第二十九週:植物とブラック企業(木曜日)
『おい!そこ!イッカクキビトカゲが抜け出そうとしてるぞ!ちゃんと捕まえとけ!!』
と、照射型4Dデバイス (匂いも嗅げます)の向こう側で叫んでいるのは、『なんでもやります!やらせます!』のキャッチコピーでお馴染み 《フラット・セラー・エージェンシー》の派遣労働者ハー・リンダイ氏であった。
『すみませんね。ウチの営業のタケナカってのが、また何の考えもなしに無茶な仕事を取って来まして――』と、ハー・リンダイ氏。『明日破壊予定の惑星に来たら、脱出船団へ動物種を乗せる業務を任せたヤツらが夜逃げしたって言うじゃないですか……で、そのタケナカって奴に問い質したら、ピンハネ過剰で現場に払うお金がほとんどゼ――』
「あの……すみません」と、ここでもまた、口を挿んだのはMr.Blu‐Oであった。「お聴きしたかったのは地球って云う……」
『ああ、はいはい。よく覚えてますよ』と、ハー氏。『もう何年も前のことですがね。あんな変わった現場は……おい!そこ!ソラトビシロチビウマは鎖で捕まえとけっていったろ!飛んでかれたら面倒だ!!』
「えーっと……リスケします?」と、Mr。
『ああ、いえいえ、この後も、事前確認→火炎→粉砕→清掃……全て私がやることになってましてね。リスケなんてとてもとても……』
「はあ」
『ほら、ウチ、正真正銘のブラックですから』
「それはまた、大変な時に……」
『しょうがないですよ。政治が悪過ぎるんでしょうな。その内、現場をやる人間なんて一人もいなくなりますよ。ワハハハハ!』
「なるほど……」
『で、そうそう。地球でしたな。……あの頃はまだ粉砕だけやってたんですがね……さあ、これから作業だって時に、ポワン。って音がして青黒い空間が現れたと想ったら、キュキュ。ヒュン。って、惑星ごと持ってたんですよ』
(続く)