三章 第五話 シーン3〜4
3
ガルグ達がクーダーに着いた頃。既に太陽が落ちかけていた。人魚の国は海底にあるので時間感覚を狂わせる。
それからアズマにアポを取り、セシリアの真贋を確かめる。一度アズマにセシリアを預けて、二人きりで会話をさせるのだ。そうするとすっかりと夜になった。
その間ガルグ達は会議室。ガルグとティアとマユの三人は、特に会話も無くアズマを待った。
すると暫くしてアズマと自称セシリアが現れて、説明した。
「待たせたなガルグ。確かめてみたが、これは我が孫に相違ないらしい」
「ふぁーあ。そりゃ良かったな」
「ただし死後の記憶は無いようだ。だが情報は補填しておいた」
ガルグは聞いても居ないのに、アズマが色々と説明をした。
続きセシリアが前に出て、ガルグに向かって軽く会釈する。
「ガルグ様。ワケの有ることとは言え、数々のご無礼にはお許しを」
どうやらガルグに謝罪したらしい。だが本心で無いのは明かだ。今でも彼女の視線は鋭く、ガルグにグサリと突き刺さっている。
「敵愾心が滲み出ているな。ま、エルフに殺られればそうなるか」
毎度のことでウンザリしているが、人間から見るとガルグはエルフ。そのエルフに殺されたのだから、内心穏やかではいられまい。
「ふ。そう虐めるな。余計拗ねるぞ」
と、アズマがガルグに指摘した。
「アズマ。お前、孫には甘々だな」
「それが人間よ。どうにもならんわ」
そして更にアズマは開き直る。なんともアズマらしい見解だ。
とは言えこれで目的は果たした。ならば人魚の国に戻るべきだ。彼方では今もエミリーが、魔獣の死体を調査中である。
とは言えガルグも疲れているし、夜は休みたいのが本音である。
「まあ良い。セシリアはお前にやる。その代わり部屋を二つ用意しろ」
「今日はクーダーで休むのか?」
「俺だって寝たい時もある。ハーフも不死身じゃねーからな」
ガルグは言って一つ伸びをした。
しかし何気ないこのやり取りが、後に面倒を起こす事になる。
4
ガルグ達に宛がわれた部屋は、石造りの堅牢な物だった。今ガルグが殺されよう物なら政治的には地獄が待っている。対帝国問題も有る中で妥当な判断だと言えるだろう。
それに窓が無く景色は悪いが、家具や内装は凝っている。おそらくは急場しのぎであろうが、アズマなりに努力はしたはずだ。
まあ余程汚くでもない限り、ガルグもティアも文句は言わないが。
「まったく。俺も偉くなったもんだ」
ガルグは言いながら椅子に座った。革張りでふかふかの奴である。
だがガルグは直ぐに立つことになる。
「ご主人様。よろしいでしょうか?」
「内容にもよるが、まあ言ってみろ」
ガルグはティアに言われ立ち上がった。椅子は恋しいが仕方ない。
「近頃体調が少し変です」
そしてガルグがティアの前に立つと、何故かティアは目を背けて言った。その理由はガルグにも不明だが、発言は無視できない内容だ。
「いつからだ?」
「ゼイガス鎮圧戦。その開始直後だと思われます」
「つまりは分裂前からか」
ガルグはホッと胸をなで下ろした。分裂の問題でないのなら、今すぐどうこうと言うことはない。
しかしガルグには見落としがあった。それが直ぐガルグに突き付けられる。
「まあ良い。具体的に言ってみろ」
「胸が痛みます」
「なんかの病気か。精霊がかかるとは思えないが。因みにどんな時に胸が痛む?」
「最初はリリエ様と居た時に。最近ではマユ様と居る時に」
ティアがそれを口にした瞬間に、ガルグに一抹の不安がよぎる。
もしもガルグが思うとおりなら、付ける薬の無い難病である。しかも今思い返してみると、思い当たる節がそこそこにある。思えばリリエを乗せたとき、ティアは少し反応が遅かった。
「いやだが。どうやって確かめる?」
ガルグは腕を組んで考えた。
これは難解な問題だ。口にしてもしも間違っていたら、ガルグとしてはかなり恥ずかしい。いや恥ずかしいで済むならば良いが、これからの戦闘に支障が出る。
しかしレイレリアの言うとおりなら、解決するべき問題だ。それにここまで聞いて無視するなど、それはそれで問題になるだろう。
ええいままよ──と覚悟を決めた。ガルグも言うときは言わねばならぬ。
「ティア。違ったら聞き流せ。その症状は恋愛感情だ」
「なるほど。これが恋、ですか」
ガルグが意を決してティアに言うと、彼女はしっくりと来たようだった。
ガルグ君の人間関係図にハートがまた増えた瞬間である。問題に対処しているつもりが、むしろ問題が増えていくようだ。
「ご主人様。どうすれば良いですか?」
「知るか!」──と、ガルグは言いたかった。しかしそれでは前に進まない。エルギア強化のそのために、ティアと仲良くなる必要が有る。
「そうだな。俺と話すとか?」
「会話は、得意ではありません」
ティアに聞いてガルグも納得した。
だがそうなると手段は限られる。恋の一歩目に相応しく、かつ会話やデートが無しとなると──
「嫌だったら直ぐ突き放せ」
ガルグは言ってティアを抱き寄せた。もちろん優しく。優しくである。
するとティアは言葉は発しないが、ガルグを突き飛ばすことは無かった。
それから何秒経ったのか、ガルグ自身にも解らない。たった数秒のような気もするし、もっと長い時間だった気もする。
とにかくガルグはゆっくりと、ティアを放して、そして聞いてみた。
「どうだ? 体調に変化はあるか?」
ガルグ精一杯の努力である。人殺しや戦争などよりも、こちらの方が余程難しい。
だがどうやら成功したようだ。
「大丈夫です。上手く行きました」
ティアは顔を赤らめながら言った。
言葉通りかは不明だが、彼女が言うなら信じるしかない。
「ご主人様。時々で良いので、私を……抱きしめてくれますか?」
「まあ、お前がそれを望むなら」
ガルグは言うと照れ隠しのために、ぼふっとベッドに飛び込んだ。
第五話終。
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