とは言え、ジュージャ姫のその輝くほどの御姿は、この薄汚いタイムパトロール本部においては 《掃き溜めに鶴》 《原油流出現場のパーセルヒドラドシルフシチョウ》と云う慣用句がピタリであったのだから。――が、驚くべきはそればかりではない。
「きゃあああああ!」と、突然叫び声を上げたのは、レフグリス=リアスであった。
と云うのも、未だ白マスク&白ジャージを外させて貰えない彼は、ジュージャ姫の後ろに見知った影を見付けたからである。「な、な……なん、な、なんで……」
そう言って小刻みに震える王子に相変わらずの冷たい視線を向けながらジュージャ姫は、「何故、ここにいるのか知りたいそうよ」と、問題の人影に向けて言った。「――デナンダ」
すると、促がされたその人影は、身体を包む紺のベールから朱色の瞳を覗かせながら、「その節は、皆さまには大変なご迷惑をお掛け致しました」と、歌うように言った。
この女性の声に、Mr以下一同は、一歩引きつつ、彼女の顔を改めて見詰めたが……レフグリスなぞは、今にも逃げ出しそうである。
「紹介が遅れましたが、私の本名は、デナンダ・アングリス・パンテラ。歌うたいのパンテラ族族長ミルトスが一人娘で御座います」
と、その女性――エルテス王王屋敷で例の騒動を引き起こし、レフグリスに 《あの力》を使わせた張本人――は言った。
(続く)