第二十二週:マニューバとV8(木曜日)
さて。今回のラリーにおける難所は幾つもあるが、今まさに、《一千歳の鷹》号が通り抜けようとしているアステロイドベルト(小惑星帯)もその一つには違いないであろう。
『でも、宇宙は広いから小惑星帯と言っても小惑星同士の距離は何千・何万キロも離れているんじゃないの?』と、想われたそこのアナタは、なかなかに鋭い感性をお持ちだ。
確かに。ここカイベディック星系の小惑星帯で言えば、小惑星間の距離は大体20万kmから3億万km。もちろん、常に動き続けているので、中には3~4万kmと極端に近くなっているものや場合によっては衝突を起こしているものもあるにはあるが、なるほど我々の感覚からすると驚くほど遠く離れ離れになっているような気がする。
が、しかし、今回はスピードレースである。仮に光の半分の速度で進んだとしても、密集地帯を通る際は1~2秒に一個の割合で小惑星と遭遇する覚悟が必要になってくる。
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「V8を讃えろ!」と、イオンエンジン搭載船にも関わらずMr.Blu‐Oは叫んだ。
そうして、その勢いのまま、第六惑星ハルデスへの最短ルート――小惑星の最密集エリアへと舵を切った。
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「アレ、本気?」と、《一千歳の鷹》の斜め後ろを飛ぶアルメド=ホーマンは呟いた。
すると、彼女のパートナー兼副操縦士のノース・トキコが笑いながら「半分狂気?」と言い、「……計算上は半分本気」と、笑いを止めながら訊いた。「……どうします?」
そんな彼女の挑発的な態度に血が騒いだのだろう。ホーマンもまた、小惑星帯の最密集エリアへと《S・カイゼリン》の舵を切った。
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『なんと!最短コースです!先頭二機とも!最密集エリアに向かいました!!』
(続く)