二章 第十一話 シーン3〜5 & エピローグ
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ガルグに最早、安息の地は無い。自室に逃げ帰ったガルグだが、そこにはティアとリリエ、アリスが居た。
だが打って変わってここは静かだ。既に太陽も落ちており、光すらも主張を控えている。
「お帰りなさいませ。ご主人様」
ティアがガルグにそう言った以外は、賑やかな声などは聞こえない。まるで空気が重くなったようだ。猫のルルは気にせず寝ているが。
しかしリリエは意を決したように、ガルグに向かって頭を下げた。
「ガルグ様。ありがとうございます。お父様の仇が討てました」
「は。礼を言われる覚えはねえな。俺は邪魔者を排除しただけだ」
しかしガルグはリリエへと返した。
ガルグにとってゼイガスは危険だ。ただでさえ迫害されているのに、余計に命を狙われる。まあ元から狙われては居るので、変わりがないようにも思えるが。
「それでも……ガルグ様が居なければ、レグスは滅びていたでしょう」
なんにせよリリエはそれでも言った。
「誰も俺の話を聞かねえな」
「ガルグ様が嘘つきだからです」
言うとリリエがようやく微笑んだ。
「ガルグ様はお優しい方なのに、口では皮肉ばかり言っています」
「謙虚なんだよ。ああこれも皮肉だ」
ガルグはリリエに指摘され、言った。
するとリリエはなにを思ったのか、ナイフを手に取り首に宛がった。
「ガルグ様がいくら否定しようとも、私の望みは果たされました。もう思い残すことはありません」
「ブラフだろ? 俺じゃなくても分かる」
ガルグはその様子を見て言った。が、その言葉もまたブラフである。
ガルグはリリエの動きを見ながら、体に魔力と力を込めた。万が一、自害しようとしたとき、腕を掴んでも止められるように。
もちろん可能性は高くないが。
「さようなら。私のガルグ様」
しかしリリエは言って動き出す。腕に僅かだが力が込められ、ナイフが首に向けて進み出す。
その兆候を捉えられないほど、ガルグの観察力は悪くない。ガルグは瞬間床を蹴り、彼女の腕を掴みそれを止めた。
だがそれを見てリリエは微笑んだ。
「嵌めやがったな?」
「はい。嵌めました」
「どっちが嘘つきだ。狡猾すぎる」
ガルグは見事に嵌められた。だがガルグが制止していなければ、首が切りつけられたのは事実だ。死ぬ程ではなくとも傷を負い、鮮血が飛び散っていただろう。
それほどリリエは信じていたのだ。
しかしガルグが誰の気持ちにも、応えないのにはワケがある。
「あの。マスター、ちょっと良いですか?」
「アリスちゃん。どうかしましたか?」
そこにアリスが割り込んだ。
「お父様が女性を避けるのには、実は深い理由が有るのです」
その理由を説明する気らしい。つまりはガルグの過去である。
本来ならば止めるところだが、ガルグにはそれをする資格が無い。
「アリス。要点だけにしろ」
「はい。お父様。ではお話しします」
アリスはガルグに答えると、とある記憶について語り出した。
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これはまだガルグが若かりし頃。
ガルグは大きな傷を負い、森の中で一人死にかけていた。たまたま出会った人間達に、ガルグは殺されかけたのだ。ガルグはその頃まだ今ほどには、魔法を使いこなせていなかった。そんなワケでガルグは行き倒れて、最早死を待つだけとなっていた。
しかしガルグが目を覚ますとそこは、とある人間の家だった。
双子の姉妹──フィリアとアリス。彼女達がガルグを救ったのだ。二人はまだ若い少女だったが、親を亡くして二人暮らしらしい。そんなわけでガルグをかくまって、彼女達はガルグの手当てをした。
ガルグは二人の献身に報い、それから度々会うようになった。森の中で採取した物品を、彼女達にプレゼントするためだ。そのため待ち合わせの場所を決めてガルグは恩返しを続けていた。
だがそんな日々も長く続かない。会っているのが人にバレたのだ。
ガルグは二人を守るため、フィリアとアリスを連れ森を逃げた。しかし自分の身も守れないのに、二人を守り通せるワケがない。
そこでガルグは禁断の手段に、自分の血を飲ませることにした。このときガルグはまだあの儀式の、危険性を全く知らなかった。その上リリエの時とは違って、彼女達を守る聖剣も無い。聖剣が生まれる前の話だ。
こうしてこの小さな物語は、悲劇的な結末に行き着いた。
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アリスが語っている間、ガルグは一言も喋らなかった。何百年も前の出来事だ。何も無くても二人は死んでいる。それでもガルグは二人のことを、昨日のことのように思い出せた。
だからこそ聖剣にもなったのだ。
「フィリアとアリスを足してフィリアリス。これが私を作った記憶です」
アリスは悲しそうな顔で言った。
聖剣の人格を作るのは、ガルグの中の強い思い出だ。彼女がリリエを主人にしたのも、そう言うワケがあっての事だろう。
だがそれは魔剣のルナも同じだ。
「アリスには俺の親愛の情が、ルナには憎悪が注がれた。お前がどう思おうと勝手だが、戦争の根源はこの俺だ。その上で、お前を利用した」
ガルグはリリエに向かって言った。
しかしリリエの方は不思議なほど、落ち着いた雰囲気を纏っている。
「ガルグ様はそんな重い記憶を、内に秘めて……生きてきたのですね」
「おい。俺の話聞いてたか?」
ガルグはある意味リリエの仇だ。命を狙われても不思議は無い。だがリリエはガルグを責めもせず、むしろガルグに共感をしている。
ガルグは長い間生きてきたが、心というのは複雑怪奇だ。未だにガルグにも良くわからない。
「ガルグ様。私は死にません。ずっと貴方の側に寄り添います」
「鬱陶しい」
「ふふ。そうですね」
リリエはクスリと笑って言った。
「さあガルグ様。星を眺めましょう。いつまでもお付き合い致します」
そして彼女はガルグの手を取って、バルコニーへとガルグを導いた。
すると空には無数の星々が、二人が見上げるのを待っていた。ガルグはその星を静かに眺め、人の一生について考えた。
エピローグ
星も月も、太陽の光も、届かない海の深い場所。その暗がりを杖は音もなく、滑る様に前へと進んでいた。
深く深く。いずれまた地上に、闇が必要となるその日まで。
二章終わりです。
モチベーションがホントにまずいので、感想や評価をお願いします!(土下座
切りも良いですし。なにとぞなにとぞ。
それとストックが切れそうなので、一週間お休みを頂きます。
次回アップは七月二十一日を予定しています。よろしくです。




