三章 第十話 シーン4〜5
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レイレリアは件の無人島で、成体に至るまで成長した。竜の名にふさわしい巨大さと、大空を舞う翼を手に入れた。
すると当然と言うべきか。レイにも好奇心が湧いて来た。外の世界はどんな所なのか。それが恐怖心より勝ったとき、レイは島の外へと旅に出た。
旅は最初は楽しいものだった。竜を見て逃げ出す者はあっても、挑んでくる者などは多くない。森林や雪原や火山地帯、都市の上を飛行した事もある。時には友好的な獣人と、言葉を交わしてみた事も。
だがそんなある日レイの身に、予期しない災難が降りかかる。
それは同種の──黒い竜だった。全身鱗に被われた、レイの倍はあろうかと言う巨竜。その黒い竜は唐突に、レイに対して牙をむいてきた。レイが対話を試みてみても、返事すらしない黒い竜。反撃しても勝てるわけもなく、レイは必死に彼から逃げ出した。
そしてどれだけの時が経ったのか。幸い黒い竜は巻けたのだが、レイは傷だらけのまま飛んでいた。夜。真っ黒い海の上。やがてレイは意識を失って、その海面に向けて落下した。
そして、レイが次に目覚めると──そこはここ、人魚の国だった。人魚達が魔法の泡で包み、連れてきて治療を施したのだ。傷だらけで死にかけのレイを見て、可哀相に思い助けたらしい。
竜と言えば強大な存在だ。恐怖しても決しておかしくない。だがそこは純真な人魚達だ。レイも彼女達に恩義を感じ、人魚の国に居着くようになった。
それからは良いことも悪いことも、レイは常に人魚と共にあった。そこに大空は無かったが、もっと大切な心があった。レイはこの国の人魚を愛し、人魚達もレイを愛してくれた。
やがてレイはこの国を守るため、活動をするようになって行った。
5
以上が、レイの話であった。
ガルグはベッドに寝転がり、その話を黙って聞いていた。肉体と精神が疲弊して、まともに動けないと言うのもある。しかしそれ以上にレイの話が、興味深かったのもまた事実だ。
『どうでした? 私のお話は』
「まあ、いくつかわかった事もある」
ガルグはレイに聞かれて返事した。
「なんでこんな鎖国海底国で、機兵が作れたのか謎だったが……」
『諜報活動による結果です。この国に防衛組織を作り、有事に備えるよう努めました』
レイはこの国を守るため、長年骨を折ってきたらしい。
『私は人魚を守れたでしょうか』
「さあな。俺が知るか。面倒くさい」
『やはり貴方らしい返答ですね』
「そりゃそうだ。俺は、俺だからな」
だがガルグは投げやり気味に言った。
しかしレイは納得していない。
『人も国も滅びるときは滅ぶ。悠久を生きていれば学ぶこと。私はただ人魚の苦しみを、長引かせただけではないのかと』
「は。お前らしくない言いぐさだな」
そして今度はガルグがやり返す。
「俺もそこそこ長く生きてるが、まだ当分死んだりはしたくない。俺の命を狙う奴が居れば、ぶち殺してでも生きてやる」
『貴方は不思議な人ですね。長生きでありながら若々しい』
「お前が達観しすぎてるだけだ」
ガルグはレイレリアに指摘した。長生きしているからとは言っても、死んで良いなどと言うはずがない。それはレイにも言える事である。
と、深めの話をしていたが──それは足音に止められた。機兵が鳴らす大きな足音だ。それは二機、連れだって現れた。
「あらガルグ。ようやく起きたのね」
「ガルグ様! おはようございます!」
人魚のマユとエミリーだった。一機ずつに乗り込んでいるらしい。
「マユも生きてたか。なによりだ」
「ちょっと怪我しただけよ。大丈夫」
何を勘違いしたか知らないが、ガルグの皮肉にマユが返事した。マユが怪我をしたとは初耳だ。レイの弱気もそれが原因か。
なんにせよここに居るメンバーは、まだしっかりとこの世に生きている。
「レイ。お前が結んだ盟約だ。お前も勝手にくたばるな」
『ふふ。良いでしょう。それが望みなら』
ガルグが言うとレイは微笑んだ。
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