第二十五週:イケメンとシリウス(水曜日)
『さあ!先頭の機体が《トゥ・レ》の向こう側から戻って来ました……が、若干、《S・カイ……いえ、ほぼ同……いえ!若干!若干ではありますが!《鷹》の方が先に戻って来ました!!』
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「どう?」と、アルメド=ホーマンが訊き、「内側に入って来るとは想いませんでしたね」と、ノース・トキコが答えた。「――クソみたいな度胸ですよ」
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「なかなかやるじゃん」と、Mr.Blu‐Oが言い、「計算通りですよ」と、アイスオブシディアンが答えた。「――このガラクタなら行けると想いました」
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さて。《一千歳の鷹》については、宇宙の至る所で様々な噂・伝説・神話の類いを耳にするが、その中でも、特にその速度については、「ごめん。ちょっとなに言っているか分からない」と言いたくなるような、噂・伝説・誇大広告の類いがまことに多い。
特に、人口に膾炙した「光速の1.5倍」や「ケッセル・ランを12パーセク」等については、義務教育相当の天体物理学を習得された方なら『?』となられるところであろう。
で、まあ、そんなこともあってか、件の『恒星戦争』の著者である歴史家のG・L・ウォルトンは、その補記の中で、この二点に関する詳しい説明を残しているのだが……それをここに書き始めるとレースの行方が分からなくなってしまうので、レースを追い掛けながら、逐次引用・参考していくことにしよう。
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『先に入ったのは!先にトンネルに戻ったのは!……《鷹》です!《鷹》が先頭で《妣国神殿》に戻りました!!続いて、《S・カイゼリン》と、少し遅れて、作者もすっかり忘れていた《コウン・G》が入りましたッ!!』
(続く)