第十七週:愛と競技会(金曜日)
「あんたは、さっきの?」と、Mr.Blu‐Oが言った。「入江で会った子?」
「なんで眠らないの?」と、鼓を持つ女性――フェファン・バデナンダ・メントスは言った。「……メスじゃないの?」
この鼓の音と歌はマズイ。例のマスクなら完全遮音モードもあるけど……一つはアイスに持たして、一つは王子が被っている。と、そんな事を考えつつMrは答える。「有性生殖じゃないんだよ」――先ずは、時間稼ぎだ。
「ふうん……」と、手中の鼓を愛おしそうに撫で廻しながらバデナンダが、「《火主》……いや、ヒトっぽい感じもあるし……ああ、《時主》ね」と言った。「……まだいたんだ」
彼女のこの言葉に恐怖を感じたのはセイ・カハだった。『この人にその話は危ない』――先代の時は、相手の惑星を《存在しなかったこと》にしようとした。
すると、そのセイの雰囲気を感じ取ったのか、Mrが、バデナンダの方を見据えたままの格好で、「大丈夫よ、セイさん」と、言った。「今のあたしは、平和主義的お姉さまに生まれ変わってんの――文字通りね」
そんな彼女の様子を見ながらバデナンダは、『鼓の調節は要らないわね』そう判断すると、その朱色の瞳を、Mrから広間の奥で身動き取れず座ったままのレフグリスへと向けた。
「さあ、それでは王子」と、まるで歌うような声で彼女が誘う。「他の求婚者たちは眠りに就きました――どうぞ、私をお選び下さい」
ていとう。ていとう。と、先ほどとは調子の違う鼓の音が室内に響き、レフグリスは被っていたマスクを自ら外した。マスク内に籠った彼の匂いが一瞬、室内に拡がったが、この匂いに操られる者たちは全員眠りに落ちている。そうして今度は彼が、バデナンダに操られ、引き寄せられ、そこで片膝を付かされた。
――が、そこで彼は、「ごめんなさい」と言った。「折角ですが、お断り致します」
(続く)