第二十七週:拍手と歓声(火曜日)
『なに?』と、亜空間ネット通信の向こう側で、F社のエグゼクティブ・ディレクター兼COO兼DE・TOX社会長兼CEO兼コンサバディブ・ポストイット(……役職名、合ってるよね?)のC氏が驚いた声で『《不倶戴天の敵なる破壊神の生母、地獄の最下層からの御使い、黄龍と呼ばれた偉大なる獣、ハデスの名付け親にして偽りの乳母、闇の申し子、サタンが子房(……Mrの二つ名、合ってるよね?)》が、そんなことに?!』と、言った。『おい!シルバーくん!!』
と、長く永い、遠く遠いネット会議にいい加減辟易しつつ、4D画面の端っこでギャラガでも始めようと考えていたリチャード・P・シルバーは、突然出された自分の名前に、「は、はひ?!」と、変な声を上げると、「ど、どう、どうかされましたか?ポストイット?」と、どうにかこうにかの返事だけは返した。
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『ほら、今、少し光った』と、画面の向うで、スーパーイケメンボイスのシャアン=ティが言った。『――時間停止じゃないか?』
そう言われてホーマンも、《カイゼリン》の航行記録を巻き戻すと、問題の場面を改めて確認した。――確かに、《鷹》のコックピットの右側が一瞬光っているように見える。
が、しかし、「そんなんじゃありませんよ」と、ホーマンの代わりにトキコが応えた。《エルピス》による《鷹》の航行解析が終了したのだ。「――と云うか、そんな暇はなかったハズです」
『……どう云う意味だ?』と、ティ。
「《鷹》のあの速さは――」と、自分で自分の言葉を疑いつつもトキコは続ける。「変わり続ける亜空間の最短航路を操縦者本人が計算しつつ飛ばないと出ない。……操縦者に時間を止めてる暇なんかないでしょ?」
『ああ?』と、ティが訊き返した。『――そんなバケモノがいるのか?』
(続く)