第二話 シーン5
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エルフの森に立つ機兵と機兵。ガルグとヘイザーは互いの意図を読み合い、未だに動かずにいた。
だがそろそろ仕掛けても良いだろう。無論直ぐ戦うわけではないが。
「おーい。そこの鉄機兵ー。聞こえてたらさっさと返事しろ」
「これは、周囲魔力領域を利用した……魔力震動会話か? まさかこんな魔法まで使うとは」
「今それ重要か? ま、おかげで意思疎通出来るのはわかったが」
ガルグは機兵の中にいて、ヘイザーとの対話に成功した。
戦闘中魔力は広がって、球形の領域を形作る。それを空気と同じ様に使い、その振動で会話したのである。本来は言葉を旨く出せない種族や人間向けの魔法だが、幸い機兵にも応用できた。
相手のヘイザーもそれに気付いてガルグへと質問を投げかける。
「貴様、何者だ?」
「ハーフエルフ。つまり……」
「エルフの希少種か。本当なら初めて遭遇した」
「またそれか。慣れてても傷つくぞ? 俺も半分は人間なんだが」
ガルグはしれっと笑って言った。
結局ハーフエルフはどちらにも敵と思われる存在なのだ。そんなことは重々知っている。
しかしただのエルフよりまだマシだ。
「とは言え、今のは水に流してだ。俺からお前に提案なんだが……ここはおとなしく退いてくれないか?」
そこでガルグは交渉に移った。
「後ろから撃たないと言う保証は?」
「残念ながらない。無茶を言うなよ」
もっともガルグも最初から、成功するとは思っていないが。
「では断る。ハーフエルフの者よ」
「後悔するなよ?」
「したことなど無い」
「さすが兵士は嘘が上手だな」
ガルグは再び笑みを浮かべると──機兵エルギアの右手を回した。
「ならこのエルギアにぶっ壊されろ」
「エルギア?」
「神様の名前だよ。今俺がこの玩具に、つけたんだ」
無駄な話をしている間にも、互いに魔力のギアを上げていく。
ガルグもヘイザーも覚悟を決めた。後はどちらが先に動くかだ。
まだ雨は空から降っては来ない。
そして──ヘイザーが先に動いた。
「フレイムボルト!」
ヘイザーの鉄機兵の剣の先。小さな炎が複数現れ、ガルグのエルギアへと飛びかかる。
「甘いな」
しかしそれはエルギアの、手前で全て弾けて消え去った。
ガルグがエルギアの右手を伸ばし、魔法の壁を作り出したのだ。エルギアの右手はエルフの機兵──よってエルフの魔法を使用する。
「水の障壁か。それならば……ニードルボール、回転生成!」
ヘイザーは直ぐそれに対処して、今度は鉄の魔法を使用した。一つトゲトゲの鉄塊が、鉄機兵の前に作り出される。
だがガルグは少しも焦らない。
「今度は少し趣向を凝らそうか」
エルギアが左手を前に出すと、同じ鉄塊が作られる。左腕は鉄機兵のものだ。よって人間の魔法が使える。
それにガルグはハーフエルフである。
「なに!?」
「ほら撃ってこい」
「ちい! 砕け!」
ヘイザーがその鉄塊を放つが、結果は既に分かりきっていた。
「砕け」
双方から放たれた──鉄塊はぶつかって地に落ちる。当然二機とも全く無傷だ。
しかし戦況は互角とは言えず、ヘイザーは歯を強く噛みしめた。
一方、ガルグはまだまだ余裕だ。
「ほらな。後悔してきただろう?」
ガルグは言って機兵エルギアを、ゆっくりと敵に向けて歩かせる。
「ご主人様。よろしいでしょうか?」
すると精霊から急に聞かれた。今まで居るのも忘れていたが、ずっと横に浮かんでいたのである。
「なんだ?」
「もっと速く走れます」
「知っててゆっくり近づいてんだよ。その方が威圧感があるだろう?」
ガルグは溜息交じりに言った。どうやら精霊は天然らしい。
が、今は精霊よりも敵だ。
「甲殻剣精製。よっと」
ガルグの魔法でエルギアの、右手から木の蔓が長く伸びた。それは細長い塊を作り、直ぐに再び右手へと戻る。すると後には剣が残された。
片刃で透けた刃の剣。エルギアはそれを右手で掴み、ヒュンと一振り切っ先を下げる。ゆっくりと、敵へと歩きながら。
それを見た人間のヘイザーも、近接戦を選び対抗する。
「おおお!」
彼は叫びを上げながら鉄機兵を前へと走らせる。そして重たい金属の剣を、エルギアに向けて振り下ろす。
だが、エルギアはそれを受け止めて──そして鍔迫り合いに移行した。
両機兵の大きさはほぼ同じ。しかしパワーは一目瞭然だ。
「へろへろだな」
ガルグは指摘した。
「黙れエルフ!」
ヘイザーは叫んだが、鉄機兵は一二歩後退する。
「意識が朦朧としてきたはずだ。魔力を消費しすぎるとそうなる」
ガルグは最初から気が付いていた。敵は既に長期の戦闘で、疲弊し本来の実力は無い。
遂には鉄機兵は膝をつき、エルギアの剣が肩に食い込んだ。
「く。天よ我を導き給え」
ヘイザーが天に祈りを捧げる。
すると魔力の防御が解除され、代わりに鉄機兵が熱を帯びる。彼は帰還を諦めたのだろう。
炎の魔力で鉄機兵ごと、エルギアを道連れにするつもりだ。
「自爆か。だがそれを待っていた」
それこそガルグの思惑通りだ。
「根よ。奴の体を食い破れ」
エルギアの右手から蔦が伸び──鉄機兵の関節部へと向かう。無数のそれは弱点を貫き、機体の内部に入り込む。そして機械の内蔵を破壊し、自爆を止め操縦席に至る。
ヘイザーも狙いに気が付いたのか、腰につけたナイフに手を伸ばす。しかし自害する寸前で、彼の手に根の先が絡みついた。
「不覚!」
「ほーら。おねんねの時間だ」
そして根はヘイザーの首を締め、彼の意識を数秒で奪った。
後は胸部の装甲を剥ぎ取り、機兵の中から取り出せば良い。捕虜。つまり兵士のヘイザーを。
「玩具の兵隊さん。残念だな。一応警告してやったのに」
ガルグは心底がっかりしながら、ヘイザーをエルギアの目ごしに見た。
「ご主人様。殺さないのですか?」
するとまた精霊が聞いてきた。
「まあな。それが所謂戦争だ」
ガルグはそれに投げやりに答えた。操縦席に深く腰掛けて。
その直後雨が降り出した。まるで汚れを洗い流すように。
第二話終了です。
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