第二十四週:6億円とおとぎ話(金曜日)
さて。この広い広い宇宙には様々な恒星や惑星や衛星などがあって、その中には天寿を全うして終わる星もあれば、何らかの理由 (オリンピックとか)により天寿を全うせずに消される不遇な恒星や惑星や衛星などもある。
なので、そんな不運な恒星や惑星や衛星を不憫に想われたこの世界の神様だか創造主だか超自然的存在だかは、彼ら彼女らのための居場所 《ホーライ・カスケード》を御造りになられた。――らしい。よく知らないけど。
で、そんな不幸にも突然消されたり終わらされたりした恒星や惑星や衛星たちは、本来の姿のまま、その《ホーライ・カスケード》なる場所に集められ、永久の生命を謳歌する。――と云うのが、南銀河を中心によく知られた《ホーライ・カスケード》の物語である。
が、もちろん、これはただのおとぎ話であって、それは多分に、一族を奪われた男や、愛する母と二度と会えない息子、戻る故郷を破壊されてしまった女の子なんかの為に、心優しき何処かの誰かが、彼ら彼女らに語って聞かせた作り話……の名残りなのであろう。
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「でも、それでもね、」と、Mr.Blu‐Oが言った。「すべてのお話は、すべて本当にあったことなのよ。――みんなが、それを忘れてしまっただけでね」
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ビビッ。と、ここで、《一千歳の鷹》の警告音が鳴り、皆に亜空間の出口が近いことを教えてくれた。
出口からトゥ・レ星までは約1億km。星の円周は約900万kmだから……今の速度で行けば、15~20分程度で再び《妣国神殿》に戻って来る計算になる。
「あ、そだ。アイス」と、フッと想い出したようにMrが言った。「《トゥ・レ》って、《旅路の平安》って現地語なんだけどさ、地球だと《シリウス》って呼ばれてたらしいよ」
(続く)