三章 第三話 シーン5〜6
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人魚の国からはかなり離れた、水面に近い海の中。揺れる美しい光のベールに、機兵の装甲が照らされている。海中で向かい合う二機の機兵。一機はガルグのエルギアで、もう一機はマユの機兵のミュレだ。
ガルグとマユがこの場所に来たのは、無論決闘をするためではない。
「エミリー。データは取れてるな?」
「はい。ティア様からばっちりと!」
ガルグは通信魔法を使って、エミリーに大事な質問をした。
これからガルグはエルギアで、訓練とデータ取りをするわけだ。
「ならさっさと始めるぞ。おいマユ」
「私は貴方の手下じゃないの。気軽に命令しないでくれない?」
「確かに。しかし俺の性分だ。気にするなとは言わんが、気にするな」
思えばガルグが指示を出すなどと、随分と出世したものである。とは言えガルグが偉そうなのは、今に始まったことではないが。
取り合えず訓練はすべきだろう。無論マユの指導を受けてである。
「で、具体的にどうすればいい?」
「そうね。じゃあその場で旋回して。取り合えず好きな方向でいいわ」
「了解。まずは慣らし運転か」
と、言うワケでガルグは指示通りエルギアを色々旋回させた。エミリーの付けた装置を用い、海水をコントロールする。言うほど簡単な物でも無いが、エルギアは右に左に回る。どうやら調子は悪くないらしい。
しかしこれはまだ序の口だ。
「オーケー。じゃあ次は元に戻って、精密動作の訓練をするわ。上下左右にそれぞれ九十度、旋回して止めて直ぐに戻すの。出来るだけ正確にお願いね」
「理に適ってるな。了解だ」
ガルグはマユの指示を遂行する。とは言え完全には難しい。何も支えの無い海の中では、停止するだけでも難しいのだ。しかしそれが素早く出来なければ、戦闘には耐えられないだろう。
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それからもマユの指示を受け、ガルグは訓練し続けた。移動しながらの旋回に、高速移動からの急停止。
ガルグも不慣れなりに頑張ると、何とか形になってきた。まあ夕方までかかってしまい、海の中も赤くなってはいるが。
「残念だけど筋は良さそうね」
「何が残念なのかわからないが、確かにこれなら闘れそうだ。一応お前にも感謝してやる」
「一応じゃなくちゃんとしなさいよ」
ガルグとマユは皮肉を言い合った。だが仲が悪いと言う事はない。二人はどうにも馬が合う。理由は何故だか不明だが。
そんな二人の元に三度目の──蛇魔獣サーペントが現れる。
「ご主人様。魔力体、接近」
「例の魔獣か?」
「おそらくはそうかと」
ガルグの横に浮かぶティアが言った。
この二人が揃って海に居ると高確率で奴が来るらしい。とは言え今は対応策がある。
「腕試しの相手に丁度良いな」
「そうね。今ならやれるかも。誰かさんが邪魔さえしなければ」
「お前も最初は逃げてただろうが」
いつかは殺らねばならない相手だ。なら今戦うのも悪くない。
近くには守るべき拠点も無く、ここでなら自由に応戦できる。
「じゃあ待ちましょう。あの蛇が来るまで」
マユがまだ敵影も見られない、海の中を見てガルグに言った。
6
それは海中を悠々と、泳いでガルグ達に接近した。鎧を纏った魔獣サーペント。蛇のような体をうねらせて、視認できる距離まで接近する。
だが今回は二機の機兵がある。エルギアとミュレが協力すれば、撃破することも可能なはずだ。
などとガルグが考えて居ると、サーペントが魔法を繰り出した。
まだかなり距離のある状態から、回転する水の波動を放つ。それは魔獣の口から吐き出され、躱した二機の横を通過する。
「先制パンチか。悪くない」
「言ってないでこっちも反撃よ」
マユが言うと魔法を繰り出した。
「海閃刃!」
機兵ミュレの装備は鋭い穂先の三叉槍である。ミュレがそれを敵に向かって振ると、その軌跡が光って飛んで行く。地上でエルフが使うのと同じ、斬撃波を飛ばして斬る魔法だ。
だがそれはサーペントに躱された。とは言え、発想は悪くない。
「その魔法良いな。パクらせてもらう」
ガルグは言うとエルギアを動かし、剣を胸の前へと構えさせた。しかし同じ魔法を撃つだけなら、結果も同じになるだろう。
故にガルグは少し工夫した。
「ガルグ流・海閃刃乱れ打ち」
エルギアの側に次々と、水の刃が現れ飛んでいく。ミュレの物よりも小ぶりだが、その分連射が利く魔法である。それを散らして敵に発射すれば、いくら速くとも回避不可能だ。
事実それらはサーペントに当たり、鎧に傷を付け肌を切り裂く。しかし相手も腐っても魔獣だ。その程度で倒せるはずもない。
「へえ。やるじゃない」
「そう思ってるなら、さっさとトドメを刺してくれ。ただでさえ訓練で疲れてんだ」
「ん。了解。じゃあ凄いの行くわ」
マユが言われて詠唱を始めた。
「海神の持つ嵐を呼ぶ槍よ、渦を巻きその支配力を示せ」
すると海の魔力がミュレの槍に、集まり旋回し始める。その魔法を完成させるために、詠唱後も魔力を溜めて行く。
そして、どうやら完成したらしい。
「いいわガルグ。奴の動きを止めて」
「簡単に言うな。たく。誘導する」
ガルグはマユに言われて仕方なく、海水の刃を分散させた。わざと数を減らし動きを読んで、魔獣に反撃のチャンスを作る。
すると案の定魔獣の口から、水の魔力の渦が放たれる。非常に危険な手段だが、確実に当たるのはここだけだ。
「大海を穿て! 海神槍!」
ミュレの魔法とサーペントの魔法。二つが同時に放たれる。
だがその威力の差は明かだ。渦を真っ正面から貫いて、ミュレの槍が魔獣の口に入る。そしてそのまま体内を破壊し、鎧を突き破って外に出る。
いかに魔獣が強力と言えども、致命傷に十分なダメージだ。サーペントは血を吹き出しながら、その場で暴れ──そして停止する。
ぷかりと浮かんだその体から、最早力は微塵も感じない。
「どう? ご要望通りでしょ」
「ああ。久しぶりに良い狩りが出来た」
ガルグは機嫌の良いマユに言った。
この戦いでガルグが得たものは、人魚の安寧には留まらない。
「じゃ、この死体を下まで運ぶぞ」
これで魔獣の鎧を入手した。解析も対策も可能となる。
ガルグは言うとエルギアを操り、サーペントの死体を掴ませた。
第三話終。
今回はちょっと長い話でしたね。
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