三章 十一話 シーン3〜5 & エピローグ
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そしてガルグは遂に辿り着いた。海を脅かす元凶の元に。
海底に鎮座するエルダーの、金属で出来た巨大な遺跡。灰色のそれは海の底。窪んだ岩地の上に鎮座する。無論その上には魔獣の群が、渦巻くようにそれを護っている。
おそらくエルギアが今居る場所が、迎撃を受けない限界点だ。これ以上エルギアが近づけば、蛇魔獣達が寄って来るだろう。
故にガルグはまたも、例によって、奇襲を仕掛けることにした。
「ティア。一応、一割で仕掛ける。ただし警戒は怠るな」
「了解致しました。ご主人様」
「ルナも傀儡に遺跡を見張らせろ。何かあったらそれに対応する」
「はいですの。胸が高まりますの」
ティアもルナもそれに了解をした。ルナの方は多少怪しいのだが、ここまで来て問い詰める暇は無い。
「じゃ。行くか。苦労させられたからな。その鬱憤をここで晴らしてやる」
ガルグは言うと魔法を行使した。
「「魔力融合」」
まず魔力融合。虹のオーラを機体に纏わせる。
「ガルグ流・巨大暗黒剣」
そして杖から闇の剣を作り、エルギアを遺跡へと向かわせる。急速に加速し、全速力で。
だが当然、防衛魔獣達がエルギアに向かい寄って来る。
「は。雑魚共がまたぞろ来やがって!」
エルギアはその群に突撃した。
所詮、魔獣はコピーされた物。戦闘力はたかが知れている。その上襲撃に使いすぎたか、デカブツどころか鎧持ちも無い。
それでも数は二十数匹だが、今のエルギアなら対処は出来る。
「お前らが居ると! 釣りも銛突きも! 魚取りが楽しめないだろうが!」
エルギアは魔力の剣を振るい、偽魔獣を次々と斬っていく。
反撃の水の渦も躱しつつ、立体的に動いて斬り付ける。
「残敵十」
ティアがガルグに言った。
「たわいなさ過ぎて! 欠伸が出るな! 刺身にもならん偽物が!」
その後もエルギアは敵を斬り、やがて全ての偽魔獣を殺った。偽魔獣は全てが沈黙し、海底にその死体が浮いている。
しかし問題はここからだ。
「さて。後は遺跡をどうするか」
遺跡は危険な代物だ。だが同時に情報源でもある。
赤粒子や偽物の魔獣など、エルダー技術のほんの一端だ。あの遺跡を丹念に調べれば、様々な発見があるだろう。
安全を取るか。リスクを取るか。だがその選択は──まだ早かった。
「なんだ? 屍がこんなに早く……」
ガルグは見た。異様な光景を。
本来赤粒子に戻るまで、時間がかかるはずの屍達。それが一斉に粒子に戻り、遺跡に向けて赤い川を作る。
「周囲の赤粒子濃度、増大。遺跡に向かい移動しています」
ティアの言葉もそれを裏付けた。
何故、この現象は起きたのか? ガルグ達にはまるで解らない。
しかし不吉な予兆であることは、ガルグにも容易に予測がついた。
4
静かで、暗い遺跡の内部。その中を粒子が流れて進む。
廊下。ダクト。広場。部屋の隅。ただ一点を目指し、流れていく。下へ。下へ。下へ。下へ。
そして目的地へと辿り着き、赤粒子は集まり収束した。
5
戦闘態勢を保ったままで、遺跡の上に浮遊するエルギア。
その視線の先にある遺跡から、にわかに泡の筋が立ち上る。円形のハッチが静かに開き、その先から巨体が現れる。
それは人型の物体だった。褐色でトゲトゲで人型の、おそらくは金属で出来た何か。大きさはエルギアとほぼ同じで、一見すると機兵にも見える。
「機兵か?」
「不明です。ご主人様」
ガルグが聞くとティアが返事した。
確かに、ティアが知るわけがない。ガルグですら見たことの無い物だ。
「いいえ。私達は知ってますの」
しかしルナがガルグに向けて言った。
『私達』は、知っているのだと。つまりガルグはアレを知っている。
だがどこか、何か機兵と違う。そこでガルグもようやくピンと来た。
「まさか巨人か?」
「大正解ですの」
ガルグが言うとルナが拍手した。
ルナを含め魔剣と聖剣は、巨人の核から作られた。よってルナが巨人を前にして、それと解るのは理解が出来る。
しかしアレを巨人とするならば、その戦闘能力は未知数だ。巨人とは伝承の中に残る、半ば幻の存在だ。生物なのか兵器なのかすら、正確なことは何も解らない。ガルグに唯一解るのは、漠然とした危険性だけだ。
その巨人は深海の闇の中、周りをキョロキョロと見回している。
「おい。動かねーぞ?」
「おそらくは──魔力が不足しているせいですの」
「つまりアレは不完全。ってことか?」
「でなければ人魚は襲いませんの」
ルナの言葉は筋が通っていた。ガルグもそれには同意する。あの巨人を運用するために、御神体を狙っていたとしたら──その奪取に失敗した以上、魔力は不足しているはずである。事実ガルグが魔獣を倒すまで、この巨人は遺跡の中だった。
とは言え巨人は現れた。何もしてこないはずは無い。
「は。どうやら殺る気になったらしい」
ガルグは巨人を見て言った。
巨人の体の内部から、虹色の、魔力が流れ出す。なんであれ戦うと言うのなら、ガルグとしては受けて立つだけだ。
「対象の魔力増大を……」
「来るぞ?」
ガルグはティアの報告を、遮りエルギアを対応させた。杖を構えて敵の動きを待つ。
すると巨人は水の抵抗すら、感じさせず一瞬で、近づいた。エルギアの正面の少し上。そこからエルギアにパンチを放つ。
「ぐ!」
エルギアはそれを杖で受けた。が、斜め下に向けて吹き飛んだ。
そして海底に衝突し、岩肌を削り取って停止する。
「化け物め。どこが不完全なんだ?」
「完全体なら死んでいましたの」
「まあそうだが、そうはっきりと言うな」
ルナにキッパリと告げられて、ガルグは左の眉だけを下げた。
何故遺跡から巨人が出て来たか。それは未だガルグにも解らない。だがもしアレが都市を襲ったら、止められる者などは居ないだろう。
海中でも地上でも変わらない。攻撃された都市は焦土と化す。
「ティア二割だ」
「了解。ご主人様」
そこでガルグは出力を上げた。ティアが言うと魔力が増大する。これがエミリーの説明によると、安全に戦える限界だ。
そこにまた、巨人が襲いかかる。
海の底で機兵と巨人による異種格闘技戦が──幕を開ける。
しかしエルギアはまだ押されていた。無手の巨人に対しエルギアは、杖と言う武器のハンデすらもある。だが速度も膂力の部分でも、まだ巨人がエルギアよりも上だ。
エルギアは押され、杖も破壊され、体捌きでなんとか凌いでいる。
「三割!」
更に出力を増して、これで、ようやくイーブンだ。だがこれは限界を超えている。
そこで──ガルグは賭けに出た。
「五割だ!」
「これ以上は、ご主人様……」
「知ってる! が、三割でも持たん! 残念だが一気に方をつける!」
「わかりました。融合率、五割」
ティアが言うと魔力が迸り、エルギアの機体が悲鳴を上げる。
だが同時にエルギアが上回る。それに腕もガルグの方が上だ。巨人の打撃は正確であるが、それだけで鍛錬が足りていない。ガルグには年の功もある。
「せい!」
エルギアのアッパーが突き刺さり、巨人が回りながら飛んでいく。そこにエルギアは追いついて、さらに鋭い蹴りを叩き込んだ。
その先はエルダーの遺跡である。
「こいつで最後だ。行くぞ二人共。十割で奴を消し飛ばす!」
「了解。エルギア最大出力」
「私も本気を出しますの」
ガルグにティアとルナが返事した。
そしてガルグはエルギアの両手の、間に魔力の球を創り出す。闇の稲妻を伴った、小さくも濃密な球体だ。
「ガルグ流・禁呪・滅星弾!」
エルギアは──それを撃ち出した。
巨人はまだ遺跡に埋もれている。闇の球体は直撃し、遺跡ごとその体を包み込む。闇の魔力は刹那に広がって、その内部の全てを破壊する。
そして球体が消えた後、そこには残骸だけが残された。
直後エルギアは限界に達し、機体の各部が弾け出す。
「うお!? こりゃエミリーに怒られるな」
「遺跡を壊したことですの?」
「ああ。まあそれもそうだがな」
ガルグはルナから指摘され、少し投げやり気味に返事した。
「アレはアレで正解だっただろ。残念だが俺も死にたくはない」
木っ端微塵になった遺跡を見て、ガルグは一つ溜息をついた。
これは戦争の終わりだが、同時に始まりでもあるのだろう。レイやルナの言葉を理解して、ガルグは一層気が重くなる。
忘れられていた者達が、闇から這い出る目覚めの時代。ガルグはこの真っ暗な海の底。その幕開けを確かに見届けた。
エピローグ
人魚の国の泡のドームの端。再び修復したエルギアの、足下にガルグ達は立っていた。ガルグが帰る時が来たのである。
ガルグを見送るためだろう。小さくなった竜のレイレリアと、マユとエミリーも前に居る。
が、ガルグは一つだけ気になった。
「おい。なんでお前らの機兵がある」
エルギアの前に海機兵が二機、仲良く並んで立っている。
「私は貴方の監視役だから」
『盟約は今も生きていますしね』
「私は単に浪漫目当てです!」
マユに。レイに。エミリーに。三者三様の理由ではあるが、このままガルグに着いて来るらしい。
人魚の国はもう安全である。故にそれ自体に問題は無い。
ガルグ的には面倒が増えるが、ここでもめるのも更に面倒だ。
「あーもう勝手にしろ。俺は俺で、神って奴を呪うことにする。まあそんな奴が居ればだが」
ガルグは皮肉を言いながら、美しい海の底で天を見た。
三章はこれで終わりです。
この機会に感想評価等、頂けたらとっても嬉しいです。
尚、ストックが本当に無いので次回アップは十日後になります。八月の二十二日です。
さすがにそれ以上ずれないように頑張って書こうと思っています。
ではではこれからもお願いします。




