四章 第二話 シーン4〜5
4
人が十人十色であるように、聖剣の精霊も様々だ。その一人である精霊のゼオは、毛皮の服を着た男であった。目つきの鋭い精悍な男。年齢は三十前後に見える。
彼は今石造りの建物の、廊下を早歩きで進んでいた。ここは帝国の病院で、目指すはその診察室である。
ゼオがその扉を開けて入ると、丁度診察が終わったらしい。
「ありがとうございました。聖女様」
「いえいえ〜。それではお大事に〜」
男性が医者に礼を言い、ゼオの横を通って部屋を出る。
ゼオが用が有るのは医者の方だ。彼女は白衣こそ着ているものの、医者と言うには若い人物だ。眼鏡をかけたゆるい少女であり、民衆から聖女と呼ばれている。
彼女も、聖剣の精霊だ。
「ゼオお兄様〜。御用でしょうか〜?」
「リーネ。ラファからの伝言だ」
そのリーネにのんびり質問され、ゼオは用件を彼女に告げた。
そしてラファから託された言葉を、そのままリーネに伝えて寄越す。それはガルグが遠方で開いた、模擬戦披露会の話だった。
具体的に何が行われたか。開催の目的の考察もだ。
「お父様も〜お暇なんですね〜」
一通りゼオが話を終えると、リーネは椅子に座ったまま言った。
だがゼオはそうは思わない。
「父上は相変わらず狡猾だ。油断すれば直ぐに追い詰められる」
ゼオは呑気気味なリーネに言った。
しかし説教もそこまでだ。そもそもゼオもラファの呼び出しを、半分の割合で無視している。
そんなワケでゼオは踵を返し、診察室を去ろうと歩き出す。
しかしリーネがそれを呼び止めた。
「ゼオお兄様はどう思いますか〜? 共和国連合についてです〜。やっぱりラファお兄様のように〜相容れないと思われていますか〜?」
リーネはのんびりだが頭は良い。そしてどちらかと言えば非戦派だ。一方ラファやリーネは好戦派。少なくともゼオにはそう見える。
そして肝心なゼオはと言えば──
「俺は護り専門の聖剣だ。攻めてくるならそれを打ち砕く」
何とも言えない派であった。
しかしなんにせよ帝国は、これからも戦い続けるだろう。今までもそうやってきたように。
ゼオはそんなことを考えながら、リーネの診察室を後にした。
5
夜。夏特有の虫達が、ヘビメタ寄りの音を奏でている。
ガルグが深海にいる間にも季節は進んでいたらしい。初夏を通り過ぎ夏真っ盛り。かき氷が恋しい暑さである。
ガルグはその季節を感じながら、レグス王城のバルコニーに居た。そこに置いた木製の椅子に寝て、満天の星空を眺めている。
するとそこにリリエがやって来た。
珍しく、ガルグが呼んだのだ。
「ガルグ様」
「来たか。取り合えず寝ろ。お前の分の椅子もそこにある」
ガルグは言って、親指で指した。その先にはガルグが寝ているのと、全く同じタイプの椅子がある。
今日のガルグは夜空を眺めつつ、ロマンチックに行こうと言うわけだ。
が、もちろんそれにもワケがある。
「あ、あの……。それでお話は……」
椅子に腰掛けてリリエが聞いた。
なのでガルグは端的に返す。
「うむ。これからの戦略だ。実質レグス王はお前だしな」
だがリリエはお気に召さないらしい。珍しく怒った表情をした。もちろん可愛らしい程度にだが。
「ガルグ様」
「そう膨れるな。これが一番頭が回るんだ。それに星空は綺麗だろ?」
「そうですけど、人に聞かれますよ?」
「安心しろ護りは万全だ。魔法で音は遮断してあるし、口の動きも偽装されている。バルコニーを作った段階で、そう言うのは想定済みだしな」
「うう。そこはさすがにガルグ様」
リリエはまだ納得していないが、ガルグとしてはどうでも良いことだ。
「てなワケで、話を進めるぞ。そもそもお前は地理を知ってるか?」
「レグス周辺のなら大体は」
ガルグに聞かれリリエが返事した。
「西には同盟国ツリーランド。東には湾があるクーダー港。南にも同盟国がいくつか。その先は海が広がっています。最後に北は確か非生域。人は入ると死んでしまうとか」
「正解だ。流石に詳しいな」
ガルグはそれを聞いて腕を組んだ。
「しかし問題はその先だ。お前も知ってるとは思うんだが、クーダーの東にはエルフの森──それもでかいコロニーがありやがる。帝国は更に、その向こうだな」
そしてガルグは地理を解説した。
ここまで言えば理解力の高いリリエでなくとも問題が解る。
「ハーフのガルグ様が所属する、連合には組みしてくれないと?」
「エルフ的には俺は嫌いだが、帝国に滅ぼされるのも嫌だ。ま、おそらくはそんなところだろ。嫌いな奴と敵に挟まれて、痛し痒しって状況だ」
ガルグは星を眺めながら言った。
「一方俺としてもあの森は、可能ならば無傷で手に入れたい。貴重なアウル・スポットでもあるし、食料の生産もできるからな」
「それで私に? ですけど私も……」
「知ってる。俺の眷属だ。だからこそ特使にはふさわしい。もし交渉する気があるんなら、それくらいの譲歩はするだろう。逆にそれすらも撥ね付けた場合、帝国に付く可能性もある。ま、帝国の性質からすれば制圧される方が自然だが」
「その場合は?」
「警戒するだけだ。そもそも交渉が成功しても、それはそれで面倒なことになる」
ガルグはうーんと伸びをした。
「連合に組み入れた場合でも、帝国に滅ぼされた場合でも、連合と帝国が隣接する。交渉になるか戦争になるか。戦争なら大戦争になる。両勢力の規模がデカいからな」
ガルグは交渉とも口にしたが、内心戦争だと思っていた。
もし交渉する気があるのなら、とっくにそうなっているはずである。そもそもガルグが海に居る間、ヘイザーも遊んではいなかった。交渉役はもちろん送ったが、帰還することすらなかったらしい。
「とにかく可能ならアズマと共に、コロニーに交渉に行ってもらう。無理なら別の奴を送るけどな」
ガルグは隣のリリエに聞いた。しかし返事は解りきっている。
「わかりました。努力してみます。ガルグ様のお願いごとですから」
リリエは笑ってガルグに言った。
またガルグは彼女を利用する。例え彼女がそれを知っていても心が痛まぬワケもない。しかし最善を尽くすのが、生きる術だとガルグは知っていた。
第二話終。
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