四章 第一話 シーン1〜2
1
静かに。対象に気付かれず。一撃で。決して逃げられぬよう。
鬱蒼と茂った森林の中。ボトリと、鳥が落下した。猛禽類の大きめの鳥だ。静かな風の魔法に貫かれ、羽毛には血液が染みている。
それを仕留めたのはガルグであった。鳥を狙ったのは久しぶりだが、まだ腕は錆び付いていないらしい。
ガルグがその鳥へと近づくと、後ろからエミリーが息を漏らす。
「ほえー。これが、あの鷹ですかー」
「正確にはその仲間だな。別に珍しい種類でもないが」
ガルグはエミリーに対して言った。
エミリーはちゃんと足があるものの、れっきとした人魚の少女である。山や森に住む猛禽類は、彼女にとって珍しいだろう。
ティアとルナも一緒に居るのだが、特に感想も無いらしい。
「ま、こいつは夕飯にするとして……そろそろエルギアの場所に戻るぞ。アズマもいい加減に来るだろう」
ガルグは魔法で袋を編むと、その中に鳥を詰め込んだ。
そして自分で話をした通り、歩いて来た方角に引き返す。
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木々が茂る森の中と言っても、機兵が立っていればそれは目立つ。巨大樹の森ならばいざ知らず、機兵の背は普通の木より高い。よってエルギアは背を低く、森の中で片膝を着いていた。迷彩柄の布もかけられて、遠目にはそれと判らないだろう。
偽魔獣戦争の終結から七日経過した森の中。ガルグ達はエルギアの足下で、エミリー達と人を待っていた。
そこに魔動バイクの走る音が、近づいてやがて姿を見せる。森の凸凹道を乗り越えて、颯爽と現れたアズマである。
「遅かったな」
「何かと多忙でな。特に最近は仕事が増えた」
アズマはバイクを止めて降りながら、ガルグに対して皮肉を言った。
まあ内政をアズマに押しつけて人魚の国に居たのは事実だが。ガルグとて観光や道楽で、海の底に潜ったワケではない。
だがそれは本題からずれている。無関係と言うワケでもないが。
「それで、何故こんな所に呼んだ?」
「人に聞かせたくない話でね」
ガルグは聞かれてアズマに言った。
「だがまずはその前に基本からだ」
どのような話にも順序がある。特に今回の場合にはそうだ。
「海底で何があったかは?」
「報告書は読んだが、信じられん。まるでお伽噺の世界だな」
「だが事実だ。嫌な話だが」
ガルグの報告書に嘘は無い。人魚の国と偽の蛇魔獣。そしてエルダーの遺跡と巨人。全てガルグが体験したことだ。
ガルグはその体験に基づいて、今回ここにアズマを呼び出した。
「で、その事実から感じたわけだ。機兵での戦争は過渡期にある」
ガルグが実感したことを、アズマなら直ぐ理解するだろう。
「今まではなんだかんだと言っても、機兵の数が物を言っていた。だがこれからは機兵の性能と、操縦者の力量が鍵になる。いくら雑魚の機兵を並べても、あっという間に全滅するだけだ」
「エルギアが遺跡を潰したように」
「話が早くてホント助かるわ」
案の定、理解したらしい。ガルグはアズマを素直に褒めた。
だが本題にはまだ遠い。
「そこでこのエミリーを主任に据え、機兵研究院を設立した」
「こんにちはアズマさん! エミリーです!」
ガルグが親指で彼女を指すと、エミリーは笑顔でアズマに言った。
「人魚だな。恐ろしい柔軟さだ」
「は。俺自身がハーフだぞ。使える奴なら魔剣でも使う」
「そうらしいな。そちらも見た顔だ」
しかしアズマは挨拶を返さず、代わりに別の少女に目を向けた。
そこに居たのは魔剣のルナである。人魚の国から帰った後も、ガルグはルナを持って歩いていた。ガルグが持っているのも危険だが、他人に渡るよりはずっと良い。
とは言えそれも本筋とは逸れる。
「あらアズマちゃん。お久しぶりですの」
「覚えられていたとは。驚きだ」
二人は早速牽制したが、ガルグ的には時間の無駄である。
「はいはい。話を進めるぞー」
そこでガルグは一つ手を叩き、多少語気を強め二人に言った。
とは言えグダグダ続けても、アズマとしても飽きてくるだろう。百聞は一見に如かずである。ここらで彼にも見せた方が良い。
「エミリー。アズマを連れて下がってろ。そろそろアレのお披露目会をやる」
「了解しました! さ、アズマさん」
ガルグがエミリーへと指示すると、彼女はアズマを連れて移動した。
アレをアズマに見せつけるためには、安全のため距離が必要だ。二十メートル強で十分だが。
「奴はいったい何を始める気だ?」
「ふふふー。それはお楽しみですよー」
エミリーはアズマに聞かれて笑う。
一方ガルグはその間、ティアとルナとエルギアに飛び乗った。そしてエルギアを起動させ、機体に掛かった布を吹き飛ばす。
「ほう。件の水中改修機か」
「そうですけど本番はまだですよ」
エミリーは両拳を握りしめ、腕を組んでいるアズマに言った。
このエルギアはレグス王国で、更に改修を受けている。
「ティア。例の新型ユニットは?」
「各種ステータス異常なし。直ぐにでも使用できるかと」
「ならやるぞ。若造を驚かす」
ガルグは言ってエルギアを屈ませ、その直後──縦に跳躍させた。
垂直方向に。山より高く。だが驚くのはここからだ。エルギアは空中で制止して、遥か下のアズマを見下ろした。
つまりエルギアは飛んだのだ。
「ご主人様。感触はどうですか?」
「悪く無い。竜になった気分だな」
ガルグはティアに聞かれて返事した。
そしてエルギアを動かして、その飛行能力を見せつける。前後だけではなく立体的に。急ターンやバク宙。急降下。ただ飛行できると言うだけでなく、自由自在に空を舞い踊る。
それを一頻り見せた後、ガルグはエルギアを着陸させた。後は操縦席を飛び降りて、アズマの顔を直接見るだけだ。
「まさかここまでの事が可能とは」
そのアズマは眉をひそめて言った。
彼はエミリーが距離を取るほどに、負のオーラをその身に纏っている。
だがガルグからすればそれで良い。それこそが求めていた反応だ。
「さて、ここからが本題だ」
ガルグはニヤリと笑って言った。
2
クーダーの港より遥か東。帝国と呼ばれる国家があった。急速に勢力を拡大したその名もギルダトール聖帝国。新興国家故に謎が多く、内情を知る者は多くない。
ここはその帝国の玉座の間。多くの国がそうであるように、王の偉大さを讃える場所だ。そのため天井は遥かに高く、紋章が刻まれた旗が並ぶ。
しかしこの場には一つだけ、大切な物が欠けていた。それは王が座す玉座その物だ。それがあるべき場所に椅子は無く、代わりに剣が宙に吊ってある。機兵が振るうのも不可能なほど、巨大で幅広な諸刃の剣。その刃には青色の魔力が、輝きがなら線を成している。
その玉座の間の巨剣の前に、二人が向かい合って立っていた。
一人は金髪で美形の男。歳は人間を基準にすると、二十代前半と言う所か。
もう一人は桃色の髪をした、ポニーテールの可愛い女の子。
二人の共通点はと言えば、剣を持っていることだけだ。
「ゼオとリーネは?」
「見ればわかるでしょ。たぶんここに来る気も無いんじゃない?」
男に聞かれ少女は返事した。
「彼等には自覚が足りないようだ。マリー。君も不満があるのでは?」
「ま、それが個性って物だから。ラファ。私達だってそうでしょう?」
男の名前はラファと言い、少女の名はマリーであった。
しかしそれよりも問題は、二人が人ではないと言う事だ。
「状況を考えて貰おうか。彼方には父上が居る上に、ルナまでも手なずけているらしい」
「それがホントなら一大事だけど、ルナお姉様が人に着くかしら」
マリーは右手を腰に当て、斜に構えながらラファへと返す。
ルナがお姉様だと言う事は、二人は聖剣だと言う事だ。それ故に聖帝国なのである。
「僕もにわかには信じられないが、帝剣の導きは正確だ。事実傀儡を多数補足した」
ラファは言って巨大な剣を見た。
宙に吊されたそれは今もって、青い魔力を放ち続けている。それは線となり幾何学的に、柄から切っ先に流れ落ちていく。
「まあそうね。帝剣が言うのなら」
マリーもそれを見上げて同意した。
四章アップロード開始です。
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