ⅱ(4)
歪んだ暗い扉がある。地下室の扉だろう。穴の夢を見る。あの女の穴ぼこの夢だ。ずっと奥底から声がする。何者か分からない声が聞こえてくる。ほとんど常人では聞き取れないほど微小なものだ。動物胚が囁くような小さな小さな呟きだ。それは意識の深層へ刷り込むように何度も何度も反復した。
……これからもっと、…もっと恐ろしいことが起こる。…大事なのは盲目のアンナだ。…彼女を守るんだ、家に帰りたければ誰よりも彼女を。
たとえばだ。昨日に一羽の鳥が死に際の苦悶の末に、不意に飛ぶのを止めるのを目にしたり、隣人の誰かがその黒い斑点の病によって無惨に死んだとしても、次の日の朝の彼らの生活はさほど変わらない。
他愛のないおしゃべりや美味い酒ほどに興味を満たすこともなく、自らが栄えるために金儲けや税のことに日々腐心する。週末になる頃には反省のないまま愛欲におぼれ、狂熱に浮かれるだろう。己の信じたいものだけに目を向け、欲するものだけを今欲する。まったくそれの繰り返しである。そのことにしか余念がない。
たとえば日に日に増え続ける鼠害と、その死骸の処理についての不平不満を口にし、街角における詩や演劇などの中で消化したりもするだろう。あるいは不可触民や異教徒などを無闇に迫害することで、多少の鬱憤を晴らすこともあるかもしれない。
だが、彼らが実際のものに辿り着くことはない。異様の全容を見ることは決してない。芥入れに溢れる齧歯獣の死骸について真面に意味を考えようとしなかった。彼らは実に愚かしかったのだ。
偏向した思想は議論の本質を容易く見失わせ、その異常性すらも日常的なものとした。自らの生活の一情報に変えてしまう。イデオロギーや信仰の自由の先に、死に至る脅威すらも記号化し、全てを虚構と幻想の産物へと落とし込めたのだ。
しかし、それらは確実に忍び寄る。生物と非生物の波打ち際より。何もかもが手遅れだと気づいた頃には、罹患者の規模は七丘全土で十数万人へと膨らみ、死者はその大部分に上った。
星を見ていた。目の前いっぱいの光だ。
酒場の二階に残されたのは一人の女と数人の子供たち。もう部屋は星によって埋め尽くされている。天球儀の内側のように変わってしまっている。
「そう、お前は母さんが欲しいのね、その願い叶えましょう。あら、お前も母さんが欲しいの? いいわ、叶えましょう」
星々の下に子供らは彼女に寄り添い、その寵愛と慈悲を乞う。女とはマハだ。紫と緋の衣をまとい、金や宝石、真珠の装飾に身を飾っている。たおやかに膝を曲げ、彼らの体を優しく撫でつけている。
「来なさい、ぼうやたち。あなたたちは母親がいないことに疲れているのね」
王の死から始まった混乱は、瞬く間に街全体を恐怖のどん底へと陥れた。
権力者や資産家たちは恐れを前に、果たすべき義務を放棄する。持ちうるだけの家財を持って自らの邸宅に火を放つ。忽然と姿を消したのだ。
それによってあらゆる公務が滞り、公的機関が次々に閉鎖される。あっという間に街は都市としての機能を失っていく。
そのような状態に市井のものらも倣って、次第に街から離れていく。こうして数百年も続いた街はあっさりと崩壊する。
最早、疫禍に食い尽くされたこの地に真面なものはいないだろう。残されたのは、行き場のない奴隷たちか浮浪者ぐらいか。彼らは焼かれずに残った邸宅などを根城とし、暴力と略奪を繰り返しながら通りを我がもの顔で闊歩する。
さらには精神療法的解釈によって、芥子が病に効くなどというデマが流れたことで、粗悪な阿片が大量に出回り始める。治安悪化に一層拍車が掛かり、死者と異常者で街角は溢れ返るようにもなる。秩序というものは今や完全に崩壊していた。
「今日から私があなたたちのマザー、マザー・オブ・ハーロット」
マハは子供らを引き寄せる。寄り添う子らもまた全身の皮膚を冒されている。それらは全身を隈なく蝕んでいる。彼らを星の子供と化す。
だが、苦痛と死の要求に怯えるものはない。退化したみたいな手足で藻掻くように体をすり合わせている。彼らは最早、獣欲と原始的本能の狭間で、粘膜と快楽中枢を擦るだけの浅ましき動物のようだ。何時間も何時間もそうしている。恐ろしく緩慢に重なり合って、境がどこかも分からなくなるまで体同士を同化させ続ける。ずっと永遠にそうしている。
「ラーズ、ラーズ、どこなの、ラーズ?」
彼女が私を求めて呼んだ。
だけど私は気が付かない。星の家となった部屋の隅っこで、空腹と渇きに気が狂っている。甘くも酸っぱくも不味くもない、何の味かも分からない葡萄酒をひたすらに胃に流し込み、山羊だか鼠だか、とにかく何か腐ったみたいに粘い肉を食い散らかす。
それでもまるで収まらない。何かが決定的に埋まらない。
充満するバラの匂いと強烈な芥子の香。肘が当たって敷物の上に、香油の瓶を倒すが気にも留めない。あるのは何かに対する底なしの飢餓と激しい渇望だ。求めても求めても得られない空虚な感覚でしかない。
いつからそうだったのか。欠落したものは何だったのか。とっくに忘れてしまっている。いや、最初からそうだったのかもしれない。あの森で偶然、女衒に拾われたときから。あるいはもっと前。洞の中でがらんどうの夢に浸っていたときから。
とうとう飲むものが何もなくなって、必死に辺りを引っ掻き回す。右へ左へと這い回る。滑稽なほど半狂人の焦燥で周囲をさらい、物という物をなぎ倒しまくって、やっと何かを手にする。
それは不気味な金色の杯だった。触れると何かぬるりとする粘液によって覆われている。妖しくも鈍い光を宿している。末期の病に冒された女の股座のような酷い臭いを放っていた。すると彼女が私を見つける。「——そこにいたのね、ラーズ、いえ、あなたの名はタキオン」
びくりと背筋が伸びきる。誰も知らなかったその言葉。誰一人、口にしなかった真の名だ。
最後に呼ばれたのはいつだったか。確か母親の声だった。だが、それはあまりに遥か昔でもある。恐らく人の一生ほども遠い記憶だ。彼女が私を最後にそう呼んだのだ。
……いいや、待てよ。そうじゃない。間違っている。あれは母でなかった、ただの偽物の女だ。あの言葉に騙されたのだ。あのクソみたいな嘘にしがみ付いたからこうなった。ああ、そうだ、あの言葉は嘘だったのだ。大嘘なのだ。妖しくマハが微笑みかけてくる。いつの間にか、こちらに手を伸ばそうとしている。もう私を捕まえようとしている。
女は来ない。いつまで待っても迎えになんて来ない。なら何故だ? 自分は長い間ここで何をしているんだ? 誰のためにここにいる? 何がしたい、何のためにだ? 頭と心が乖離している。自分で自分が分からなくなっている。望むべきことと、やっていることが倒置している。自分は一体何なんだ? 目の前で整合性が瓦解する。思考と現実がどんどん噛み合わなくなっていく。しかし全ては賛美の詩のようだ。渾然一体となって、ぐるりぐるりと加速をつけて廻り始める。
唐突に堪らないほどの吐き気が喉元に込み上げてきた。思わずその場に嘔吐した。眼球一杯に涙が滲んで、胃が激しく痙攣する。上手く呼吸ができない。自らの吐瀉物の上をバタバタと暴れる。身を捩ってもがき苦しむ。
不意に自分の腕に目を向けた。そこには何かがある。更なる異様が映っている。黒く小さな無数の斑点だった。そのものによって全てが包まれようとしている。それは一体何なのか。明らかに阿片だかの薬疹じゃない。もっと恐るべきものだ。あるのは一つの確信だった。先のない漆黒の闇への誘い。そこに向かって自分が落ち込もうとしているのが、はっきりと分かった。
手の杯を捨て去る。何とか振り絞るように立ち上がる。
逃げなくてはいけない。ここにいるべきではない。その強い思いのみが四肢を動かした。
フラつきながらも部屋を出る。おぼつかない足取りで階下へと向かおうとする。
だけど、すぐに足を踏み外してしまった。階段を派手に転げ落ちた。そして無様に床に這いつくばる。
まるで自分が自分でないみたいだ。見上げると視界も無限に歪んでいる。全てが怖ろしく揺れ動いている。瞳の中で誰か女が躍っている。
それでも何とか壁をよじ登る。逃げなきゃ、逃げなきゃならない。こんなところにいるべきじゃない。
やがてそうこうするうちに目の端にあるモノを捉えた。
それは何だった? 見覚えがある気がした。
確か、あの地下へと続く食糧庫の扉だ。そうに違いない。
おもむろにその中へと飛び込んだ。そして扉を閉めて即座にしゃがみ込む。祈るように縮こまる。
だけど無駄だと分かっていた。何も変わらない。ここにいてもおんなじだ。捕まるのは目に見えている。どうにもならない。でもどうにかしなきゃならない。どうにかしてここから逃げなくてはならない。
じっとしていると、また圧倒的な不安がやってくる。それに押し潰されそうになる。同時に寒気もしてきた。汗が怒涛のごとく噴き出して、尋常ではないほどの震えがくる。でも無理なんだ。自分は無力だ、死に損ないだ。ちっぽけな存在なんだ。それが出来るなら、とっくにやっている。こんなところにいたって、誰も助けちゃくれないよ。ああ、助けてくれ助けてくれ。いや、無理だ。無理なんだ。自分はもうどうかしている。どうにかしちまっている…。そういう思考の繰り返しだ。
そうしたとき、ふと奇妙な夢のことが頭をよぎった。
そうだ、あの穴だ。あそこからなら可能かもしれない。逃げ出せるかもしれない。
あのとき見たものが、どれほどの大きさだったのか分からない。だけど、確かにこの場所で見たのだ。他に思い当たらない。もうここには逃げ場がない。望みがあるならあの穴だ。
そんな希薄な思い付きを頼りに、部屋中を探し回る。壁という壁、床という床、天井という天井。その全部を探し回ってみる。
しかしだ、どこにもそれは見当たらない。
どこにいったのか。ないはずはない。見ただろう? いや、ここで見たのだ。見たはずだ。でも見当たらない。何故ない? そもそもあれはどんな穴だった? 形や大きさは? ただの敷石の隙間じゃなかったか? そんなことより現実だったか?
とうとう探す当てを失って精根尽き果てる。府抜けたみたいに腰を下ろす。もう駄目だ。きっと見間違いだったのだ、あれは。
すると偶然にか、その下の石が盛り上がっているのに気が付いた。
明らかに不自然な膨らみだ。そこに何かが埋まっているのが分かった。
微かな希望でもって床石を取り除く。その先、そこにあったもの、果たせるかなそれは、あの穴だ。隠されるように、ちょうど子供の腕が捻じ込めるほどの穴が開いている。あった、やはりあったのだ!
どうにかしてこの穴を使う、こじ開けなくてはならない。一刻も早く逃げ出さなければならない。
必死にそれを掘り返す。熊手みたいにガリガリと両手で地面を掻き込む。何度も砂利が爪に突き刺さり、やがて指が十本とも血で染まっていく。
でも一切構わない。深く深く、とにかく深くに両腕を動かし続ける。そうして掘り進めたその先に、何かが指先に当たった。
大きな塊だった。それは何だ? 何かの原型だ。そう、そのものとは人の姿をしたものだ。出てきたのは一体の人骨であった。
誰だったか、その背格好や身に着けたものには見覚えがあった。
これは、盲目の少女だ。
きっとこれはそうだろう。確か彼女は姉妹だったようにも思う。変な話だが、まだ生暖かい気もする。
だけど、それがギーギーだったかアンナだったか、彼女らのどちらかも分からない。それ以前に〝彼女ら〟だったのか。盲目だったのは姉妹だったのか、一人だったのか。
ああ、とついに窒息して意識が薄れる。目の前がとぐろを巻く。頭が破裂しそうだ。全てが行き詰まっている。もう僅かに動くこともままならない。そして骸は静かに語る。
「La's‐There she goes(ラーズ、彼女が来るよ)」
捻じくれた視界の向こうからだった。
誰かがやってくるのが分かる。手にはあの金杯を携えている。穢れた金色の杯を。
それは生きているかのように艶めかしい。僅かな脈動を宿し、不浄で邪悪、かつ強烈なチセイを放っている。母なる胎盤。雌性の象徴。
彼女は倒れこんだ私を優しく抱き起こす。柔い果実を手にするように頬を大きく包み込む。
そして息を吹き込んだ。深い口づけをする。
おおよそそれは母親がするようなものではなかった。息遣いを殺すように舌と舌をぬめらせ、目の奥へと誘うみたいに瞳を深く合わせる。口内を一つに混ぜ込んで、ついには脳髄をも溶解させた。同時に全身が恐ろしくゆっくりと凍てついていく。身体の芯から熱量が失われていく。
たった今、何かから転落しようとしている。そういうことがはっきりと分かった。もう一切のことが正常に判断できない。ただ失声した唇で、おかあさん、と動かすだけだった。
「何も心配はないわ、もう。ここがあなたの家なのよ」
一筋の涙が頬に下った。だが、悲しみからではなかった。むしろ真の母親と融合したことによる歓喜のものに近かったのかもしれない。
遥か以前に誰かが言った。この子はもう駄目になる、きっとこのまま子供のうちに死んじまうだろうよ、と。
確かにそれは本当だったろう。恐らくだ。恐らくこのとき、彼が現れなければ、ルドルフという男が私を救い出さなければ、この熱量は失われていた。
やがて、マハの世界の中で子供のうちに死んでしまっていたに違いない。
そのとき魔窟の扉は開かれる。娼館の扉を開け放ったのは一人の初老に近い男だ。星の部屋へと乗り込み、私とマハ、その子たちを見つけ出す。
男はそれを見るなり即座に全てを察した。ひどく険しい表情で、やっかいな暗示を踏んだな、と呟いた。
戸口から差し込む強烈な光。暗がりの中でゆっくり彼らがそちらを振り向く。全ての視線が一つに注がれる。
それが合図ともなった。
子供たちが一斉に男へと向けて飛び掛かっていく。
だが、男は一切動じない。冷静に半歩だけ足を引くと、僅かに腰を落とした。
そして身に着けた外套(※衣服の上に着る外衣。マント)を翻し、子供らを容易く薙ぎ払った。
追い払われて子供らは四散する。一気に男との距離をとる。けれど彼らもまた平然としていた。ただ体勢を崩されて引いたのではなかった。彼らは深く星を宿している。部屋を写し取るように無数の穴を身に纏っている。次のとき、にやりと笑うと、静かに部屋の内部と同化し始めた。自らを急速に不可視としていく。
でも、奇妙なことに男の方も落ち着いていた。そのことを目の当たりにしてもなお、表情にさして変化は見られない。しかめた眉頭をほんの少し上げた程度である。
彼らは変化を俄かに終えると、今度は不意を突く形で男に飛び掛かっていく。次々と死角からの波状攻撃を仕掛けていく。
だが、男は全く顔色を変えない。ほとんど児戯を見るかのようにする。やすやすと全てを捉え、あるいはいなしていく。
その身のこなしは目で追えないほど猛烈な速さでもある。およそ人の動きとは思えないものだ。一見すると何をしているのかも分からない。子供らがただ目に見えないものにぶつかって自ら飛んでいっているようにしか見えない。突然、彼らの重心がどこかズレてしまったようにしか見えない。それほどの妙技でもある。
しかも、にもかかわらず男は恐らく力を使っていない。その場を動いてすらいない。最小限の動作だけでそれをやってのけている。流麗に、舞うように、一点にだけ合するように全てを捌いている。事も無げに彼らを投げ飛ばしていく。
だが、それでもだ、それを続けるうちに数の不利から男に一瞬の隙が生まれた。
その刹那の間を彼女は見逃さなかった。
そこを突く形でマハの腕が男の体を捕まえた。
後ろから男を羽交い絞めにする。背骨を圧し折らんばかりに拘束する。
しかもそれだけではない。
捉えられた男のむき出しの腕に突如として異変が起こった。穴のような無数の黒点が、ばっと瞬時に浮かび上がっていく。
普通の感染力ではない、黒点は明らかに意思を持って発現している。「チセイとは物理の法則、あるいは自然概念、あるいは一回性の諸現象、我は安閑と不品行を司るこの疫禍のそのものである」
瞬く間に腕は真っ黒に染まり、その上部へと這い上がっていく。その速度は素早く、あっという間に胸元へと迫ろうとしている。
だけどだ、男の底力がそれを上回った。
男はそのとき初めて目を閉じる。深々と息を吸い込むと、次の瞬間、気合の雄叫びとともに下腹の底から一気に全てを吐き出した。
凄まじいまでの胆力だった。
離れていても皮膚でびりびりと感じ取れるほどの威圧でもある。男は気のみで黒点を抑え込み、完全に消し去ってしまう。
そして、そのことによって今度はマハの方に隙が生じた。
怯むように僅かに拘束を緩める。
男は見逃さない。続けて彼女に振り向いた。圧倒されるような彼女の喉元を、男は片手だけで掴んで捉える。そして、一切の容赦も躊躇いもなく、そのままくびり殺してしまう。
全てはあっけないほど束の間の出来事だった。
母親を失って、子供の一人が力を落とす。それに続いて次々に気が抜けたように呆然となっていく。
だけど、男の方はまだ終わらなかった。「…お前、目が見えているな!」振り向きざまに、その中から一人を見出すと、確かにそう言い放った。
それは誰あろう、盲目の少女へと向けられていた。
彼女の瞳を偽りと見抜き、全ての元凶と名指しする。
そして有無を言わさず彼女に襲い掛かると、同様にして首元を鷲掴みにした。そのままの勢いで床へと押し倒す。
瞬間、盲いたはずの彼女の瞳が大きく見開かれる。逃げ出そうと弱々しくもがきながら、こちらに手を伸ばそうとするのが分かった。
だが男はそれすらも遮った。
側卓の上にあった香油の瓶を叩き割ると、破片で喉を切り裂いた。
しかしだ、それはどういうことか、そこからは一滴の血も流れない。裂かれた場所は元からあったエラか何かのように、ただの暗い溝を引くだけだ。
そうである、すでに彼女はこの世のものではなくなっていたのだ。
だが、私にはそんなことすら理解できない。男は彼女の首をそのまま切り落としてしまう。そのあまりにも無惨な光景に私は目をむいた。
怒りに狂って我を忘れた。母とあの子を殺された。あの子を殺された。全部殺された。激情のままに失った声を目一杯張り上げる。猛然と男に立ち向かっていった。だけど男は私に触れずに小さく耳元で囁いた。「眠れ」と。記憶はそこで途切れる。