三章 第六話 シーン1〜2
1
ティアに色々あった次の朝。ガルグはティアとマユを連れて直ぐに、人魚の国へとまた舞い戻った。
そしてガルグ達一行は、人魚の国の機兵製造所に居た。人魚の国に着いたその直後に、レイにここに来るよう言われたのだ。
するとそこにはいつものエミリーと、小さくなった竜のレイが居た。パタパタと浮いているその姿は、まるで魔法少女のマスコットだ。
とは言え、主役はエミリーである。
「レディース・エーン・ジェントルメーン。ようこそ! エミリー解説ショーへ!」
エミリーは金属の板の前で、両手を拡げてみんなに言った。
だが完全に滑り倒している。真面目な話なので当然だが。
「むう。みんな浪漫不足ですねー。まあ良いです。それじゃあ始めますよ!」
しかしエミリーは気にせずに、ガルグ達に解説を開始した。
無論、内容はガルグ一行が前に撃破した魔獣の事だ。
「まず最初に重要な事ですが、あれは魔獣ではありません」
だがエミリーはそれを否定した。いや魔獣の話ではあるのだが、魔獣は魔獣ではなかったらしい。
「どう言う意味だ?」
「そのままの意味です。アレは魔獣の複製品ですね。そこに居るティアちゃんに近いです」
ガルグが聞くとエミリーは言った。
「私が調べ始める直前に、本体は粒子になっちゃいました。慌てて採取したのがこれですが、精霊体の粒子に似ています」
そして、小瓶を取り出した。その中には赤くキラキラ光る、謎の粒子がふわりと舞っている。
「これからはこれを赤粒子。精霊のを青粒子とします。それでこの赤粒子なのですが、青粒子と性質が似ています」
そこからエミリーの話は続く。
「この赤粒子を用いておそらく、模造魔獣を作成したのかと。魔法を使えたことと言い、相当に高度な技術ですけど」
つまり話をまるっと纏めると、あの魔獣は赤い粒子で出来た──紛い物の魔獣と言う事だ。
「あ。鎧の方は消えてないので、こちらはオリジナルだと思います」
「こいつは、良くない状況かもな」
ガルグは聞いて眉に皺を寄せた。
「おいエミリー。その赤粒子だが、どの程度の時間その場に残る?」
「んー。たぶんその内消えますね。でもまだ少し残ってるはずです。事実こうして浮いてるワケですし」
エミリーが瓶をかざして言った。
「ならその粒子の跡は辿れるか?」
「それは今後の研究次第かと」
「“可能性は有るか”と聞いている」
ガルグは今こう考えている。偽魔獣の血や死体の一部は赤粒子に形を変えたはずだ。敵勢力がその跡を辿れば、自ずとこの国へと辿り着く。
エミリーもその事実に気付いたか、彼女の顔がみるみる青くなる。
「レイ。敵はこの場所を知ってるか?」
『ええ。貴方の想像通りかと。今まではバレてはいませんでした』
「だろうな。でなきゃ機兵を狙わずに、直接国を叩いていたはずだ」
何度か魔獣は出て来たが、全てマユやガルグを狙っていた。そしてマユは国には戻らずに、クーダー港を目指し逃げ込んだ。
「今からでも痕跡を消すべきね」
「この国の場所がまだバレてなきゃな」
マユの意見をガルグは補足した。
「取り合えずエルギアでやってみる。お前らは非常時に備えてろ」
エミリーの解説ショーは一変、人魚の国に緊張が走った。
2
ガルグはエルギアへと乗り込むと、人魚の国の泡の外に出た。一見するとただ幻想的な、いつものドームの外である。偽魔獣を殺して既に二日。波や海流も有る中で、目に見える痕跡は残らない。
「ティア。あの赤粒子を探せるか?」
そこでガルグはティアに聞いてみた。
こう言う事はティアの専門だ。何せ彼女も粒子で出来ている。
「試してみます。スキャニングを開始」
するとティアが痕跡を探し出す。
「粒子の波長検出に成功。エルギアのモニターに可視化します」
彼女が言ったとおりエルギアの、モニターと目にそれは可視化される。
赤い粒子がエルギアの周りの、海の中を漂い浮かんでいる。
「ふむ。大分拡散しているが……」
「この程度なら追跡可能かと」
ティアがガルグに嫌な事を言った。
つまり敵が無能でないのなら、この痕跡を辿ってくるはずだ。
事実それは直ぐに証明された。
「ご主人様。魔力反応です」
「あの魔獣だな?」
「魔力パターンは。数は一。接近してきます」
ティアが言うには蛇の魔獣らしい。
「複製品ならあり得るか」
ガルグは──言って身構えた。
一度は倒した相手だが、コピーならむしろ当然だ。
「取り合えず俺達で迎撃する。マユ達には護りを固めさせろ」
「了解。通信を開始します」
ティアがマユと話をする間、ガルグはエルギアを前進させた。
すると暫くして戦闘距離に──蛇魔獣サーペントが現れる。深海なので姿は見えないが、魔力で敵の動きくらい解る。それがモニターに出されているので、実質は見えているのと同じだ。
「鎧無し。完全に偵察だな」
ガルグはその姿を見て言った。
確かに魔獣は鎧も無しに、海の中を呑気に泳いでいる。おそらく戦わせる気など無い。人魚の国を探る個体だろう。
「取り合えずお前には消えて貰う」
ガルグは言うと魔法を撃ち出した。
「ガルグ流・海閃刃乱れ打ち」
水の刃が魔獣に乱れ飛ぶ。
鎧無しで鱗だけの魔獣だ。連射系の小さな魔法でも、命中すれば深い傷を負う。それをただ愚直に続けていれば、いずれ魔獣の息の根は止まる。
「死んだか。だが場所はバレてるな」
「そう考えて問題はないかと」
ガルグにティアが直ぐに同意した。
もしも黒幕が居るならば、魔獣に位置を教えさせたはずだ。一応到達までは防いだが、ここまで近づかれては意味は無い。国の位置はかなり絞られている。
と、そこでマユから通信が来た。
「ちょっとガルグ! 魔獣はどうしたのよ!?」
「今潰した。ぎゃーぎゃー五月蠅いぞ」
ガルグはその通信に返事する。
「俺は奴の痕跡を追ってみる。お前らは取り合えず国を護れ」
ガルグは言った後でティアに聞いた。
「ティア。出来るか?」
「おそらく可能かと」
魔獣にも体液があるはずだ。それは泳ぐ間に流れ出る。だが彼等がコピーである以上、その体液も粒子なのである。
「なら辿れ。ただし慎重に。罠だと感じたら直ぐ引き返す」
「了解。追跡を開始します」
ティアが応え、粒子を可視化する。
ガルグはその微かな跡を追い、暗い闇の中を進んで行った。
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