三章 第二話 シーン1〜2
1
無骨な機兵の製造所。石造りの四角い建物に、作りかけの機兵が並んでいる。鎖で吊られた胸部や腕部。中には既に完成目前で、片膝をついている物もある。
だが何よりも驚くべき事はこの製造所の大きさだ。一つの建物で一機を作る、鉄機兵とはえらい違いである。
その横をガルグはマユに連れられ、ティアと共に歩いて進んでいた。
ガルグがこの場所にやって来たのは交換条件を呑ませたためだ。レイと契約をする代わり、ガルグを一度地上へと戻す。ついでに地上に戻るため、エルギアを少しだけ改造する。レイも儀式の準備があるらしく、お互いウィンウィンと言うワケだ。因みにマユは監視も兼ねている。
そんなワケでガルグは見て言った。
「ここでは縦で機兵を作るのか。鉄機兵とはだいぶ異なるな」
「機兵の製造技術では、この国は進んでいる方かもね。もちろんレイ様と契約すれば、この技術も全て貴方のものよ」
「ただより高い物は無いと言うが?」
「ひねくれてるのね。まあ良いんだけど」
マユは言いながら扉を開けた。そこは機兵製造所の中に、設けられた小さな一室だ。壁は半分ガラスになっており、製造している様子も見える。おそらく立場の高い管理者が、執務を行うための部屋だろう。
マユはその中に入っていくと、机をがさごそと漁り始めた。ガルグとティアもマユに次いで入り、立ったままでそのマユを待つ。
するとマユが目当ての物を見つけ、二人の前の机へと広げた。
「はい。これが水中活動用の、背部ユニットの構造よ。まあ海機兵用の物だから、そのまま取り付けるのは無理だけど」
それはマユが説明したとおり、背部ユニットの設計図だった。マユ達の機兵の背に着いていた、棒の形状をしたパーツである。
「ほーう。なるほど。こうなってんのか」
「貴方。わかって言ってるの?」
「当然だ。こう見えても学はある」
ガルグは設計図を見て言った。そもそも仕組みは難しくもない。
「要は周囲の水を操って、推進力に使う装置だろ。だがこれだと前や上はともかく、下や横には動きづらそうだな」
「ええ。だから普通機体の各部に、補助用のユニットを埋め込むの。まあそれを使いこなせるのなんて、人魚の中でも一握りだけど」
マユも、ガルグの見解を聞いてガルグの知見を認めたらしい。
しかしガルグには不満があった。
「良くホイホイ情報を教えるな」
「仕方ないでしょ。レイ様の指示なら。貴方、よっぽど信用されたのね」
「それが何故だかわからないんだが」
「本当に心辺りとかないの?」
「いや全く。小鳥の爪ほども」
ガルグが言うとマユが呆れている。
その反応をガルグが見る限り、どうも演技ではなさそうだ。
「レイ様のお考えは高尚で、私達では計れないのよね」
「ま、思いつきでないことを祈れ」
ガルグが言った、その時だった。ガルグ達の耳に声が響いた。
「マユ様! 持ってきましたよ!」
それは人魚の機兵からだった。二機の機兵がエルギアを担いで、この製造所へと持ってきたのだ。機兵達はそのエルギアを、取り合えず床にゆっくり寝かした。
と、同時に見知った猫ちゃんが、ガルグに向かって駆けてくる。
ガルグは小部屋のドアを開け、その猫──つまりルルを出迎えた。
「おおルル。元気だったか? ごふう!?」
するとガルグは頬にパンチされた。しかもそれなりに強力な奴だ。
しかしまあこれはガルグが悪い。ルルを囮に使った罰である。
「悪かったって。そんなに拗ねるなよ。後で毛繕いをやってやるから」
ガルグは言うがルルは拗ねたままだ。余程酷い目にあったと見える。
とは言えガルグもルルばかり、いつまでも構ってはいられない。
「さて。それじゃあさっさと済ませるか。ティア。お前も着いてこい」
「了解致しました。ご主人様」
ガルグはティアとルルを引き連れて、エルギアの操縦席へと向かう。
そしてその中に入り込み、直ぐにエルギアを立ち上がらせる。
「ちょっと! 暴れる気じゃないでしょうね?」
するとマユがガルグに聞いてきた。だがガルグもそこまで馬鹿ではない。
「んなことするか。改造するんだよ」
ガルグは言うと魔力を操作して、自らのイメージを転送した。
「ティア。今のが設計図になる。お前はチェックと微調整をしろ」
「はい。わかりました。いつでもどうぞ」
「なら直ぐ始める。しくじるな」
そしてガルグは魔法を起動した。
「ガルグ流・即席機兵改造」
言うとエルギアの背に木の蔓が、集まり二本のユニットを作る。細かい部分までも細い蔓で、精密に作り上げていく。
「よし。まあこんなもんで良いだろう。ティアも良くやった。休んで良いぞ」
「ありがとうございます。ご主人様」
礼を言われる謂われは無いのだが、取り合えずこれで完成だ。
自在に戦うのはまだ無理でも、クーダーに帰るくらいワケは無い。
「おーい。監視役。さっさと行くぞ。お前の機兵も持って来い」
そんなワケでガルグはマユに言った。
2
それから暫く経った海の中。ガルグとマユはそれぞれの機兵に、乗り込んでクーダーに向かっていた。もちろんティアとルルも一緒である。
エルギアに施した改造に、今のところ不具合は無いようだ。水面からまだ遠い水中を、エルギアは真っ直ぐに進んで行く。
「ふーん。調子はよさそうじゃない」
「まあな。おかげさまで好調だ」
ガルグはマユに言われ返事した。
実際、元のままのエルギアでは帰り着くだけでも大変だった。無論、魔法で水を噴射すれば不可能というわけでもないのだが。少なくともこんなに真っ直ぐに、水の中を進むのは不可能だ。
とは言え戦闘はまだ無理なので、マユが一緒に居るのは有り難い。監視が目的だとしても。
──と、その時だった。
「ご主人様。魔力体接近。おそらくは先ほどの魔獣かと」
ティアが言ってモニターを表示した。
半透明の二つの画面には、それぞれレーダーのような画像と蛇魔獣の絵が表示されている。
「同じ個体か? 回復が早いな」
「それは私には判りかねますが、魔力パターンは酷似しています」
ティアによるとクーダーに現れた、蛇魔獣で間違いないらしい。
「ちょっと! 私にも説明してよ!」
「クーダーに出た奴が来るらしい。お前を追いかけてたあの魔獣だ」
ガルグは言うと魔力を滾らせた。とは言えここは水の中である。どこまでやれるか分からない。
と、言うことはマユだけが頼りだ。
「お前、奴に勝てる自信あるか?」
「勝ててたら逃げてないと思うけど。正直、五分五分ってところかしら」
だがマユは五分五分と返事した。
出会ったばかりで連携も取れず、勝てるかも分からない機兵が二機。お互いに足を引っ張り合って、自滅する危険すら捨てきれない。
「仕方ない。おいマユ。お前の機兵、俺のエルギアに抱きつかせてくれ」
「ミュレを? なんで?」
「それが速いからだ。仕組みを知ってるなら分かるだろ?」
ガルグは一応、解説をした。
「このユニットは前と上に向けて進む方が遙かに速度が出る。二機の推進力を合わせるには、胸を合わせるのが効率的だ。邪魔にならず上に進めるからな」
「なるほど。つまり逃げるってワケね」
「わかったら早くしろ。追いつかれる」
ガルグは言って速度を低下した。
するとその前からマユの機兵ミュレがエルギアにしっかりと抱きつく。後は確度を変えて横倒しに。エルギアが上で、ミュレが下である。この状態で頭方向に、進めば理論上速度は上がる。
「よし。行くぞ」
「こっちも行けるわよ」
ガルグもマユも準備は万端だ。
そんな訳でガルグはカウントして、前進するタイミングを合わせた。
「三、二、一、ゼロ。今だ!」
するとガルグの狙い通り、今までより遥かに速く進む。
しかしガルグには誤算も合った。
「おい馬鹿! いきなり強すぎだ」
ガルグは言ったがもう間に合わない。
この推進方法を取る場合、二機のバランスが重要だ。もしもそれが釣り合わない場合は、力の弱い方に向けて曲がる。現在、弱いのはエルギアなので上方向に向けて突き進む。
そして二機は斜め上に向かって、トビウオのように飛翔した。
「あーあー。空に飛び出しちまったよ」
「貴方の推力が弱すぎたのよ」
「俺はお前に合わせるためにだな……」
などと言い合っている暇は無い。
何故なら直ぐに海に落ちるからだ。トビウオと違い機兵には、空気を捕らえて飛ぶ翼が無い。
よって二機は、放物線を描き、水面に向けて飛び込んだ。
「今度こそちゃんと合わせろよ?」
「わかってるわよ! 貴方も努力して」
そこからはジェットコースターだった。下に潜ったり、上に上がったり。だがそれでも速度は上がっており、魔獣に追いつかれることはない。
それに二人も徐々に慣れてきて、軌道も安定度を増して行く。
暫くその状態を続けると、遂にクーダー港の前に来た。後は港に突っ込まないように、上手くコントロールをするだけだ。
「一度潜って、それから飛び出すぞ」
「了解。貴方もしくじらないでよ?」
幸いクーダーに着いた時には、二人の息はピッタリ合っていた。地上に飛び出して着地するなど、二人には最早楽勝だ。
実際、二機は華麗に着地した。
「隊長! ご無事だったんですね?」
それを見たニノが話しかけてくる。ガルグが戻るのを待っていたとは。なんとも真面目なニノらしい。
「ですがそれは……どんな状況で?」
これまた真面目なニノらしい。しかし話すととても長くなる。
それに今は蛇の魔獣の方が、解説よりも余程重要だ。だが蛇魔獣はいつまで待っても、その姿を現すことはない。
「おいティア。蛇魔獣はどこ行った?」
そこでガルグはティアに聞いてみた。
「途中で追いかけるのを止めました」
するとティアがサラッと返事した。とっくに危険は去っていたらしい。これはガルグに取って朗報だ。
「それをもうちょっと早く言え」
しかしガルグの胸中には何故か、もやっとした物が残るのだった。
感想評価お待ちしております。




