第三週:海と文身(月曜日)
「だからお前も、復讐などと云うような考えは捨て、先ずは自身の幸せを考えなさい」と、老人が言った。まさか自分の計画を知られているとは思ってもいなかったアイスオブシディアンは、何か言い訳のような物を言おうとし、それでもやはり、その口をつぐんだ。
「いい男を見付け、子を産み。そして育てろ」八才の女の子に言うには重過ぎて、ジェンダー的にも大問題なセリフを老人は言う。「それがなによりの父への供養となろう」
そうして、それからしばらくの沈黙が流れた後、アイスオブシディアンは、その深く透明な黒い瞳を老人の方に向けると「しかしそれでは、私の無念が晴れません」と、言った。
老人は、その瞳を――アイスオブシディアンよりもつぶらでカワイイ瞳を、ゆっくり閉じると「左様か……」としばし沈思黙考した後、「そなたがそう言うのなら、ワシが止めるワケにもいかんのう」と言った。
それから今度は、「ではせめて、少しばかりのお節介を焼かせてはくれぬか?」と言うと、海の惑星『イストゴン』の座標と、そこに住むと言う賢人『Mr.Blu‐O』への紹介状、それに『封神演義・完全版・全十八巻セット(藤崎竜)』を彼女に手渡した。
「まずは、ともに戦ってくれる仲間を探すことじゃ」そう言いながらアイスオブシディアンの手を、その三本の指で老人がやさしく包み込む。「このBlu‐Oなら、お主の力になってくれるやも知れぬからのう」
アイスオブシディアンは、老人の手の温もりに忘れていた涙を流しそうになったが、それでも、それに堪えて立ち上がると、師に別れを告げ、『イストゴン』へ向かう手筈を整えた。旅のお伴は当然『封神演義』だった。
「お前が赤子のころにも、雨の中をこうやって歩いたことがあった…濡れないように…風邪をひかぬように……大きくなったな、楊戩」のシーンでマジで号泣した。
(続く)




