三章 第六話 シーン3〜4
3
エルギアに乗って痕跡を追うと、まず海面近くに辿り着いた。だがここは鎧を着けた魔獣を、ガルグとマユが撃破した場所だ。敵も痕跡を辿ったのだから、ここまでは当然と言えるだろう。
そこからはまた深海へと戻り、赤粒子の痕跡を追っていく。海底の底。白い砂の上を、巻き上げてエルギアは進んで行く。
するといくらか行った時だった。
「おい。なんで奴がここに居る」
ガルグはとんでもない物を見た。
それは機兵の持っていた杖だ。正確には闇機兵シュリーゼル。その魔剣内蔵の杖である。
つまりこれは魔剣──クルエルナだ。
「無視するワケにもいかないか?」
ガルグはエルギアの速度を落とし、仕方なく杖に近寄った。
杖の保存状況は良好で、近くで見ても傷の一つも無い。
「よっと」
エルギアがその杖を掴む。
するとエルギアの操縦席に、青い粒子がフワリと現れた。それは瞬く間に形を作り、一人の少女に姿を変える。金髪のツインテールにゴスロリ。魔剣の精霊ルナである。
「あらお父様。久しぶりですの」
「何が『久しぶり』だこのなまくらが」
ルナに言われてガルグは罵倒した。
しかしルナは気にする様子も無い。
「ふふ。そんなにツンケンなさらずに。お父様に朗報がありますの」
ルナは言うと何か魔力を送る。
「精霊さん。見せてくださいますの?」
「ご主人様」
「許す。表示しろ」
ガルグがティアに許可を与えると、半透明の板が表示された。
それも一枚ではなく何枚も。地図のような物。エルダーの遺跡。それに数値やら文章やらだ。
だが結局それらが示す物は、全て一つ──敵のデータである。
「なんのつもりだ?」
「プレゼントですの」
「思惑は?」
「もちろん有りますの」
ルナはご機嫌で返事した。
「ここは引き返して頂きますの」
「理由は?」
「死んで欲しくないですの」
ルナは珍しく真剣に言った。
「お父様は自分で思うほど、矮小な存在じゃありませんの。世界を変えうる存在ですのよ? 無駄死には私が許しませんの」
彼女は元々ガルグの一部。嘘かどうかはガルグになら解る。
「ティア。このデータ。正確か?」
だが一応ガルグはティアに聞いた。
「おそらくは。それにデータには、人魚の国の物も含まれます。もしも彼女が黒幕だとすれば……」
「あんな斥候は要らないか。こいつの力は調査向きだしな」
その答えも予想を裏付ける。つまりルナは嘘などついていない。
だが信用するのも不可能だ。
「良いだろう。ここは引き返す。だがお前にも一緒に来て貰う」
「もちろんですの。胸が躍りますの」
エルギアは杖を持ったまま、人魚の国へと引き返す。
それを見てルナは微笑んだ。
4
荘厳なレイレリアの神殿に、似つかわしくない者が居る。ガルグは魔剣の入った杖を、持ち帰って魔剣を取り出した。そしてここに持ち込んだのである。
当然ガルグのその横に、ルナの精霊体も浮かんでいる。
多少の危険は承知だが、二度手間を避けるために仕方ない。神殿にはレイレリア意外にもマユとエミリーを呼んでいた。
『魔剣、ですか。これは意外ですね』
「そう言う貴方は竜ですの」
レイとルナは早速牽制した。だがこれでは話が進まない。
「おいこら。喧嘩するな二人共。仲良くしろとまでは言わないが、まずはルナの話を聞いてからだ」
ガルグが言うとレイが静かになる。ルナと違い彼女は素直なのだ。
「と、言うワケでルナ。さっさと話せ」
「せっかちですのね。まあ良いですの」
そんなこんなでルナが語り出した。
「私があの遺跡を見つけたのは、周りを調べていたときですの。私の力を使えば魚肉も、斥候にリサイクルですの」
「遺跡か」
「そうですの。お父様」
ルナが語るのは遺跡の事だ。
「遺跡は、おそらくエルダーの物。アウル・スポットの上に有りますの。大聖樹や御神体のように、その魔力を利用する物ですの」
これで謎が既に三つは解けた。敵の本拠地。魔獣の製法。そして鎧の技術の源。
もちろんルナを信じるとしてだが。そこでエミリーが活きてくる。
「あのー裏付けるわけじゃないですが、たぶん鎧はエルダー製ですよ。エルダー文字が刻まれてましたし。意味はわからないですけどねー」
エミリーが話に口を挟んだ。
「あら可愛い。食べちゃいたいですの」
「わわ!? そんな浪漫はゴメンです!」
ルナがからかうと、エミリーが逃げる。しかし脱線もここまでだ。
「おいルナ。次は叩き折るからな」
「あらお父様。それで良いですの? 話の核心はこれからですの」
ルナは笑ってガルグ達に言った。
「遺跡は眠りについていましたが、私に反応して起きましたの」
「てことは狙いはお前だな」
「残念ながらそれは外れですの」
そして更にルナは続けて聞いた。
「遺跡はまず、遺跡をねぐらとする魔獣をターゲットにしましたの。その次はウミトカゲのコロニーを。一方、その周辺の生き物や、植物はまるっきり無視ですの。この意味、お父様にわかります?」
遺跡のターゲットにした物は、魔獣とウミトカゲとそして人魚。
「魔力を持った奴がターゲットか」
「正解ですの。さすがはお父様」
「てことはお前は隠れていたな?」
「それも正解ですの。お父様」
魔力を狙っている存在なら、魔剣は魅力的な物体だ。だがルナは現に無事である。おそらく魔力の放出を避けて、砂にでも潜り隠れたのだろう。
「私としてもあれは危険ですの」
「敵の敵は味方の理論だな。まさかお前と組むことになるとは」
「話が早くて助かりますの」
ガルグとルナの利害は一致した。信じがたい成り行きではあるが、ルナの力は実際絶大だ。しかも防衛に向いている。
しかしその前にはっきりと、させなければいけない事がある。
「で、結局ターゲットは人魚か?」
「いいえ。それは少し違いますの」
ルナは小悪魔的に返事した。
「遺跡の狙いは強大な魔力。つまり今はあの御神体ですの」
「まあ、そうだろうと思ったよ」
だがガルグにも予想はついていた。自明の理と言う奴である。
レイ達は驚いているようだが、偽魔獣の動きを見ても解る。
「その方が俺としても有り難い。護る対象が絞れるからな」
こうして怪しい同盟の元に、御神体防衛策が練られた。
それぞれの思惑が絡み合い、それはガルグ主導で決められた。
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