はじめに。
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歌の女神デナンダよ、わたくしにかの少女の物語を語って下され、蒼く青い故郷を追われ、流浪の旅に明け暮れた、かの氷種黒曜石の瞳持つ少女の物語を。
多くの惑星を見、またその心と魂をも識った。己が生命を護り、仲間たちの帰国を願い、銀河をさまよい、数多の苦悩を味わいながら、長くも永き旅路の果てに、緑の大地を踏みしめた、あの乙女の物語を。
さあ、女神よ、ミルトスが御息女よ、なにとぞこれらのことごとを、どこからなりと御気の向くまま、われらにも語って下され。
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さて。右の文は、アルファケンタウリ出身の詩人ホスタージが書いたとされる八篇の叙事詩のうち現代まで語り継がれている二長編の一編『オブシディエイア』のあまりにも有名な冒頭部分であるが、ここで詩人は、物語の開幕を急ぐがあまり、あるいは、読者並びに聴衆たちの知識を信じるがあまり、この詩のもう一人の主人公――と言っても良いだろう――かの黄金の髪と碧き瞳、そして堅忍不抜にして機略縦横なる魂を持った我らが時の女神・Mr.Blu‐Oへの言及・賛辞を詩い忘れている。
また更に言うと、他の歴史的資料と比較してみても、この詩人は――もう一つの長編『ナホトセット』も含め――彼女 (或いは、彼)Mr.Blu‐Oが銀河の歴史の中で果たした役割を軽視したがる傾向があったようで、この事が、歴史資料としての『ナホトセット』『オブシディエイア』の価値を減じているとは、よく言われることでもある。
そこで……と云うわけでもないのだが、今回私は、彼女 (時々、彼)の一ファンとして、彼女 (又は、彼)とその盟友・キム=アイスオブシディアンの旅の物語をここに書き綴ろうと想い至ったワケである。
もちろんこの試みは、かの大詩人ホスタージへ対抗しようとする大いなる愚挙であるとも言える行いではあるものの、そこはそれ、私のような一書生が派手に転んでケガをしたとしても、私以外に苦しむ者もない愚挙である。
であるからして、賢明なる読者諸姉諸兄におかれては、この旨お忘れなきよう、この馬鹿者が大いにすっころび倒れ伏した際には、せめて骨ばかりは拾って頂きたい――と、そう願う所存である。
さあ、それでは、前置きが長くなったが、歌の女神デナンダよ、知恵の女神ナイエテよ、わたくしにあの少女と、彼女の賢明かつ懸命であり続けた友についての物語を語らせたまえ!
そう、先ずは、キム=アイスオブシディアンの素性より語ることとしよう。