三章 第四話 シーン4〜5
4
海底に造られた人魚の都市。隔絶されたお伽噺の国。
しかし人が暮らしている以上、基本的に大しては変わらない。
「見事にキャピキャピしているな」
「貴方も知っていると思うけど、人魚には女しかいないから。でも私もこの場所は苦手かな。レイ様が御触れを出してくれたし、囲まれることはないと思うけど」
「相変わらず視線は痛いけどな」
ガルグは周囲を見渡して言った。
とは言えここでうだうだしていても、事態が進展することはない。
「ええい。とにかく、この通りを歩く。ティア。興味があったら俺を止めろ」
「はい。了解しました。ご主人様」
そんな訳でガルグ達三人は大通りを練り歩いて行った。その街並みは非常に美しく、そこで様々な物が売っている。色とりどりの服にアクセサリ。もちろん全て女物であるが。食べ物にしてもスイーツが多く、いかにも女だけの街である。
そんな訳でひたすら前進し、ガルグ達は終わりに辿り着いた。
「で、見事に通りが終わったが?」
「申し訳ありません。ご主人様」
「謝るな。それよりワケを言え。何か少しでも気になった物は?」
「ありません」
「まあそうだと思ったよ」
ガルグはティアに聞いて納得した。
「私は精霊です。ご主人様。必要な機能は揃っています」
「なんか微妙にずれた回答だが。まあ良い。それなら次行くぞ」
まだ観光は始まったばかりだ。望みを投げ捨てるには早すぎる。
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そうしてガルグは気が付くと、ベンチの上で呪いを吐いていた。
「ここは地獄の国だ。間違い無い」
メインの通りを抜けた後、ガルグ達は街の中を回った。絵画や石像のある美術館。人魚の歴史的な建造物。図書館の中で本を読み漁り、人魚の暮らしを学んだりもした。
しかしティアはとにかく無表情で、ガルグだけがどんどん疲弊した。ただでさえ街中は苦手なのに、感性は全てが女性ベースだ。それが悪いとは言わないが、ガルグにとっては辛すぎる。
「申し訳ありません。ご主人様」
「だから謝るなティア。虚しくなる」
ガルグは力尽きたまま言った。
一方、マユの方は非情である。
「全く甲斐性が無いわね貴方」
「五月蠅い。ほっとけ」
「それはダメ。まだ最後の場所が残ってるから」
マユは言うと一人で歩き出した。
「でも安心して。大丈夫。最後の場所はきっと気に入るわ」
そして振り向いて彼女は言った。
5
人魚の国を被う泡のドーム。その発生源──つまり中心に、ガルグ達三人は向かっていた。
近づくのにも許可が要るのだろう。途中で兵士の居る関所がある。そこから更に真っ直ぐと進むと、貝がガルグの前に立ちはだかる。シャコ貝の一種のような形で、圧倒されるほどの大きさだ。
「これが例のアレか?」
「いえ。まだよ」
ガルグの言葉に答えると、マユは魔力を込めて宙を撫でた。
するとその貝がゆっくりと──蓋を開けて中身をさらけ出す。驚くほど巨大な虹の真珠。綺麗な球体をした『御神体』。それこそガルグ達がこの場所に、やってきた真の目的だ。
「こいつが御神体か。面白い」
確かにガルグは言われたとおり、今日一番の関心を示した。
「まるでエルフで言う大聖樹だな」
「実際、人魚はここで生まれるの」
マユがガルグに言われ、解説した。
「ここは自然の魔力が集う場所。この御神体が集めた魔力が、やがて形を成して人魚になる。人魚にとっては神聖な場所よ。だから敬意を持って接してね」
「敬意ね。まあ努力はしてみるが……」
ガルグは言ってそれに近づいた。
ジャンプして貝の殻に飛び移り、御神体と呼ばれる球の前へ。その下地の色は真珠色だが、表面は刻々と変化する。圧巻と言うよりは他にない、御神体の名に恥じぬ物体だ。
ガルグはその物体にゆっくりと、そして慎重に手を伸ばす。だがその手が接触する前に、御神体の方に異変が起きた。眩いほどの魔力の輝きが、放たれガルグの視界を被う。
「おい! なんだこりゃ!?」
「人魚誕生よ! でもこんな急になんて見たことが……」
マユがガルグに答える間にも、事態は刻一刻と進み行く。青い魔力の粒子が流れ出て、ガルグを無視しティアの方に向かう。
「ティア避けろ!」
ガルグも跳躍する。が、動いたのは粒子が先だ。
手を伸ばしたガルグの目の前で、ティアもまた青い粒子になった。言い換えれば体が消え去った。
そしてそれは空中で渦を巻き、やがて二つに分かれ地に落ちる。再びティアが実体化したのだ。ただし今回は二つになって。
「おいマユ。三秒で説明しろ」
「私にも何が起きたのか……」
「なら御神体に祈っとけ。俺は借りはキッチリ返す主義だ」
ガルグは増えたティアを見つめながら、強い殺気をマユに突き刺した。
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