第二話 シーン3〜4
3
ズズニが撤退してから数分。
「はあはあはあ……。これで、最後か」
ヘイザーは息を切らして言った。
機兵はヘイザーのものを残して全てが大破し、沈黙している。つまりヘイザーは勝ったのだ。
だがまだやるべき事がある。
「後は聖樹を倒し、帰還する」
ヘイザーが言うと機兵は剣を、天を突くように垂直に立てた。
勝ち鬨を上げているわけではない。
「闘気よ、集まり敵を討て!」
ヘイザーの機兵の剣の先に、炎が生まれて球体を作る。それはみるみるうちに大きくなり、やがて機兵の大きさにまでなる。
これは魔法だ。それも強力な。
「フレイムシュート!」
ヘイザーはそれを聖樹向かって解き放つ。
人間であるヘイザーからしても聖樹は簡単に判別できた。巨大樹よりも生命力に満ち、魔力の宿った聖なる樹。
聖樹はエルフの生活の基盤。いや、命の源そのものだ。燃やしておけばその対処に追われ、追撃どころではなくなるだろう。それがヘイザーの思惑だ。
火炎球は吸い込まれるように、聖樹に向かって飛んでいく。
しかしその途中──異変が起きた。
「なんだ!? この光! トラップか?」
ヘイザーは輝く聖樹に言った。
聖樹がにわかに光を放ち、一瞬の内に視界を奪う。聖樹は、炎はどうなったのか──その眩しさで何も分からない。
そして光が消え目が慣れたとき──
「アレは……なんだ? エルフの兵器か?」
ヘイザーの視界に現れたのはおそらく一機の機兵であった。
人間の機兵とエルフの機兵。その二つが混ざったような物。それが聖樹の木の根元に立って、炎の球を防いだようだった。
一方、ガルグはその機兵の中──操縦席の上に座っていた。いや正確には飛ばされて落ちた。
パイロットシートにはまずはガルグが、その上から銀髪謎少女が。転移魔法によって現れた。
「ぐ! クソ! 何がどうなった!?」
しかしガルグには意味が分からない。よってまずは周囲を確かめた。
ガルグは椅子に座らされており、膝の上に少女が乗っている。まるでお姫様だっこのようだが、ガルグは全く嬉しくなどない。
次に周りだが、浮いているようだ。椅子と、何か操作用の機械と、ガルグ達は空中に浮いている。もっともガルグにそう見えるだけで、景色は壁に映された物だが。
そこでようやくガルグも理解した。ここはおそらくアノ機兵の中だ。そして目の前に敵がいる。
「ご主人様」
その時だった。遂に銀髪の少女が喋った。
「ようこそ……」
「いや黙れ。つーかそこどけ」
しかしガルグはそれを遮った。それは少女が邪魔だったからだ。
「了解しました。」
すると少女は文字通り小さく、体が縮んでふわりと浮かんだ。
それでガルグは気が付いた。
「は。便利だな。精霊か?」
精霊とは自然の中で生まれ、生活している存在だ。魔力の濃い場所から生まれるが、詳しい生態はわかっていない。より正確には生物でもない。
「はい。私は貴方の下僕です」
少女はその精霊で、下僕だ。
微妙に会話がずれてはいるが、今それを正す暇などはない。
「じゃ、精霊。こいつを動かすぞ。前方にもろに敵がいるからな」
「了解。ではこのグリップをどうぞ」
ガルグが精霊の少女に言うと、握る形の棒が現れた。
それはふわりと宙に浮いて居たが、ガルグが握ると重みが伝わる。
「ほー。これで機兵を操作するのか?」
「違います。それは発動機です。この機兵は魔力波操作式。ご主人様の放つ魔力により、感覚的に機兵は動きます」
「便利な玩具だ。泣けてくる」
事実、ガルグが考えたとおりに機兵は右手を動かした。
そして、ヘイザーの方はと言えば目の前の敵に戸惑っていた。
一部は鉄機兵だが、しかし──ヘイザーは兵士なりに考えた。エルフの兵器と鉄機兵。目の前の兵器はその融合だ。味方である可能性は低いが、操縦者が誰かはわからない。
「なぜ動かない。誘っているのか?」
その上融合機兵には、戦闘する気配が見られない。
まだ二機の間には距離がある。接近するか。魔法を放つか。何もせずに時間を稼ぐのか。
ヘイザーは息を整えながら、機兵の様子を窺っていた。
4
ヘイザーが考えていたその頃、ズズニは指示通りに逃げていた。
エルフの兵器を持ってはいるのでその速度は緩慢その物だが、ヘイザーの時間稼ぎが効いたか幸い敵からの追撃は無い。
そして、遂にエルフの森を抜け鉄機兵は草原に現れた。空には雲が垂れ込めているが、まだ雨が降るには至っていない。強まってきた風が草を撫で、その一部を空に巻き上げている。
「よっしゃ。ここまで来れば通信が……復活しやがった! 聞こえるか!?」
そこでズズニは援軍を呼ぶため、野営地の司令部に呼び掛けた。
当然、その間も鉄機兵は野営地に向けて歩かせている。
「こ……ら、第五野営地司令室。まず所属とコードを述べられたし」
「第二師団特殊部隊ズズニだ! コードはコバルト・キーラ・ブラス!」
「確認した。ズズニ。状況は?」
「ブラス作戦は第三段階! エルフの新兵器も確保したぜ!」
「本当なら驚くべき成果だ。きっと勲章を授与されるだろう」
「んなもんいいから援軍を出せ! まだ隊長が時間を稼いでる!」
ズズニは語気を強めて指示をした。
「りょ、了解。指揮官に確認を……」
通信士も迫力に押されたか、慌てて確認しに動き出す。指揮官のアズマへと連絡を──しようとして、途中で止められた。
ローブの老人に肩を叩かれ、そっと耳元で囁かれたのだ。
「残念だが、援軍は出せない」
「てめえこら! ふざけてやがんのか!?」
そしてズズニは耳を疑った。
「残念だが援軍は……出せない」
だが何度聞いても答は同じ。兵隊は命令に逆らえない。
「だったらフレイドに伝えやがれよ! 帰ったらぶっ殺してやるってな! この国王の腰巾着野郎!」
ズズニは見ずとも全てを悟り、通信ごしに怒りをぶちまけた。
評価感想お待ちしてます。
追記:シーン3に精霊の説明追加




