四章 第三話 シーン1〜2
1
エルリアが治めるコロニーよりも、遥かに巨大なエルフの住処。広大な巨大樹の森の中に、無数のエルフが住んでいる。
その森の端に機兵メルフィリス、ドラウガルが一緒に近づいた。
交渉役は一応リリエだが、アズマもいざとなればフォローする。それに護衛無しで送り出すほど、ガルグは脳天気に生きていない。
そんな二機の機兵の目の前に、エルフの守護機兵が現れた。二人を刺激しないようになのか、意外なことにたった一機である。
「共和国連合の特使ですね?」
その機兵の操縦者が聞いた。エルフなのでおそらく女性であり、出迎え役と言った所だろう。
「ええ。リリエ・レグスと……」
「アズマ・ロロドール。事前に文は届いているな?」
「姫から話は伺っています。どうぞこちらへ。そのままで」
リリエとアズマが答えると、エルフの機兵は踵を返す。
二人としてはその出迎え役に、着いて行く以外ないだろう。もちろん最大限の警戒を、周囲の空間に向け払いつつ。
三機の機兵は巨大樹の森にゆっくりと、静かに踏み行った。
2
エルフは大聖樹の生み出した、生息圏で生きる種族である。そのため違うコロニーであっても、基本的に景色は酷似する。リリエとアズマが招かれた森も美しい自然が保たれていた。
その中を機兵で進んで行くと、やがて一軒の家にたどり着く。木で作られたエルフ伝統の、細工が施された家である。
「中で姫様がお待ちです。粗相の無いようにお願いします」
「わかりました。行って参ります」
「私も一緒ですよ! リリエちゃん!」
リリエは言って機兵を飛び降りた。もちろんアリスを携えて。
「土産話を期待していよう」
一方アズマは機兵の中で、ロンと一緒にお留守番である。
機兵から降りてしまっては、いざという時に守れない。つまり交渉はリリエとアリス。二人で行う事になる。
同じく機兵から降りたエルフに、導かれて二人は家に入る。
すると玄関の先の広間には二人のエルフが待っていた。
一人はグラマラスな外見で、眼鏡をかけた背の高いエルフ。もう一人は十歳前後なのか、小さく可愛らしいエルフである。
人間的な常識から言えば、背の高い方が姫だろう。そう考えても無理は無い。
「ご機嫌よう。エルフのお姫様。私は共和国連合特使、リリエラ・レグスと申します。えと、可愛らしいお子さんですね」
そこでリリエはグラマラスな方に自己紹介をして、ついでに褒めた。
だがそこから間違っていたらしい。
「馬鹿者! そっちは護衛のマイラだ! 私がこのムース・コロニーの姫、アメリ・ムースツリーなのであるぞ! 気付け! 威厳が違うであろう!」
小さい方が跳ねながら言った。
文化の違いは難しい。知識としては理解していても、行き違いなどは簡単に起こる。
しかし交渉はこれからだ。それに軽いジャブにもなっている。
「なるほど。アメリ様お若いですね」
「そなたも似たようなものであろうが!」
「う。確かにそう言われて見ると……」
リリエは文句を言われつつ、アメリとの交渉を開始した。
「それでは、改めてアメリ様。連合との同盟の件ですが……」
「うむ。そちらの条件は知っておる。書簡でも受け取っているからな」
するとアメリはガッシリ腕を組み、リリエに向かって言い放つ。
「その同盟受けてやっても良いぞ。もちろん条件次第にはなるが」
なんと交渉を始めた直後、即アメリは『受けても良い』と言った。
しかし人間上手く行きすぎるとそれはそれで怪しく思うものだ。
「あの、アメリ様。嬉しいのですが、ガルグ様は大丈夫なのですか?」
「うむ。当然の疑問だな。確かに歳を取ったエルフほど、ハーフに対する嫌悪は強い。それにハーフの赤子を葬った罪悪感を引き摺る者も居る。人は兎角自らの行いを、正当化──しようとするからな」
リリエに聞かれてアメリは言った。少しだけ悲しそうな表情で。
しかし今度は眉にシワを寄せ、聖帝国への見解に続く。
「だが帝国は取り付く島も無い。何人かの特使も送ったが、一人として帰ってこんのでな。侵略的国家であるとなれば、私達も対抗をせねばならん。だがお前達も知っているとおり、帝国の軍事力は強大だ」
「なるほど。筋は通っていますね」
リリエは話を聞いて頷いた。
全て納得したわけではないが、交渉してみる価値は有る。事実としてアメリは今のところ、リリエを襲ったりはしていない。
話が通じる相手なら、交渉するよう努力するべきだ。その中で嘘があれば見つけ出し、罠であればアズマが動くだろう。
とにかく今は上手く行っている──そう言うときほど問題は起きる。
「姫様!」
慌てた様子のエルフが、ドアを壊す勢いで現れた。
「なんだ? 今重要な交渉を……」
「敵襲です! 帝国の機兵かと!」
そのエルフはアメリに対し言った。
「むうう。遂に来おったか。帝国め」
アメリは厳しい顔つきで、交渉役のリリエの顔を見る。
「聞いたとおりだ。特使殿。お主らは直ぐにここを去れ」
その上でアメリは、リリエに言った。ここでもしリリエが巻き込まれれば、連合との同盟はご破算だ。それにリリエを逃がしたとなれば、エルフの誠意も伝わるだろう。
だがもしもここにガルグが居れば──
「いいえ。私達もご助力します。帝国の戦力も見たいですし」
「お前。これが罠だと思わんか?」
「可能性は考慮していますけど、ガルグ様なら逆を行くかなと」
リリエは小さく微笑むと、アメリに向かって優しく言った。
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