第二十二週:マニューバとV8(金曜日)
『さあ、序盤から面白い展開になって参りました 《深探索ワームホールラリー》。昨夜食べたピザのような 《一千歳の鷹》が小惑星帯の密集エリアへと舵を切ると、我らがホーマンの 《S・カイゼリン》も彼の後を追い……後続は……後続は……通常ルート……には行きません!二機!後続の二機も、彼らの後を追い掛けます!……え?何?……《鷹》のパイロットは女性?……だって 《Mr》って……生まれ変わるタイプ?』
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「男か女か知らんが……」と、右目の義眼をサーチモードに変えながらア・ブダルが言った。「密集地帯の方が追い掛けやすいわ」
すると、この言葉に副操縦士で従弟のム・ハメドが、眠たそうな声と目で「小粒は気にしない感じだよな……」と応えてから、「シールドは80で良いか?」と訊いた。
するとブダルが、「いや、60で十分だ」と答え、「了解」と 《iキヤムラ》の防御シールドを張り直しながらハメドが応じた。「さあ、いつでも突っ込んでくれ」
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「《鷹》は見える?」と、アルメド=ホーマンがパートナーのノース・トキコに訊いた。
「レーダーには見えてますが……」と、トキコ。「視認だと……私でも無理でしょうね」
「貴女でも?」と、チラッと彼女の方を見ながらホーマン。「……珍しいこと言うわね」
するとトキコは、「ファティマでも使ってんじゃないですか?」と、少し憤った様子で言った。「《鷹》のパイロット……ギリッギリのコースを取り続けているんですよ?」
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「もうダメ、もうムリ、もうムチャ」と、泣きながらアイスオブシディアンは言った。「……スラスターを右に32度……こんなのぶつかったら死……キャブを3度修正してから加速して……ええーん。帰りたいよお!……」
(続く)